アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 4th day 徹夜2日目の朝

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 次の日の朝、徹夜2日目を終えた護衛の騎士は城の庭で朝日を浴びていた。
 白い石でできた城壁は、朝日が当たりキラキラと輝いている。

 カイは眩しい朝の光をもってしても、なかなか意識がハッキリしないこともあるのだなと伸びをした。
 眠いのではなかった。
 断片だけが入ってくる情報に、謎が深まるばかりで落ち着かない。

 昨日のレナの涙と、ルリアーナの宗教で起きているらしい王女の神格化……。全ての情報が頭の中でやかましく騒ぐ。

(感情移入など、業務上なんの役にも立たん)

 そう思いながらも、自分は無力だと言って落ちこみ、少し声をかけただけで溢れ出すように泣いた王女を見てしまうと、まだ成人もしていない年齢の彼女を7歳の頃から神格化してきた国に対してやるせない気がしていた。

 カイも歓迎されない子ども時代を過ごした。
 両親の死後に一緒に暮らした血縁関係者からは、愛情に恵まれずに育っていた。それでも父親の遺した傭兵仲間たちと、その家族は自分を無条件に愛してくれた分、マシなのかもしれないと思う。

(本当に孤独だったのか)

「ハウザー様、朝食はどちらで取られますか?」
 カイの後ろで声がしたので振り返ると、ハオルが少し離れた廊下から声をかけていた。

「ああ、今日も自室に運んでいただけるとありがたいです」
 カイは返事をしてそろそろ自室に戻ろうと歩き出した。

「本日も、夜を徹して護衛を?」
 ハオルに聞かれて声も出さずに頷くと、
「お身体に障りますので、本日の夜は休まれては?応援はいつ到着するのですか?」
 と心配された。

「早ければ今日の夜、遅くなると明日の到着予定です。ご心配をどうも」
 カイはそう言って通り過ぎる。姿が遠くなっていくのを見ていたハオルは同僚に声をかけられた。

「ハオル様、新しい護衛のあの方はどうですか?」
「なんというか、男性の私でも惚れ惚れするような方ですね」
 ハオルが言うと、
「ああ、城内の女性陣が騒いでましたよ。有名な騎士の方らしいですね。あの髪の色、東洋の方ですか?青毛の馬のような不思議な色の髪で」
 と同僚はハオルからカイの情報を求めていた。

「ハウザー様はブリステ公国の子爵です」
 ハオルが言うと、
「ブリステ人にしては、変わった見た目ですね」
 と同僚は驚いていた。


 カイが自室に戻ると、ルリアーナの新聞と朝食が届いていた。
 新聞は国の情報を得るために、できるだけ届けてほしいとリクエストしてあったものだ。ルリアーナの新聞は、3日に1回程度、不定期に発行されるらしい。

 朝食のオープンサンドを食べながら、カイは新聞に目を通した。
 街のイベント情報や求人情報、飲食店の広告まで地域密着型の情報にあふれている。期待していた王族のことについては載っていなかった。

(国民にとっての王族の影響力が知りたいな)

 今回の号では特に知りたい情報を得ることはできなかった。
 コーヒーを飲みながら窓を開けてベランダに出る。今日もこれからレナを迎えに行き、見合いの同席予定である。

 昨日の見合い中には危険を感じることはなかったが、今回の相手はブリステ公国の隣国、リブニケ王国の侯爵家嫡男らしい。リブニケ人は気性が荒く、好戦的な国民性だった。

 カイが生まれ育ったブリステ公国は、リブニケの支配から脱するために50年ほど前にリブニケ王国から独立した国だ。ブリステで育った人間はリブニケに対して少なからずマイナスの感情を持っている。

(まさか、俺を知っている者ではないだろうが……)

 幾度となく訪れたことのある隣国からの訪問に、少し気持ちがざわついた。恐らく相手も護衛を付けてやってくるだろう。昨日のルリアーナ国内同士の見合いとは訳が違う。
 カイは気を引き締めてレナを迎えに行った。

「おはよう、カイ。今日も晴れて気持ちの良い日ね」

 レナは薄いピンク色のレースが掛かった、ブルーグリーンのドレスで現れた。髪はアップにして、やはり生花の髪飾りが付いている。カイは花の精が現れたら色はこんな感じかもしれない、と思ったが、口には出さずにひとこと「おはようございます」と挨拶をして礼をすると、前日と同じようにレナを部屋まで誘導した。
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