アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
7 / 221

the 2nd day 騎士団長の戦略

しおりを挟む
 カイは部屋に戻ると、早速自分の経営する騎士団宛に手紙を飛ばす手配を始めた。必要なものは侍女のサーヤに伝えると準備してもらえるようになっているらしい。
 レナは身支度や各種連絡などで2時間ほど護衛は要らないと言っていた。扉を開けて隣の部屋に声をかけることでレナの部屋にも声が聞こえるため、レナとカイの間をサーヤが行き来していた。

(人選は……そうだな、今は大きな仕事を抱えていない中でいえば、あいつと……折角だ、あいつがいいか)

 今回の仕事の応援要請を手配することにした。どんなに急ぎでも、応援が到着するのは恐らく3日はかかる。インクとペンで紙に内容を書きながら、頭の中を整理した。

(早速、3日間徹夜とはな)

 楽勝な護衛だと思っていたが、そうでもなかったらしい。報酬は良いので旨い話はそうそうないのだと納得するだけだ。
 そして、2通目の手紙に手をつけ始める。ルリアーナ内にいる協力先に向けての仕事依頼だった。

(12年前にあったことを、正確に把握しないと厄介だ)

 手紙を2通完成させると、サーヤに速達便の手配を依頼した。なるべく他の者に見つからない様に出すよう注意をしておく。
 そして、1時間ほど仮眠を取りたいと伝えて部屋に籠った。
 レナは、初日から見合いの護衛は大変だろうと気を遣って、見合いの予定は明日からにしていたらしい。

(たかが護衛に随分と優しい王女様だ。パースの『騎士物語』を読んだらしいが、あの話で美化された俺に勝手に想像を膨らませていたクチか)

 広いクイーンベッドに横たわる。
『騎士物語』がきっかけでカイを知る人間は、変に憧れを抱いてしまっているせいか実際に会うと勝手に落ち込むのだ。あの実話を基にしたフィクションのせいでカイはレディファーストで心の優しい紳士だと思われているが、実際は女性とのコミュニケーションが苦手な上、人に優しい言葉をかけられるような気の利いた人物ではない。恐らく今回の王女もそのうち自分に失望するのだろう、それはそれで構わないが。

(妙な妖術か……)

 物語の中にも記述はされていない事実。カイは自分の掌を見つめる。普段は殆ど使っていない自分の能力は、妖術だと言われればそういうものかもしれない。その能力を知ってか知らずか、あの王女は『特技』と言っていた。

 そして、ルリアーナの政治家にカイが特殊な能力を使うことを知られていた。隣国のパースで活躍したことがあれば、同盟国にまで情報が伝わっていてもおかしくはない。ただ、何かが引っかかっている。

(こちら側に情報がなさ過ぎてスッキリしないな)

 今回の仕事依頼が来た際に、ルリアーナ拠点の協力先には王女や国に関する情報を集めてもらった。だが、そこには国王夫妻が12年前に他殺されたことや、見合いの中止を求める脅迫状のことは何も書かれていなかった。
 国民に慕われる若く美しい王女と、その見合いの行方は国民の娯楽にもなっているらしいことは書かれていたが。

 ルリアーナ王国は、王族の情報が殆ど外に出ないのかもしれない。情報屋が頼れないとなると、城内や街に出ての情報収集が必要か。

(やることが多いな……)

 戦場に入れられた訳ではないのに、まるで戦地のど真ん中にいる気分だった。
 横たわった豪華なクイーンベッドのスプリングは素晴らしかったが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...