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the 2nd day 2人の共通点
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レナは、カイとの話を終えて自室に戻る。
部屋には先程お茶をいれてくれた侍女がいた。
「まぁ、レナ様。お話は無事に終わりましたか?」
自分より少し年齢が上で自分付きの侍女の姿にレナは目を細めると、
「ねぇ、お茶をあのタイミングで持ってきたのはワザとね?あなた、ハウザー様を見に来たんでしょう?」
と聞くと、まあ無理もないわね、と笑った。
「すみません、どうしても気になって」
この素直なこの侍女をレナは気に入っている。
「で、どう思ったの?あの方のこと」
参考程度に聞いておくことにした。自分と同じような感想だろうか。
「いえ、もう、なんというか、あんなに素敵な方は人生で初めてで……」
そう言う侍女の様子が何やらおかしい。頬は高潮して真っ赤になっている。
「だ、ダメよ?サーヤ。あの方は有名なブリステ公国の騎士団長で、仕事で一時的にこちらに来ているだけなのだから」
そうは言ったものの、何がダメなのか、レナも混乱していた。この調子では、城内の若い女性が次々に同じようにカイの魅力に堕ちて行くのではないだろうか。
「困ったわね、あの方も普段どうやって生活しているのかしら……目も合わせずに女性を落とせるなんて、普通じゃないわ」
レナ自身も、カイは噂以上の魅力的な男性だと思う。カイの存在を耳にした時から、自分の近くで護衛を任せることができたらどんなにか素敵だろうと思っていた。ただ、恋愛など縁のない王女にとっては、憧れと恋愛が結びつかない。
サーヤは、このままカイの任期中に告白でもして付き合いたいとでも思ったのだろうか。自由恋愛はつくづく庶民の特権だなと羨ましくなる。
「レナ様の護衛にハウザー様がつくなんて、お2人が並ばれたらとても見栄えがしますね。ああ、でも、お見合い相手は気後れしてしまうかも」
サーヤはそう言って部屋を出て行く。
(気後れね、確かに隣にあんな男性が立っていたら若い男性を侍らせているようで、嫉妬されてしまうかもしれないわ)
それならそれで、そんな見合い相手は御免被るわね、と気を取り直してレナは机の上の資料に目を通すことにした。
カイは先程の部屋でレナが戻っていくのを確認すると、自分も別の扉から部屋に戻る。
レナから伝えられた内容には、少し気なる話があった。
見合いを始めてから何度か脅迫状らしいものが届くようになったこと、脅迫は見合いを中止にするように警告されていたこと、7歳の時に亡くなった両親の死因は明らかにされていないが、恐らく他殺であること――。
治安の良さにばかり目が行っていて気が付かなかったが、どうやら巧妙な悪意がどこかに潜んでいるようだ。
思ったよりも、護衛の意味はあるのかもしれない。そして、恐らく何らかの計画が裏で動いている可能性があり、自分の仕事のために情報収集も必要になる。
当初懸念していた王女の子守業務というわけではなく、ちゃんと護衛としてやり甲斐のありそうな事件が眠っていることは、この騎士団長にとっては収穫だった。
タメ語で話せなどと命令をされたのは心外だったが、組織のトップが外部に気の置けない相談相手を求めることは決して珍しいことではない。
レナは、これまでの護衛は1週間で契約を終了していたと言っていた。自分の婚約者候補に会っている間の護衛の存在が耐えられなかったことや、相談相手として信頼関係がおよそ築けなかったことが原因だったらしい。
長らく戦争をしないで平和を守ってきた豊かなルリアーナは、軍隊を抱えていない。護衛を依頼する相手も、あまり経験のない人材しかいなかったのか、選択肢が少ないかだったのだろう。他国からわざわざ自分を呼んだのは、あまり年齢の変わらない有名な騎士団長に対する興味が大きかったに違いない。
(まさか、子どもの頃に両親を亡くしているという共通点だけで、俺を呼び出したとは思えないが)
レナは、カイが幼い頃に両親を亡くしてから、騎士団長になり有名になった過程までを知っていた。国民の税金を使って安くない金額を払うのだから、あらゆることを調べられていても不思議ではないが、生い立ちの部分に興味を持たれたことはあまりなかったので、新鮮で悪い気はしていなかった。
言われてみれば、カイは常に孤独の中にいた。
両親には自分の誕生が理由で先立たれ、縁を切られていた母方の祖母に引き取られてから、見た目が異質と恐れられ、周りの人間の役に立つことで存在を認めてもらうことしかできなかった。王女も、綺麗事ではない大人の思惑の中で必死に生きてきたのだろうとすぐに想像がつく。
王位継承者が若い女性というだけでも国は不安定になる。王女の受けてきたプレッシャーは、小さい騎士団経営を営むだけで必死になっているカイには想像もできないものだろう。
あの王女の要望からして、自分は1週間の雇用契約を更新することは出来そうだ。少し応援を頼むタイミングを作り、騎士団の本部とも連携しておこうと思い立つ。
カイはトレーニングを始めると、そういえば食事はどこでどうするのか聞き忘れたな、と思い出した。
部屋には先程お茶をいれてくれた侍女がいた。
「まぁ、レナ様。お話は無事に終わりましたか?」
自分より少し年齢が上で自分付きの侍女の姿にレナは目を細めると、
「ねぇ、お茶をあのタイミングで持ってきたのはワザとね?あなた、ハウザー様を見に来たんでしょう?」
と聞くと、まあ無理もないわね、と笑った。
「すみません、どうしても気になって」
この素直なこの侍女をレナは気に入っている。
「で、どう思ったの?あの方のこと」
参考程度に聞いておくことにした。自分と同じような感想だろうか。
「いえ、もう、なんというか、あんなに素敵な方は人生で初めてで……」
そう言う侍女の様子が何やらおかしい。頬は高潮して真っ赤になっている。
「だ、ダメよ?サーヤ。あの方は有名なブリステ公国の騎士団長で、仕事で一時的にこちらに来ているだけなのだから」
そうは言ったものの、何がダメなのか、レナも混乱していた。この調子では、城内の若い女性が次々に同じようにカイの魅力に堕ちて行くのではないだろうか。
「困ったわね、あの方も普段どうやって生活しているのかしら……目も合わせずに女性を落とせるなんて、普通じゃないわ」
レナ自身も、カイは噂以上の魅力的な男性だと思う。カイの存在を耳にした時から、自分の近くで護衛を任せることができたらどんなにか素敵だろうと思っていた。ただ、恋愛など縁のない王女にとっては、憧れと恋愛が結びつかない。
サーヤは、このままカイの任期中に告白でもして付き合いたいとでも思ったのだろうか。自由恋愛はつくづく庶民の特権だなと羨ましくなる。
「レナ様の護衛にハウザー様がつくなんて、お2人が並ばれたらとても見栄えがしますね。ああ、でも、お見合い相手は気後れしてしまうかも」
サーヤはそう言って部屋を出て行く。
(気後れね、確かに隣にあんな男性が立っていたら若い男性を侍らせているようで、嫉妬されてしまうかもしれないわ)
それならそれで、そんな見合い相手は御免被るわね、と気を取り直してレナは机の上の資料に目を通すことにした。
カイは先程の部屋でレナが戻っていくのを確認すると、自分も別の扉から部屋に戻る。
レナから伝えられた内容には、少し気なる話があった。
見合いを始めてから何度か脅迫状らしいものが届くようになったこと、脅迫は見合いを中止にするように警告されていたこと、7歳の時に亡くなった両親の死因は明らかにされていないが、恐らく他殺であること――。
治安の良さにばかり目が行っていて気が付かなかったが、どうやら巧妙な悪意がどこかに潜んでいるようだ。
思ったよりも、護衛の意味はあるのかもしれない。そして、恐らく何らかの計画が裏で動いている可能性があり、自分の仕事のために情報収集も必要になる。
当初懸念していた王女の子守業務というわけではなく、ちゃんと護衛としてやり甲斐のありそうな事件が眠っていることは、この騎士団長にとっては収穫だった。
タメ語で話せなどと命令をされたのは心外だったが、組織のトップが外部に気の置けない相談相手を求めることは決して珍しいことではない。
レナは、これまでの護衛は1週間で契約を終了していたと言っていた。自分の婚約者候補に会っている間の護衛の存在が耐えられなかったことや、相談相手として信頼関係がおよそ築けなかったことが原因だったらしい。
長らく戦争をしないで平和を守ってきた豊かなルリアーナは、軍隊を抱えていない。護衛を依頼する相手も、あまり経験のない人材しかいなかったのか、選択肢が少ないかだったのだろう。他国からわざわざ自分を呼んだのは、あまり年齢の変わらない有名な騎士団長に対する興味が大きかったに違いない。
(まさか、子どもの頃に両親を亡くしているという共通点だけで、俺を呼び出したとは思えないが)
レナは、カイが幼い頃に両親を亡くしてから、騎士団長になり有名になった過程までを知っていた。国民の税金を使って安くない金額を払うのだから、あらゆることを調べられていても不思議ではないが、生い立ちの部分に興味を持たれたことはあまりなかったので、新鮮で悪い気はしていなかった。
言われてみれば、カイは常に孤独の中にいた。
両親には自分の誕生が理由で先立たれ、縁を切られていた母方の祖母に引き取られてから、見た目が異質と恐れられ、周りの人間の役に立つことで存在を認めてもらうことしかできなかった。王女も、綺麗事ではない大人の思惑の中で必死に生きてきたのだろうとすぐに想像がつく。
王位継承者が若い女性というだけでも国は不安定になる。王女の受けてきたプレッシャーは、小さい騎士団経営を営むだけで必死になっているカイには想像もできないものだろう。
あの王女の要望からして、自分は1週間の雇用契約を更新することは出来そうだ。少し応援を頼むタイミングを作り、騎士団の本部とも連携しておこうと思い立つ。
カイはトレーニングを始めると、そういえば食事はどこでどうするのか聞き忘れたな、と思い出した。
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