パリ15区の恋人

碧井夢夏

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東京の恋人 1

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 彼女とは、会社の後輩を通じて知り合った。

 その後輩は独り身のうちにマンションを購入して、パーティのようなものをしょっちゅう開いている。
 そんなことをやっているから軽そうに思えるけど、律儀な奴で、オレに女気がないことを気にしてその場に誘ってくれるくらいの好青年だった。

 海外の仕事を任されることも増えて、仕事は忙しくなる一方。
 彼女が欲しいと思わないわけじゃない。でも、恋愛は面倒だ。
 駆け引きとか、連絡をこまめに取らないと機嫌が悪くなられるとか、デートは週に1回はした方が良いとか、考えるだけで無理だと思った。

 後輩のホームパーティには自分より3~4歳くらい若めの、25歳くらいの男女が集まっていた。
 そりゃ、後輩の友達だからそうなるわなと思いながら、オレは黙々と料理を広げたり皿を配ったり、会場係のようなことばかりしていた。

 学生時代、礼儀にうるさい運動部にいたせいか、こういう行動が染みついてしまっている。

「すいません、ありがとうございます」

 他の誰もが気にも留めなかった中で、一人だけそう言って手伝ってくれる子がいた。
 彼女はストレートのセミロングに活発そうな顔で、単純なオレはいい子そうだなと好印象を持った。

「いや、こちらこそありがとう……」
「私、今日初めてここに来たんですけど、よく来るんですか?」
「いや、オレも初めてです」
「あ、そうなんですね? 家人とは?」
「先輩と後輩……会社の」
「ああ」

 そんな会話をしている、なんでもない時間が妙に嬉しかった。
 有り体に言えば、人は簡単に恋に落ちるってことらしい。
 オレは、図々しいかなと思いながら、彼女に連絡先を聞いた。
 今度食事でもどうですか? と尋ねると、いいですね、と言ってくれた。

 女の子と連絡を取り合うのは面倒だと思っていたくせに、ちょっとした空き時間に彼女の声が聴きたくなった。
 出会ったばっかりで電話をしてくるような男なんてキモイよなと自制して、なんとかメッセージアプリでのメッセージに留めた。

 彼女は、本が好きな25歳の会社員だった。
 共通の趣味もなく、会話の内容にもちょっぴり困ることがあって、その度に彼女が色々な話をしてくれた。
 物知りだね、と言うと、本だけは読んできたからかな、と彼女はいつも謙遜した。

 3回目のデートの時、振られてもいいからと自分の気持ちが抑えきれなくなって告白した。
 付き合ってください、と言うと、彼女は「はい」と答えてくれた。

 人生が薔薇色になるというのは、こういうことかと本気で思った。

 仕事は相変わらず忙しくて、30歳を前にキャリアアップを考える年齢になっていた。
 今の会社に不満があるわけじゃないけれど、もっとやりたいことがやれる会社に行きたい。
 彼女に胸を張れるように、毎日を妥協するのはやめよう、と転職活動を始めた。

 転職活動をしていたことを彼女に話さなかったのは、今思えば、どこにも雇われなかったらカッコ悪いという気持ちがあったからだろう。
 思った以上にあっさりと次の会社が決まり、オレは次の勤務先に移るべく動き始めた。

 転職のことを言わなきゃなと思っていた時、彼女から「会社からリフレッシュ休暇というのが出て、5日間自由に休めるみたい」と言われた。

 運命だ、と思った。
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