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組織 2
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「シンさんって、ブリステ公国のハウザー騎士団で副団長をされている方ですよね?」
「ああ」
「ライト商事のロキ社長と親友だとかいう……」
「ああ」
カイは、その有名人の存在を忘れていた。
かつてカイの部下だったロキは、今やすっかりブリステ公国の富豪代表だ。カイの親友でもあるロキは、会社を大きくしながら世界中に拠点を作っていた。
「そのロキは、なんと女王に惚れていたんだ」
「ええっ?!」
部下が一斉に驚いていた。
ロキと言えば女性に困ってなどいない青年実業家で、交友関係も派手だった。
平民出身という身分で、王侯貴族などの上流階級を好まないと言われている。
「どれだけ女王が男を狂わせるのか分かるだろう……」
「それは……想像以上なのでしょうね……」
部下たちが騒然としていた。レナは絶世の美女というのにはどこか素朴で少女のような印象を与える女性だ。
そんな女王が、ブリステ公国でも特に派手な青年実業家の想い人だったという事実を知る。
ブリステ公国の公王、アロイス・ブリステもかつては女王に恋い焦がれてカイの結婚を邪魔していたのも有名な話だった。
「総督も、女王陛下に狂わされた一人ですもんね」
「……いや、狂わされたつもりはないんだが」
「女王陛下と一緒の時の総督は、随分と様子が狂っていましたけど……」
部下の鋭いツッコミにカイは無言になった。
レナといる時の自分はそんなにおかしいのだろうか、カイ本人は全く気付いていない。
「でも、任務とはいえ自分たちが守る国と女王様のことは、もっと色々知りたいです」
「そうですね、命を懸けるわけですし」
部下の何名かがせがむように言うので、カイは「産後、落ち着いたらここに連れて改めて紹介しよう」と安請け合いをした。
レナは嫌がらないだろう。ただ、産後に落ち着くことなどあるのか、カイはよく分からなかった。
*
カイは一日の業務を終えて金曜の城下町を愛馬のクロノスと共に眺める。
ナイトマーケットが開かれているのを横目に、クロノスの手綱を引いてゆっくりと歩いた。
この日はすっかり遅くなってしまった。
空にはすでに星が輝いている。肌寒い夜の喧騒を抜けて、レナのいる城に戻ってきた。
カイはクロノスを厩舎に預けていつも通りの階段を上り、最上階の部屋に向かう。
もう、レナは寝ているのかもしれない。
静かに扉をノックし、反応がないのでゆっくりと扉を開けた。
暗い部屋に、ソファ脇に置かれたランタンの灯りがぼんやりと明るい。
「レナ……?」
部屋のどこかにレナの「気」を感じるのに、姿が見えない。
カイは焦って部屋に入り、ランタンを持ちあげて部屋中を探す。
「レナ?!」
ベッド脇で、しゃがみ込んで脂汗を浮かべるレナが小さく呻いていた。
「遅くなってすまなかった、どこか痛むのか?!」
レナは呻き声を上げるばかりで、喋ることすらできていない。
「誰か!!」
カイは焦って使用人を呼んだ。バタバタと忙しない足音がして数名が駆け付ける。
「女王陛下が! 誰か診られる者を!」
カイはレナを抱き上げてベッドに寝かせながら、初めて見る様子に不安ばかりが募る。
(大丈夫だ、きっとこれは異常ではない。きっと……)
レナの頭をゆっくりと撫でながら、何もできない自分に胸が搔きむしられた。
(落ち着いたら、部下に紹介すると約束して来たばかりなんだ。早く、いつも通り笑ってくれ……)
駆け付けた医師と産婆に、レナは服を脱がされて腹部の触診をされている。
その様子を診ながら、カイはただ祈ることしかできなかった。
「ああ」
「ライト商事のロキ社長と親友だとかいう……」
「ああ」
カイは、その有名人の存在を忘れていた。
かつてカイの部下だったロキは、今やすっかりブリステ公国の富豪代表だ。カイの親友でもあるロキは、会社を大きくしながら世界中に拠点を作っていた。
「そのロキは、なんと女王に惚れていたんだ」
「ええっ?!」
部下が一斉に驚いていた。
ロキと言えば女性に困ってなどいない青年実業家で、交友関係も派手だった。
平民出身という身分で、王侯貴族などの上流階級を好まないと言われている。
「どれだけ女王が男を狂わせるのか分かるだろう……」
「それは……想像以上なのでしょうね……」
部下たちが騒然としていた。レナは絶世の美女というのにはどこか素朴で少女のような印象を与える女性だ。
そんな女王が、ブリステ公国でも特に派手な青年実業家の想い人だったという事実を知る。
ブリステ公国の公王、アロイス・ブリステもかつては女王に恋い焦がれてカイの結婚を邪魔していたのも有名な話だった。
「総督も、女王陛下に狂わされた一人ですもんね」
「……いや、狂わされたつもりはないんだが」
「女王陛下と一緒の時の総督は、随分と様子が狂っていましたけど……」
部下の鋭いツッコミにカイは無言になった。
レナといる時の自分はそんなにおかしいのだろうか、カイ本人は全く気付いていない。
「でも、任務とはいえ自分たちが守る国と女王様のことは、もっと色々知りたいです」
「そうですね、命を懸けるわけですし」
部下の何名かがせがむように言うので、カイは「産後、落ち着いたらここに連れて改めて紹介しよう」と安請け合いをした。
レナは嫌がらないだろう。ただ、産後に落ち着くことなどあるのか、カイはよく分からなかった。
*
カイは一日の業務を終えて金曜の城下町を愛馬のクロノスと共に眺める。
ナイトマーケットが開かれているのを横目に、クロノスの手綱を引いてゆっくりと歩いた。
この日はすっかり遅くなってしまった。
空にはすでに星が輝いている。肌寒い夜の喧騒を抜けて、レナのいる城に戻ってきた。
カイはクロノスを厩舎に預けていつも通りの階段を上り、最上階の部屋に向かう。
もう、レナは寝ているのかもしれない。
静かに扉をノックし、反応がないのでゆっくりと扉を開けた。
暗い部屋に、ソファ脇に置かれたランタンの灯りがぼんやりと明るい。
「レナ……?」
部屋のどこかにレナの「気」を感じるのに、姿が見えない。
カイは焦って部屋に入り、ランタンを持ちあげて部屋中を探す。
「レナ?!」
ベッド脇で、しゃがみ込んで脂汗を浮かべるレナが小さく呻いていた。
「遅くなってすまなかった、どこか痛むのか?!」
レナは呻き声を上げるばかりで、喋ることすらできていない。
「誰か!!」
カイは焦って使用人を呼んだ。バタバタと忙しない足音がして数名が駆け付ける。
「女王陛下が! 誰か診られる者を!」
カイはレナを抱き上げてベッドに寝かせながら、初めて見る様子に不安ばかりが募る。
(大丈夫だ、きっとこれは異常ではない。きっと……)
レナの頭をゆっくりと撫でながら、何もできない自分に胸が搔きむしられた。
(落ち着いたら、部下に紹介すると約束して来たばかりなんだ。早く、いつも通り笑ってくれ……)
駆け付けた医師と産婆に、レナは服を脱がされて腹部の触診をされている。
その様子を診ながら、カイはただ祈ることしかできなかった。
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