数字で恋する男爵令嬢

碧井夢夏

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エピローグ

家族

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 今、私には大切な家族がいる。

 数学者のパパ、いつも笑っているママ、私を深く愛してくれる夫、そして子どもたち。
 あとは、夫の家族も私の大切な人たちになった。

 シンと結婚してから、最初に女の子、次に男の子ができて我が家は賑やかだ。

 私は正直、子どもが苦手だった。
 だから本当はやだなーやだなーって思いながら妊娠して出産して、自分の子どもを愛せるか自信がなかった。

 でも、シンは心から喜んで子どもと毎日楽しそうで。
 そんなシンを見ていたら、私がそれまで抱えていた心配事などどこかにいってしまった。

 好きな人が嬉しいことが嬉しくて、今までと違う笑顔を見せるようになったシンを見ていたら……私にとっても子どもが大切な存在になっていた。
 娘とシンの取り合いをしながら、毎日毎日私たちは元気に暮らしている。

 シン……結婚して最近爵位を継いでくれたシンフォール・マクウェルは、ハウザー騎士団の副団長であり、国内でも有名な騎士のひとり。
 特に、騎士の新人教育と若手の育成に定評がある。

 *

「もう子どもたちは寝た?」
「うん、やっと寝たところ」

 シンは毎日子どもたちを寝かしつけて、それから私のところにやってきてくれる。
 育児に積極的というか、子どもが好きで好きでたまらないんだって。たまに本気で妬ける。

「今日、結婚記念日だけどさ……」
「あれ、そうだったっけ?」
「そういうの、すぐ忘れるね。日付も数字じゃないの? 人の数字は全部丸暗記してるのに」

 シンはそう言うと、どこから出したのか私の目の前に赤いバラを一本差し出した。

「こんな俺と結婚してくれて、ありがとう。変わらず愛してます」
「ありがとう、184㎝、99㎝の騎士様」
「ここで身長と股下は要らないかな……」

 私はバラを受け取って、夫の気持ちを確認することにした。

「私と結婚して良かったでしょ?」
「うん、毎日最高だと思ってるよ」
「ちなみに、どんなところが……?」
「さて、どこでしょう??」

 勿体ぶって教えてくれないからムカついて、私は受け取ったバラでシンの顔をぶつ。

「いやいや、そういう使い方は止めようよ。花が散る」
「本当は最高だなんて思ってないんでしょう?!」

 シンは私を抱きしめて、私の口を口で塞いだ。
 こうなると私は途端に弱い。シンの気持ちが直に伝わってきて、なんでも有耶無耶になってしまう。

 昔、この行為を嫌悪していたことがあった。
 人が人を求める行為が、怖く見えた。
 今は、自然に大切な人を求めてる。私の下手な言葉よりも、伝わるから。

「ねえ、ちょっとだけ……新婚の頃を思い出さない??」
「悪いけど、俺は毎日思い出してるよ」
「ええ? 未だに?」
「悪い?? だから、毎日最高だと思ってるって言ったんだけど」

 本当かしらと疑いの目を向けたけど、考えてみたら思い当たる節もある。
 シンは、何故か毎日私に「可愛い」って言うのを欠かさないし、実は私たち新婚当時と変わらず愛してるを言い合って、じゃれ合ってから眠りにつく。

「そっかあ、毎日最高だと思っていると、ああいう行動になるのね」
「もしかして、リリスはとっくに冷めてた?」

 焦るシンに、思わず笑ってしまう。

「ふふっ……あは、あははははっ……」
「どういう反応だよ?!」
「実は私、新婚当初よりシンのことがどんどん好きになってるの」

 私たちは毎日家族になって行く。
 それは単に落ち着くってことじゃなくて、相手を知って尊重していくこと。
 私は夫の全部が好きで、だから彼と結婚できた私の人生は薔薇色だ。

「これからも、情熱的に愛してくれる?」
「かわいいな、おい」
「勿論、あなたの妻ですから」

 たまには素直になって甘えるのが、夫婦円満の秘訣かな。

 ーー多分、ね。





<おしまい>
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