数字で恋する男爵令嬢

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
33 / 35
一緒に生きていく

あなたと私

しおりを挟む
 シンのお父様は、最近よく喋るようになったらしい。
 久しぶりに私のような人間が現れて、生きる気力が湧いたんだろうと言っていた。

 お父様のことで結婚を躊躇していたシンは、これで心置きなく私と一緒になれる。

 と思ったのに、カイがシンに遠方の任務を入れて来た。
 ルリアーナ王国の王女様の護衛任務だ。

 よりによって王女様の護衛……。
 私が嫉妬してしまうような任務をよくも……。

 噂によると、ルリアーナの王女様というのは美人で可愛らしくて性格が良くて、出会った男の人がみんな骨抜きにされてしまうような方らしい。
 金髪碧眼の美女、そんな人の側に付いてお仕えするなんて。

「ようやく結婚できると思ったのに……。よりにもよって王女様の護衛なのね」
「まあ、仕事だから。すぐ帰って来るよ。そしたら、早く式を挙げよう」
「かわいい王女様の護衛で浮かれてるんでしょ?!」

 私はちっとも落ち着かない。
 結婚を急いでいるわけではないけれど、シンはどんな人にも優しいし、誰にでも平等だから妬けてくる。

 勿論、私はシンからそれはそれは愛されている、けれど。

「私、最近気付いたの。シンって無意識に色気を出してる時がある」
「ええ??」
「それを誰かに見られちゃうと思うと……やきもきするのよ!」
「いや、そんなこと言われてもなあ……」

 色気なんて出してないし、とシンは否定する。
 だけど、私は知っている。
 その目に見つめられると、身動きができなくなるくらいに囚われてしまうこと。
 あなたが私を抱きしめる前、ふっと和らげるその顔がとんでもなく色っぽいってこと。

「浮気しちゃ、やだ……」
「しないよ」
「私を見る時の目で、他の女の人を見ちゃダメ」
「……どの目だろ……俺、目は2つしかないんだけど」
「そういうことを言ってるんじゃないのよ!」

 私は相変わらずすぐに頭に血が上るし、嫉妬深いし、やかましいし、素直じゃないし、口が悪いし、可愛くない。

「ごめんって。変なことを気にするから揶揄からかいたくなったんだよ」
「変なことって何よ。失礼ね」
「俺のことを好きになるような変わった子、リリスしかいないのに」

 シンは時々、そういうことを平気で言う。
 そんなわけがない。シンは自分の魅力を低く見積もりすぎていて、分かっていないから私がこんなにハラハラする羽目になるのに。

「そんなわけないでしょ? あなた自分のこと鏡で見たことある??」
「あるに決まってんだろ。毎日大したことないよ、相変わらず」
「馬鹿じゃないの? 大抵の女性は口説き落とせる外見だわ」
「いや、それはない。変なこと言うなよ」

 睨み合って、何故か言い合いをしている。
 言い合いの内容がちょっとおかしい気がする。

「とにかく!」

 私はじろりとシンを見た。

「未来の奥さんを悲しませるようなことは、しないでね」
「分かってるよ。誰よりも、未来の奥さんのことが大好きだから」

 すぐに突っかかってしまう私だけど、本当はただただあなたが好き。
 私たちはいつも通り、行ってらっしゃいと行ってきますのキスをした。

 離れている間は寂しいけれど、手紙でやり取りできるから我慢するしかない。シンが字を覚えてくれていて良かった。

 馬に跨って遠ざかる姿を、いつまでも見つめている。

 あなたは器用になんでもできるのに、自己評価が低いせいで人生を誤りそうになっていた。
 私はほとんどなんにもできないけれど、あなたを認める能力だけは長けていて、だから私たちは一緒にいると落ち着くんだと思う。

 任務から帰ってきたら、今度こそ私たち一緒になるのよ。

 ようやく分かったの。
 私を幸せに出来るのはあなただけ。でも、あなたを幸せに出来るのも私だけだったってこと。

 不完全な私たちだからこそ、惹かれあって補いあって愛しあえるのかもしれない。

 そう思えるんだから、私も進歩したわね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

国宝級イケメンと言われても普通に恋する男性ですから

はなたろう
恋愛
国民的人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーのコウキは、多忙な毎日を送っていた。息抜きにと訪れた植物園。そこでスタッフのひとりに恋に落ちた。その、最初の出会いの物語。 別作品「国宝級イケメンとのキスは最上級に甘いドルチェみたいに、私をとろけさせます」の番外編です。よければ本編もお読みください(^^) 関連作品「美容系男子と秘密の診療室をのぞいた日から私の運命が変わりました」こちらも、よろしくお願いいたします(^^)

処理中です...