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一緒に生きていく
あなたと私
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シンのお父様は、最近よく喋るようになったらしい。
久しぶりに私のような人間が現れて、生きる気力が湧いたんだろうと言っていた。
お父様のことで結婚を躊躇していたシンは、これで心置きなく私と一緒になれる。
と思ったのに、カイがシンに遠方の任務を入れて来た。
ルリアーナ王国の王女様の護衛任務だ。
よりによって王女様の護衛……。
私が嫉妬してしまうような任務をよくも……。
噂によると、ルリアーナの王女様というのは美人で可愛らしくて性格が良くて、出会った男の人がみんな骨抜きにされてしまうような方らしい。
金髪碧眼の美女、そんな人の側に付いてお仕えするなんて。
「ようやく結婚できると思ったのに……。よりにもよって王女様の護衛なのね」
「まあ、仕事だから。すぐ帰って来るよ。そしたら、早く式を挙げよう」
「かわいい王女様の護衛で浮かれてるんでしょ?!」
私はちっとも落ち着かない。
結婚を急いでいるわけではないけれど、シンはどんな人にも優しいし、誰にでも平等だから妬けてくる。
勿論、私はシンからそれはそれは愛されている、けれど。
「私、最近気付いたの。シンって無意識に色気を出してる時がある」
「ええ??」
「それを誰かに見られちゃうと思うと……やきもきするのよ!」
「いや、そんなこと言われてもなあ……」
色気なんて出してないし、とシンは否定する。
だけど、私は知っている。
その目に見つめられると、身動きができなくなるくらいに囚われてしまうこと。
あなたが私を抱きしめる前、ふっと和らげるその顔がとんでもなく色っぽいってこと。
「浮気しちゃ、やだ……」
「しないよ」
「私を見る時の目で、他の女の人を見ちゃダメ」
「……どの目だろ……俺、目は2つしかないんだけど」
「そういうことを言ってるんじゃないのよ!」
私は相変わらずすぐに頭に血が上るし、嫉妬深いし、やかましいし、素直じゃないし、口が悪いし、可愛くない。
「ごめんって。変なことを気にするから揶揄いたくなったんだよ」
「変なことって何よ。失礼ね」
「俺のことを好きになるような変わった子、リリスしかいないのに」
シンは時々、そういうことを平気で言う。
そんなわけがない。シンは自分の魅力を低く見積もりすぎていて、分かっていないから私がこんなにハラハラする羽目になるのに。
「そんなわけないでしょ? あなた自分のこと鏡で見たことある??」
「あるに決まってんだろ。毎日大したことないよ、相変わらず」
「馬鹿じゃないの? 大抵の女性は口説き落とせる外見だわ」
「いや、それはない。変なこと言うなよ」
睨み合って、何故か言い合いをしている。
言い合いの内容がちょっとおかしい気がする。
「とにかく!」
私はじろりとシンを見た。
「未来の奥さんを悲しませるようなことは、しないでね」
「分かってるよ。誰よりも、未来の奥さんのことが大好きだから」
すぐに突っかかってしまう私だけど、本当はただただあなたが好き。
私たちはいつも通り、行ってらっしゃいと行ってきますのキスをした。
離れている間は寂しいけれど、手紙でやり取りできるから我慢するしかない。シンが字を覚えてくれていて良かった。
馬に跨って遠ざかる姿を、いつまでも見つめている。
あなたは器用になんでもできるのに、自己評価が低いせいで人生を誤りそうになっていた。
私はほとんどなんにもできないけれど、あなたを認める能力だけは長けていて、だから私たちは一緒にいると落ち着くんだと思う。
任務から帰ってきたら、今度こそ私たち一緒になるのよ。
ようやく分かったの。
私を幸せに出来るのはあなただけ。でも、あなたを幸せに出来るのも私だけだったってこと。
不完全な私たちだからこそ、惹かれあって補いあって愛しあえるのかもしれない。
そう思えるんだから、私も進歩したわね。
久しぶりに私のような人間が現れて、生きる気力が湧いたんだろうと言っていた。
お父様のことで結婚を躊躇していたシンは、これで心置きなく私と一緒になれる。
と思ったのに、カイがシンに遠方の任務を入れて来た。
ルリアーナ王国の王女様の護衛任務だ。
よりによって王女様の護衛……。
私が嫉妬してしまうような任務をよくも……。
噂によると、ルリアーナの王女様というのは美人で可愛らしくて性格が良くて、出会った男の人がみんな骨抜きにされてしまうような方らしい。
金髪碧眼の美女、そんな人の側に付いてお仕えするなんて。
「ようやく結婚できると思ったのに……。よりにもよって王女様の護衛なのね」
「まあ、仕事だから。すぐ帰って来るよ。そしたら、早く式を挙げよう」
「かわいい王女様の護衛で浮かれてるんでしょ?!」
私はちっとも落ち着かない。
結婚を急いでいるわけではないけれど、シンはどんな人にも優しいし、誰にでも平等だから妬けてくる。
勿論、私はシンからそれはそれは愛されている、けれど。
「私、最近気付いたの。シンって無意識に色気を出してる時がある」
「ええ??」
「それを誰かに見られちゃうと思うと……やきもきするのよ!」
「いや、そんなこと言われてもなあ……」
色気なんて出してないし、とシンは否定する。
だけど、私は知っている。
その目に見つめられると、身動きができなくなるくらいに囚われてしまうこと。
あなたが私を抱きしめる前、ふっと和らげるその顔がとんでもなく色っぽいってこと。
「浮気しちゃ、やだ……」
「しないよ」
「私を見る時の目で、他の女の人を見ちゃダメ」
「……どの目だろ……俺、目は2つしかないんだけど」
「そういうことを言ってるんじゃないのよ!」
私は相変わらずすぐに頭に血が上るし、嫉妬深いし、やかましいし、素直じゃないし、口が悪いし、可愛くない。
「ごめんって。変なことを気にするから揶揄いたくなったんだよ」
「変なことって何よ。失礼ね」
「俺のことを好きになるような変わった子、リリスしかいないのに」
シンは時々、そういうことを平気で言う。
そんなわけがない。シンは自分の魅力を低く見積もりすぎていて、分かっていないから私がこんなにハラハラする羽目になるのに。
「そんなわけないでしょ? あなた自分のこと鏡で見たことある??」
「あるに決まってんだろ。毎日大したことないよ、相変わらず」
「馬鹿じゃないの? 大抵の女性は口説き落とせる外見だわ」
「いや、それはない。変なこと言うなよ」
睨み合って、何故か言い合いをしている。
言い合いの内容がちょっとおかしい気がする。
「とにかく!」
私はじろりとシンを見た。
「未来の奥さんを悲しませるようなことは、しないでね」
「分かってるよ。誰よりも、未来の奥さんのことが大好きだから」
すぐに突っかかってしまう私だけど、本当はただただあなたが好き。
私たちはいつも通り、行ってらっしゃいと行ってきますのキスをした。
離れている間は寂しいけれど、手紙でやり取りできるから我慢するしかない。シンが字を覚えてくれていて良かった。
馬に跨って遠ざかる姿を、いつまでも見つめている。
あなたは器用になんでもできるのに、自己評価が低いせいで人生を誤りそうになっていた。
私はほとんどなんにもできないけれど、あなたを認める能力だけは長けていて、だから私たちは一緒にいると落ち着くんだと思う。
任務から帰ってきたら、今度こそ私たち一緒になるのよ。
ようやく分かったの。
私を幸せに出来るのはあなただけ。でも、あなたを幸せに出来るのも私だけだったってこと。
不完全な私たちだからこそ、惹かれあって補いあって愛しあえるのかもしれない。
そう思えるんだから、私も進歩したわね。
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