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一緒に生きていく
話をしましょう
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シンが我が家に滞在したり、普通に家族として一緒に過ごすようになってからあっという間に1年が経った。
シンの家族はずっと不安定な状態が続いていたらしく、最近ようやくお父様が説得できたらしい。
何度もやきもきして私が乗り込んで説得するとシンにお願いしたのに、ややこしくなるからゴメンと言われた。
全然否定できなくて、むしろゴメンと謝るしかない。
そんなことがあってなかなか実現しなかったけど、今日は初めてシンのお宅にお呼ばれした。
シンの家は農園が広がる場所にポツンとあって、本当に我が家の居間くらいの大きさの家が建っている。
庭に鶏とヒヨコが走り回っていたし、大型の猟犬まで飼っていて、私はカルチャーショックを受けてしまった。
ヒヨコは鶏になったら食べるんだよと聞かされて、その方法を知って倒れそうになった。
猟犬と一緒に山や森に狩りに行くんだと言ったシンは頼もしい事この上ないけれど、こんな自然の中で育った野生を知る人だったとは。
我が家の玄関位のスペースに、テーブルがあってその席に家族が座っている。
密集しててみんな近い。いや、これがいわゆる平民家庭の普通なのだろうか。
なんか、席に着いているのに人と人がぶつかりそうな環境なのね。
シンの妹は明るい茶色の髪を腰まで伸ばした長身美人で、私が男性だったらすぐにプロポーズしたくなってしまうくらいの器量の良さだった。
「シン、なんでこんな美人の妹さんを毎日見てて、私の事を可愛いとか言えちゃうの??」
こっそりと聞いたら、「え? 美人? 全然そんな風に思わないけど」と言っていて、シンの美的感覚がちょっとズレていたらしいことが分かった。
まあ、私にとってはラッキーってことよね。うん、とても複雑だけど。
お母様は優しそうな人で、「あら、あなたがリリスさん?」と微笑んでくれた。笑顔はシンとよく似ていて、笑窪がチャーミングな人だ。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
私はお母様に頭を下げると、「シンは、良い子なの。私たちには勿体ない位に」と言って、「ごめんなさいね、お待たせしたわね」と悲しそうな顔をした。
その隣に座っていたお父様は、長袖の左腕部分がだらりと垂れていて、そこに本来あるべき腕が無いことが分かる。体格のいいシンのお父様と言うにはとても小柄で、顔には深い皺が刻まれていた。
お母様に比べて、ひとまわり以上歳を重ねているようにも見える。
お母様が謝るように挨拶をした時にも、お父様は何も言わずにどこか一点を見ていて、シンがしびれを切らして何か言おうとしていた。
「あのっ……。私、シンと結婚します。リリス・マクウェルです。シンには、私の家を継いでもらいたいと思っています。勝手なことをお願いして申し訳ないのですが……」
シンに話させてはいけないと、私が頭を下げる。
お父様は私をちらりと見たけれど、別に何も言わなかった。
「父さん、もう、覆すつもりはないよ」
シンは強い口調で言う。妹さんはじっと下を見ていた。
「貴族のご令嬢様に、こんな父親がいたら、嫌でしょう……」
震える声で、お父様が言った。小さな身体を振り絞るような、小さな声だ。
「いいえ」
私は本音で否定した。私、別にお父様に何かされたことはないし、嫌だと思うようなことも起きていない。
「正直に言ってもらって構いませんよ」
「嫌ではありません」
「面目が立たんでしょう……」
「面目なんて知りません」
「私はどうしようもない父親なんです」
「それでしたら私も負けておりません。どうしようもない嫁です」
なんだか譲れなくなって、お父様と張り合う私。
そのうち、お父様がふう、と息を吐いた。
「お前、こういう女が好みなのかい」
お父様が顔を上げてシンを見る。シンの顔がさっと曇った。
「人の好みにケチをつけるつもりですか」
「いやあ、愉快だねえ……」
「愉快……?」
「実に愉快な日だねえ……」
お父様は、それっきり何も言わなかった。
今日は恐らく話ができないだろうって、シンとお母様は言う。
私は、お父様の心の病気がどんなものなのか分からなかったけど、もっと色々とお話をしなければいけない気がした。
「あの、お父様は、子どもは好きですか? 孫は早く見たい?」
「な、何言ってんの?」
シンがドン引きしている。まあ、結婚してもいないのに気が早かったかもしれない。
「さあ、どうかなあ……。でも、シンもアーシャも、それはそれは利口で元気な子だった」
お父様が、昔を思い出しているような口調で言った。
「じゃあ、その血を引いた子どもも利口で元気だと思います」
「でもあんたの子どもじゃあ、ちょっとうるさそうだねえ」
お父様はそう言って楽しそうにくっくっくって笑う。
私は、「賑やかって言って下さいな」って一緒になって笑った。
シンの妹さんは目に涙を溜めていて、「ごめんなさい、なんだか」と言って台所に走って行く。
私が笑っていたら、シンが横から抱きしめて来た。
何も言わないけれど、気持ちがじんわり伝わって来る。
家族って、単純なようで難しいわね。
だけど、あなたの家族のことだから、私にだって背負わせて欲しい。
全然負担だなんて思わない。だって、あなたが向き合ってきたことだから。
シンの家族はずっと不安定な状態が続いていたらしく、最近ようやくお父様が説得できたらしい。
何度もやきもきして私が乗り込んで説得するとシンにお願いしたのに、ややこしくなるからゴメンと言われた。
全然否定できなくて、むしろゴメンと謝るしかない。
そんなことがあってなかなか実現しなかったけど、今日は初めてシンのお宅にお呼ばれした。
シンの家は農園が広がる場所にポツンとあって、本当に我が家の居間くらいの大きさの家が建っている。
庭に鶏とヒヨコが走り回っていたし、大型の猟犬まで飼っていて、私はカルチャーショックを受けてしまった。
ヒヨコは鶏になったら食べるんだよと聞かされて、その方法を知って倒れそうになった。
猟犬と一緒に山や森に狩りに行くんだと言ったシンは頼もしい事この上ないけれど、こんな自然の中で育った野生を知る人だったとは。
我が家の玄関位のスペースに、テーブルがあってその席に家族が座っている。
密集しててみんな近い。いや、これがいわゆる平民家庭の普通なのだろうか。
なんか、席に着いているのに人と人がぶつかりそうな環境なのね。
シンの妹は明るい茶色の髪を腰まで伸ばした長身美人で、私が男性だったらすぐにプロポーズしたくなってしまうくらいの器量の良さだった。
「シン、なんでこんな美人の妹さんを毎日見てて、私の事を可愛いとか言えちゃうの??」
こっそりと聞いたら、「え? 美人? 全然そんな風に思わないけど」と言っていて、シンの美的感覚がちょっとズレていたらしいことが分かった。
まあ、私にとってはラッキーってことよね。うん、とても複雑だけど。
お母様は優しそうな人で、「あら、あなたがリリスさん?」と微笑んでくれた。笑顔はシンとよく似ていて、笑窪がチャーミングな人だ。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
私はお母様に頭を下げると、「シンは、良い子なの。私たちには勿体ない位に」と言って、「ごめんなさいね、お待たせしたわね」と悲しそうな顔をした。
その隣に座っていたお父様は、長袖の左腕部分がだらりと垂れていて、そこに本来あるべき腕が無いことが分かる。体格のいいシンのお父様と言うにはとても小柄で、顔には深い皺が刻まれていた。
お母様に比べて、ひとまわり以上歳を重ねているようにも見える。
お母様が謝るように挨拶をした時にも、お父様は何も言わずにどこか一点を見ていて、シンがしびれを切らして何か言おうとしていた。
「あのっ……。私、シンと結婚します。リリス・マクウェルです。シンには、私の家を継いでもらいたいと思っています。勝手なことをお願いして申し訳ないのですが……」
シンに話させてはいけないと、私が頭を下げる。
お父様は私をちらりと見たけれど、別に何も言わなかった。
「父さん、もう、覆すつもりはないよ」
シンは強い口調で言う。妹さんはじっと下を見ていた。
「貴族のご令嬢様に、こんな父親がいたら、嫌でしょう……」
震える声で、お父様が言った。小さな身体を振り絞るような、小さな声だ。
「いいえ」
私は本音で否定した。私、別にお父様に何かされたことはないし、嫌だと思うようなことも起きていない。
「正直に言ってもらって構いませんよ」
「嫌ではありません」
「面目が立たんでしょう……」
「面目なんて知りません」
「私はどうしようもない父親なんです」
「それでしたら私も負けておりません。どうしようもない嫁です」
なんだか譲れなくなって、お父様と張り合う私。
そのうち、お父様がふう、と息を吐いた。
「お前、こういう女が好みなのかい」
お父様が顔を上げてシンを見る。シンの顔がさっと曇った。
「人の好みにケチをつけるつもりですか」
「いやあ、愉快だねえ……」
「愉快……?」
「実に愉快な日だねえ……」
お父様は、それっきり何も言わなかった。
今日は恐らく話ができないだろうって、シンとお母様は言う。
私は、お父様の心の病気がどんなものなのか分からなかったけど、もっと色々とお話をしなければいけない気がした。
「あの、お父様は、子どもは好きですか? 孫は早く見たい?」
「な、何言ってんの?」
シンがドン引きしている。まあ、結婚してもいないのに気が早かったかもしれない。
「さあ、どうかなあ……。でも、シンもアーシャも、それはそれは利口で元気な子だった」
お父様が、昔を思い出しているような口調で言った。
「じゃあ、その血を引いた子どもも利口で元気だと思います」
「でもあんたの子どもじゃあ、ちょっとうるさそうだねえ」
お父様はそう言って楽しそうにくっくっくって笑う。
私は、「賑やかって言って下さいな」って一緒になって笑った。
シンの妹さんは目に涙を溜めていて、「ごめんなさい、なんだか」と言って台所に走って行く。
私が笑っていたら、シンが横から抱きしめて来た。
何も言わないけれど、気持ちがじんわり伝わって来る。
家族って、単純なようで難しいわね。
だけど、あなたの家族のことだから、私にだって背負わせて欲しい。
全然負担だなんて思わない。だって、あなたが向き合ってきたことだから。
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