数字で恋する男爵令嬢

碧井夢夏

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夢だけ見てはいられない

平民彼氏の落とし方 2

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 結局私たちは食後すぐにベッドの上に転がっていた。

「休日らしくていいなあ」

 シンがダラダラとしているのを隣で横になって見ていると、ただ一緒にいるだけで幸せな関係ってこういうのを言うのかなあなんて頭に浮かぶ。

 私はシンの手に自分の手を重ねて、「時間はあるから、ゆっくりしてて」と声をかけた。私を朝早くに迎えに来てくれた分、きっと疲れているはずだから。

 シンは私の手を握り返してくれる。「食後に横になるのってなんか背徳感があっていいな」とか言いながら、穏やかに目を瞑っていた。

 私たちは付き合ってまだ1ヶ月ちょっとの恋人同士で、喧嘩らしい喧嘩もしていない。こうして穏やかに過ごしていると、このまま一生こんな風に過ごして行けるような気がしてしまう。

 だけど、彼はそれを望んでいない。
 その事実が、じわじわと私を苦しめるようになっていた。

 私の友達に相談でもしようものなら、きっとみんなは「その先に結婚がない恋愛なんてやめなさい」っていうはずだ。

 平民がどうとか階級がどうとか、そういうことを気にする友達はいない。
 だけど、結婚できない人を適齢期に好きになるのは止めなさいって絶対に言われてしまうに違いない。

「ねえ、シン……」
「うん?」
「私の家族に会うのが嫌なのは分かったから、私がシンの家族に会うのはどう?」
「え……?」

 どうやらシンは、自分の家族に対して負い目のようなものがある。
 私はそんなの全く気にしないってこと、少しは分かってくれてもいい。

「いや、うちは……リリスの家の居間より狭いよ?」
「別に、そこに住めって言われてるわけじゃないから気にしないけど」
「あんまり、紹介したくなるような家族じゃないんだよなあ……」

 こういう時、何て言えばいいのか分からない。
 私は家族に恵まれていて、どんな時も笑って許してくれるママと優秀で柔軟なパパがいる。

「紹介したいと思ってもらえたらでいい。でも、私はシンの家族と会いたい」
「……参考にしとく」

 無理にとは言わないからと譲歩するつもりだったのに、家族に関することになった途端に私たちは距離ができる。
 恋人としては何の問題もないのに、家族が絡んだ途端に難しくなる。

 悔しい、と思ったら涙が零れた。
 シンは家族が欲しかったと言っていた。つまり彼をここまで頑なにさせるのは、彼の本意じゃないってこと。

「ごめん、リリスのせいじゃないから泣かないで」

 どこまでも優しい人。

 きっと家族のために犠牲になることを選んでいて、だから私との将来は諦めている。
 私にはもっと相応しい人がいるとか思っていて、だからそのうち私たちは別れるのだろうと割り切っている。

 だけど、その優しさがどれだけ私を傷付けているか、シンは分かっていない。

「いやよ。絶対に許さない。私の家族に会うか、シンの家族に会わせてもらうか選んで。それが無理なら、私たち終わりだわ」

 シンは大きな溜息をついた。

「分かった。そういうことなら、別れよう」

 そこまでのことなんだ、と分かるともう仕方がないんだと諦めるしかない。
 私たち、こんな簡単に終わってしまうような関係だったなんて。
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