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夢だけ見てはいられない
彼のコンプレックス
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私は仕事が終わってシンの元に急いだ。
もう彼を事務所で待つようなことはしないで、みんなの前だろうが彼女として堂々としている。
「今日、うちに来ない?」
私はシンを誘った。パパとママには好きな人の話をしていて、シンを家に連れて来なさいとも言われてる。
何も言わずに今日連れて帰ればそれなりに驚かれると思うけど、別に嫌がられたりはしない。
「え??」
突然の誘いにシンは面食らっていた。
付き合い始めて1日目。両親に彼を紹介……。と思っていたらシンが悩んでいる。
「ご両親は、農民で借金持ちの彼氏が現れたら困るんじゃないかな?」
「いいえ? 既に報告済みよ」
「なんて言ってた?」
「三重苦だねって」
「それ、全然受け入れられてないと思うけど……」
シンは珍しく眉間に皺を寄せた。いきなり両親に紹介って、重い??
でも、うちの両親なら大丈夫なんだけどなあ……。
「親公認になっておけば、堂々とデートもできるでしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ。うーん……」
「大丈夫。うちの両親あんまり深く考えてないから」
シンは怪訝な顔をする。仮にも男爵令嬢で一人娘なら、農民の彼氏など親に受け入れられるはずがないとでも思っているのだろう。
「任務の後で疲れているだろうし、明日は一緒に休みを取る? なんなら、うちに泊まってくれてもいいし」
「いや、ちょっと待ってもらえるかな……。話が急すぎて付いて行けないんだけど」
初めての恋人、初めての大好きな人、両想いになれて浮かれ切っている私とは対照的に、シンは付き合った途端冷静だ。
一分でも、一秒でも長くいたいと思っている私と違って、シンはこれまでと変わらなかった。いつもより堂々と手を繋いだり腕を組んだりするくらいで、それ以外は前と全く変わっていない。
まるで私だけが彼を好きみたいで、恋人同士ってこんな感じなんだろうかと寂しくなる。
私にとってシンはこれ以上ない位に素敵な恋人で、以前カイのことが好きだと思ったのは何だったんだろうって程、私はシンの全部が好きになっていた。
「無事に帰って来るか心配で待った45日間、私はずっとシンを失うかもしれないって思っていたのよ? ようやく無事に帰って来てくれたから、これが私の好きな人だって両親に紹介したいのはおかしい?」
私が真っ直ぐシンへの気持ちを伝えたら、喜ぶどころか困っていた。
「両親に紹介してもらって、その後を期待されても……応えられないよ」
「その後?」
「俺はもう、家族は諦めてる」
「どうして……」
そういえば、前にシンが言っていた。
私は貴族階級の事情しかよく知らない。
平民の間では自由恋愛が普通で、貴族階級は大体恋愛よりも結婚の方が先にある。だから好きな人云々の前に、結婚相手がいたりする。
「リリスには分からないと思うけど、うちは父親が精神の病気を患ってる。平民の中でも、暮らしは貧しくて問題が多い。それに俺は文字もろくに読めなくてリリスが言ったように情報弱者で間違いないんだ。学者のお父さんに認めてもらえるような人間じゃないよ」
はっきりと拒絶されたのが分かった。私は、付き合うイコール結婚って意識が強くて、それが下級ながらも貴族階級出身の認識だったのだと気付く。
シンにとって私は恋人ではあるけれど、婚約者にはなり得ないってこと。
私たちの前に立ちはだかるこの差は、想像以上に大きかったのだ。
もう彼を事務所で待つようなことはしないで、みんなの前だろうが彼女として堂々としている。
「今日、うちに来ない?」
私はシンを誘った。パパとママには好きな人の話をしていて、シンを家に連れて来なさいとも言われてる。
何も言わずに今日連れて帰ればそれなりに驚かれると思うけど、別に嫌がられたりはしない。
「え??」
突然の誘いにシンは面食らっていた。
付き合い始めて1日目。両親に彼を紹介……。と思っていたらシンが悩んでいる。
「ご両親は、農民で借金持ちの彼氏が現れたら困るんじゃないかな?」
「いいえ? 既に報告済みよ」
「なんて言ってた?」
「三重苦だねって」
「それ、全然受け入れられてないと思うけど……」
シンは珍しく眉間に皺を寄せた。いきなり両親に紹介って、重い??
でも、うちの両親なら大丈夫なんだけどなあ……。
「親公認になっておけば、堂々とデートもできるでしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ。うーん……」
「大丈夫。うちの両親あんまり深く考えてないから」
シンは怪訝な顔をする。仮にも男爵令嬢で一人娘なら、農民の彼氏など親に受け入れられるはずがないとでも思っているのだろう。
「任務の後で疲れているだろうし、明日は一緒に休みを取る? なんなら、うちに泊まってくれてもいいし」
「いや、ちょっと待ってもらえるかな……。話が急すぎて付いて行けないんだけど」
初めての恋人、初めての大好きな人、両想いになれて浮かれ切っている私とは対照的に、シンは付き合った途端冷静だ。
一分でも、一秒でも長くいたいと思っている私と違って、シンはこれまでと変わらなかった。いつもより堂々と手を繋いだり腕を組んだりするくらいで、それ以外は前と全く変わっていない。
まるで私だけが彼を好きみたいで、恋人同士ってこんな感じなんだろうかと寂しくなる。
私にとってシンはこれ以上ない位に素敵な恋人で、以前カイのことが好きだと思ったのは何だったんだろうって程、私はシンの全部が好きになっていた。
「無事に帰って来るか心配で待った45日間、私はずっとシンを失うかもしれないって思っていたのよ? ようやく無事に帰って来てくれたから、これが私の好きな人だって両親に紹介したいのはおかしい?」
私が真っ直ぐシンへの気持ちを伝えたら、喜ぶどころか困っていた。
「両親に紹介してもらって、その後を期待されても……応えられないよ」
「その後?」
「俺はもう、家族は諦めてる」
「どうして……」
そういえば、前にシンが言っていた。
私は貴族階級の事情しかよく知らない。
平民の間では自由恋愛が普通で、貴族階級は大体恋愛よりも結婚の方が先にある。だから好きな人云々の前に、結婚相手がいたりする。
「リリスには分からないと思うけど、うちは父親が精神の病気を患ってる。平民の中でも、暮らしは貧しくて問題が多い。それに俺は文字もろくに読めなくてリリスが言ったように情報弱者で間違いないんだ。学者のお父さんに認めてもらえるような人間じゃないよ」
はっきりと拒絶されたのが分かった。私は、付き合うイコール結婚って意識が強くて、それが下級ながらも貴族階級出身の認識だったのだと気付く。
シンにとって私は恋人ではあるけれど、婚約者にはなり得ないってこと。
私たちの前に立ちはだかるこの差は、想像以上に大きかったのだ。
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