数字で恋する男爵令嬢

碧井夢夏

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誤魔化せない想い

デート

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 なんだか私はちょっとおかしい。
 同僚のシンに誘われて、今日の夜はデートになった。

 それが決まった昨日の夜はあまり眠れなかったし、今日は昨日よりもあっという間に仕事が片付いてしまった。
 我ながら、いったいこの集中力はなんだろう。あんまり寝ていないはずなのに。

 庶民のデート、というか、デートそのものが初めてな私は、何を着て来ればいいのかすら分からなかった。結局普段とあまり変わらない簡素なドレスで出勤している。

 今日は金曜日で、当直以外の騎士は明日から2日間のお休みだ。
 だからなのか、みんな心なしか浮足立っていて、今日は街に出掛けようなんてことを言っている人もいる。まあ、若い男が街に出掛けるモチベーションなんて、どうせナンパなんでしょうけど。

 勿論シンも例外ではなく、今日の夜の誘いを受けていた。「ごめん、今日は約束があるからまた今度」と彼の口から発せられているのを聞くと、口元が緩みそうになってしまう。

 他の人たちが、金曜の夜に私たちが連れ立って帰っているのを見たらどう思うんだろうか。
 同僚だから、別に普通なのかもしれない。

 *

 仕事を終えたシンが、昨日より早い時間に私の元にやってくる。

「もしかして、もう仕事片付いてた?」

 焦って謝ろうとしているのを眺めながら、つい私は意地悪を言いたくなってしまう。

「私が先に終わっていた方が、シンが罪悪感にかられるかなと思って」

 こういう時、可愛い女だったら「あなたに早く会いたかったから」とか言うんだろう。つくづく私は自分が嫌になる。

「さすが。次はもっと早く来るようにしなきゃな」

 ニコっと笑ったシンが、私の頭を撫でて言った。
 次があるのだと思ったら、思わず私は泣きそうになってしまう。
 どうして、こんな私と一緒にいてくれようとするんだろう。

 意地悪な自分が嫌になるのに……意地悪な自分でもいいのかなって聞きたくもなる。

 私はシンの顔をじっと見ながら、なんで私に構ってくれるんだろうと不思議だった。

「じゃあ行こうか? お姫様?」

 シンがそう言って私の手を取る。何度か触れたその大きな手を受け入れて、私は小さく頷いた。

 金曜日の夜って、みんなどんなところでデートをするんだろう。
 でも、優しいシンのことだから、私を早く家に帰そうとして……きっと短時間で終わってしまうんだろうと思う。

 今この瞬間、シンの手は私のものになっているけれど、きっと彼は男爵令嬢という私の立場を考えてそれ以上の関係を望んだりはしてくれない。

 平民階級の男性は、みんなそうだった。
 私が貴族階級の令嬢だと知ると、別世界の人間だと言って深入りはしてこない。

 本当は、私だってみんなと同じようにデートもしたいし、夜更かしもしてみたいし、男の人と一緒に悪いことをしてみたい。
 私の中にそういう欲求があったのは数年前のことだった。

 もう、期待はしていない。
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