9 / 35
好きな人と気になる人
おやすみなさい
しおりを挟む
シンの馬が私の家に着いた。
家の前でシンは口をあんぐりと開けて、「本当にお嬢様なんだあ」と声を上げている。
確かに我が家は大きい。
カイ・ハウザーの家よりも大きい。
パパの資料が増えすぎて、屋敷を大きくしたから。
「別に、うちは下級貴族だし。庶民と変わらないわ」
「いや、俺の家の10倍はあるよ」
10倍か……。結構小さいんだ、シンの家って……。
農家のお宅とか上がったことがないから想像がつかない。
シンは先に馬から降りると、下から「おいで」と手を広げている。
……えっと、そこに飛び込めと?? 抱き付けってこと??
「む、無理」
「え?」
私が上から降りるのを怖がっているのだと勘違いしたシンは、手を伸ばして私の腰を引いてするりと下馬させ……結果、私はそのままシンの身体の中にすっぽりと納まってしまった。
一瞬抱きかかえられて、私の足は地面に着く。
当然のようにこういうことが出来るシンは、今まで何度もこういうことをしてきたんだろう。
私はこんなこと、初めてだっていうのに。
シンは、玄関まで送るよと言って馬の手綱を引きながら一緒に敷地内を歩く。
横に並んで歩くと、高い背を意識してしまって……あの背に抱きかかえられるとあんな感じになるんだなとか雑念が消えない。
玄関までは良いのにと断っても、家にちゃんと入るところを見届けるのが騎士の務めでしょ、と新米騎士のクセに生意気なことを言う。
私は、ひとりで意識をしてしまうのが悔しかった。
「今日はありがとう」
玄関に着いたからとちゃんとお礼を言う。
シンを見上げたら優しい顔で私を見て笑った。
胸の音がドキンと鳴った気がするけれど、多分気のせい。
シンは「おやすみ」と言うと、私のおでこにキスをした。
これは……おやすみの、友愛のキス?
「お、おやすみなさい」
いつもの優しい顔を崩さないシンとは対照的に、私は声が裏返ってしまうし、本当に意味なんかない行動だって分かっていても顔が熱いし、もうどうしていいのか分からない。
「ま、また送らせてあげてもいいけど!」
「お、やったね。じゃあ、また今度。次はさ、どこかで食事でもしようよ」
「別に良いけど?」
そ、それってデート??
食事?? 私、男性と2人きりで食事なんて人生で一度だってない。
実は、個人的な用事で夜に出かけたことすらない。
「じゃあ、シンがちゃんと考えておいてよね」
「当たり前だろ。リリスにそんなこと考えさせないよ」
一瞬真顔になったシンを見て、また私、可愛くないことを言ってしまったんだなって落ち込んだ。
「じゃあ、明日でどう?」
「ええっ??」
「明日、食事に付き合って」
「まあ……別に、いいけど……」
私は玄関先でパパとママに聞かれていないか、ドキドキしながら声を抑える。
今、私、男の人にデートに誘われた。
「明日は、今日みたいに待たせないから。約束する」
「そうね、そうして」
「じゃあ、リリスからもキスをくれる?」
「はあ?!」
私には、男性に挨拶のキスをする習慣がない。
パパ以外の人には。
シンが高い背から腰を曲げて、私の近くに顔を寄せている。
ああ、もう、どうにでもなれだ。
私はその頬に軽く音を立ててキスをした。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
暗い中、遠ざかっていくシンの背中をずっと見てしまって、敷地を出る時に振り返った彼と目が合う。
おやすみなさい、また明日。
シンは、とびきりの笑顔で手を振って、その後は馬に跨って帰って行った。
家の前でシンは口をあんぐりと開けて、「本当にお嬢様なんだあ」と声を上げている。
確かに我が家は大きい。
カイ・ハウザーの家よりも大きい。
パパの資料が増えすぎて、屋敷を大きくしたから。
「別に、うちは下級貴族だし。庶民と変わらないわ」
「いや、俺の家の10倍はあるよ」
10倍か……。結構小さいんだ、シンの家って……。
農家のお宅とか上がったことがないから想像がつかない。
シンは先に馬から降りると、下から「おいで」と手を広げている。
……えっと、そこに飛び込めと?? 抱き付けってこと??
「む、無理」
「え?」
私が上から降りるのを怖がっているのだと勘違いしたシンは、手を伸ばして私の腰を引いてするりと下馬させ……結果、私はそのままシンの身体の中にすっぽりと納まってしまった。
一瞬抱きかかえられて、私の足は地面に着く。
当然のようにこういうことが出来るシンは、今まで何度もこういうことをしてきたんだろう。
私はこんなこと、初めてだっていうのに。
シンは、玄関まで送るよと言って馬の手綱を引きながら一緒に敷地内を歩く。
横に並んで歩くと、高い背を意識してしまって……あの背に抱きかかえられるとあんな感じになるんだなとか雑念が消えない。
玄関までは良いのにと断っても、家にちゃんと入るところを見届けるのが騎士の務めでしょ、と新米騎士のクセに生意気なことを言う。
私は、ひとりで意識をしてしまうのが悔しかった。
「今日はありがとう」
玄関に着いたからとちゃんとお礼を言う。
シンを見上げたら優しい顔で私を見て笑った。
胸の音がドキンと鳴った気がするけれど、多分気のせい。
シンは「おやすみ」と言うと、私のおでこにキスをした。
これは……おやすみの、友愛のキス?
「お、おやすみなさい」
いつもの優しい顔を崩さないシンとは対照的に、私は声が裏返ってしまうし、本当に意味なんかない行動だって分かっていても顔が熱いし、もうどうしていいのか分からない。
「ま、また送らせてあげてもいいけど!」
「お、やったね。じゃあ、また今度。次はさ、どこかで食事でもしようよ」
「別に良いけど?」
そ、それってデート??
食事?? 私、男性と2人きりで食事なんて人生で一度だってない。
実は、個人的な用事で夜に出かけたことすらない。
「じゃあ、シンがちゃんと考えておいてよね」
「当たり前だろ。リリスにそんなこと考えさせないよ」
一瞬真顔になったシンを見て、また私、可愛くないことを言ってしまったんだなって落ち込んだ。
「じゃあ、明日でどう?」
「ええっ??」
「明日、食事に付き合って」
「まあ……別に、いいけど……」
私は玄関先でパパとママに聞かれていないか、ドキドキしながら声を抑える。
今、私、男の人にデートに誘われた。
「明日は、今日みたいに待たせないから。約束する」
「そうね、そうして」
「じゃあ、リリスからもキスをくれる?」
「はあ?!」
私には、男性に挨拶のキスをする習慣がない。
パパ以外の人には。
シンが高い背から腰を曲げて、私の近くに顔を寄せている。
ああ、もう、どうにでもなれだ。
私はその頬に軽く音を立ててキスをした。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
暗い中、遠ざかっていくシンの背中をずっと見てしまって、敷地を出る時に振り返った彼と目が合う。
おやすみなさい、また明日。
シンは、とびきりの笑顔で手を振って、その後は馬に跨って帰って行った。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。


淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる