8 / 35
好きな人と気になる人
帰り道 2
しおりを挟む
「じゃあさ、リリス」
突然すぐ後ろから呼び捨てにされて、私の心臓がまたビクンと跳ねた。
やっと「はい」と消え入りそうな声で返事をしたけど、おかしくなかっただろうか。
「俺のことはシンって呼んで、友達と同じように話してよ」
「……シン」
「そうそう」
自分よりも6つも年上の男の人に、呼び捨てをして友達と同じように話をすることになるなんて……。困った。職場でもそのままってことだろう。
「リリスは、団長に憧れて騎士団に入って来たって本当?」
「はい……じゃなくて、うん?」
「もしかして、団長のことが好きだったりする?」
「まあ、見ての通り……」
見ての通りって、シンが私のことを見ているわけがないのに、何を言っているんだろう。もっと説明の仕方ってものがある。もう嫌だ。
「また、厄介な人を好きになったねえ」
「厄介? シンは、カイの事を厄介だと思う?」
「まあ、そうだね。あの人は女性に対する感情が欠落している気がするよ」
シンの言うことはもっともだ。カイは女の人のことをあんまり好きじゃない。
だから、女の人に奪われる心配がないところが良いと思っていた。
「そういうシンは、どうなの? いい歳だけど、結婚してるの?」
「してないしてない」
良かった。既婚者ではなかった。この状況を見られても奥さんに恨まれるということはとりあえずない。でも……。
「じゃあ、彼女はいるんだ?」
「いや、今はいないよ」
今「は」いないんだ……。へえー。私はずっといないけど、シンは今「は」いないのかあ……。
「気になる?」
「いえ。奥さんや彼女さんに恨まれても嫌だったので」
「なるほど」
シンは納得したらしく、世間話を始めた。
自分がもともと農民の出だということや、父親が戦争に出てから家族が壊れてしまったこと。そして、父親の借金で首が回らなくなったところを、カイとロキに助けられたのだということを……。
「俺はさ、不当な借金でも契約書を交わしてしまったらそれを守るのが当たり前だと思っていたんだ。そのくせ、ちゃんと文字も読めなくてさ。だから向こうの言いなりになっていたんだよね」
「へえ。情報弱者の典型」
「そうそう。でも、ロキが相手側の『金融業の法律違反』を突いてくれたり違法な利率を逆手に取って向こうを潰してくれてさ……」
「やり口が堅気じゃないわ、あの金髪」
「あはは、辛辣」
シンがどれだけロキとカイに救われたのかということや、騎士団に拾われて残りの借金が返せそうだとか、そういうことを聞いた。
出会ったばかりの同僚に、そんなことを話してどうするんだろうって最初は気になってしまったけど、年下のカイとロキを尊敬しているシンの柔軟性は、私は単純にすごいと思う。
でも、口に出しては言えなくて、どうしても悪口みたいなことばっかりが口から出て行く。
今まで出会った男の人は、私のこういうところを可愛くないって言っていた。
のに。
「リリスって、本当に面白いね」
シンが、そんな風に言うものだから。
私は、この馬がずっと家に着かなければいいのにって、つい願ってしまいそうになった。
本当は、私、もっと可愛い人になりたい。
突然すぐ後ろから呼び捨てにされて、私の心臓がまたビクンと跳ねた。
やっと「はい」と消え入りそうな声で返事をしたけど、おかしくなかっただろうか。
「俺のことはシンって呼んで、友達と同じように話してよ」
「……シン」
「そうそう」
自分よりも6つも年上の男の人に、呼び捨てをして友達と同じように話をすることになるなんて……。困った。職場でもそのままってことだろう。
「リリスは、団長に憧れて騎士団に入って来たって本当?」
「はい……じゃなくて、うん?」
「もしかして、団長のことが好きだったりする?」
「まあ、見ての通り……」
見ての通りって、シンが私のことを見ているわけがないのに、何を言っているんだろう。もっと説明の仕方ってものがある。もう嫌だ。
「また、厄介な人を好きになったねえ」
「厄介? シンは、カイの事を厄介だと思う?」
「まあ、そうだね。あの人は女性に対する感情が欠落している気がするよ」
シンの言うことはもっともだ。カイは女の人のことをあんまり好きじゃない。
だから、女の人に奪われる心配がないところが良いと思っていた。
「そういうシンは、どうなの? いい歳だけど、結婚してるの?」
「してないしてない」
良かった。既婚者ではなかった。この状況を見られても奥さんに恨まれるということはとりあえずない。でも……。
「じゃあ、彼女はいるんだ?」
「いや、今はいないよ」
今「は」いないんだ……。へえー。私はずっといないけど、シンは今「は」いないのかあ……。
「気になる?」
「いえ。奥さんや彼女さんに恨まれても嫌だったので」
「なるほど」
シンは納得したらしく、世間話を始めた。
自分がもともと農民の出だということや、父親が戦争に出てから家族が壊れてしまったこと。そして、父親の借金で首が回らなくなったところを、カイとロキに助けられたのだということを……。
「俺はさ、不当な借金でも契約書を交わしてしまったらそれを守るのが当たり前だと思っていたんだ。そのくせ、ちゃんと文字も読めなくてさ。だから向こうの言いなりになっていたんだよね」
「へえ。情報弱者の典型」
「そうそう。でも、ロキが相手側の『金融業の法律違反』を突いてくれたり違法な利率を逆手に取って向こうを潰してくれてさ……」
「やり口が堅気じゃないわ、あの金髪」
「あはは、辛辣」
シンがどれだけロキとカイに救われたのかということや、騎士団に拾われて残りの借金が返せそうだとか、そういうことを聞いた。
出会ったばかりの同僚に、そんなことを話してどうするんだろうって最初は気になってしまったけど、年下のカイとロキを尊敬しているシンの柔軟性は、私は単純にすごいと思う。
でも、口に出しては言えなくて、どうしても悪口みたいなことばっかりが口から出て行く。
今まで出会った男の人は、私のこういうところを可愛くないって言っていた。
のに。
「リリスって、本当に面白いね」
シンが、そんな風に言うものだから。
私は、この馬がずっと家に着かなければいいのにって、つい願ってしまいそうになった。
本当は、私、もっと可愛い人になりたい。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる