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好きな人と気になる人
帰り道
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膨れ面でシンさんを待っていた私は、ふと、時間の約束なんてしていなかったことに気付いた。
今日は昨日に比べて1時間以上も早いし、こんなに早く仕事が終わることもない。
「ごめん、仕事終わりの時間、昨日位なのかと思って――」
「女性を待たせるなんて、騎士としてなってません」
私がぴしゃりと言うと、シンさんは「確かにそうだね」と言って眉を下げた。
こんなこと言いたいわけじゃないのに、待っていたのを悟られたくなくて怒って誤魔化すことしかできない。
「もう出られる? ごめん、行こうか?」
「……はい」
むっつり顔を崩せなくて、私は怒った顔のままシンさんに付いていく。
ああせめて、笑顔くらいは見せないと感じが悪い。
分かっているのに、私ってどうしてこうなんだろう。
自分に幻滅しながら、厩舎まで歩いた。シンさんは「ちょっと待ってて」と言うと騎士団で割り当てられている愛馬を連れてくる。
栗毛の可愛らしい顔をした馬だった。なんだか、似た者同士に見えなくもない。
「リリスちゃん、馬には慣れてるの?」
「いえ……。その、二人乗りは初めて……」
「えっ??」
目を丸くしてこっちを見ていた。全く二人乗りをしたことのない私が、送って欲しいと言ったのはそんなにおかしなことなのだろうか。
「だ、大丈夫かな……。怖かったり無理だと思ったら遠慮せずに言ってよ?」
「はい。多分大丈夫です。一人で乗ったことはありますし」
「そっか、でも勝手が違うから怖かったら言って」
相変わらず態度が悪い私を気にするでもなく、シンさんは軽々と馬に跨って上から手を伸ばしている。
ああ、手に捕まって上るんだ、と思ったらちょっと恥ずかしかったけどその大きな手に自分の手を乗せて、引っ張ってもらいシンさんの前に乗る。
自分の場所に収まった途端、背中にシンさんのお腹が当たっていることに気付いた。どうしよう、近い。でも離れたら危ないだろうし……。
「どう? 平気?」
密着した身体から声が聞こえてくるから、私の心臓がドキドキと音を立ててしまう。こんなに近いとまるで、抱きしめられているような……。
「平気です!」
「よし、じゃあ行こうか。場所は?」
「はい……」
私は自分の家の場所を伝えた。シンさんは頷いたようで、馬をゆっくりと歩かせ始める。
夕日が綺麗な空を見ながら、私は馬の揺れと男の人の体温を感じている……。なんだろう、こんなはずじゃなかった気がするんだけど。
「あのさあ」
「はい」
「シンさんっていうのと、敬語止めて欲しい」
「え? でも、年上……」
「同期だよ、俺たち」
この国は、上下関係っていうのが結構厳しい。年上の男の人に敬語を使うのは当たり前で、いくら私が無礼な女だとはいえその位の礼儀はわきまえている。
「同期って言っても……」
「なんか、よそよそしい感じがしない?」
「それだったら、リリスちゃんっていうのも止めてください」
「ああ、ちゃんづけは嫌だった?」
「はい……」
違うー……。こんな可愛くない感じで言いたいわけじゃないのに。
みんなみたいに、呼び捨てして欲しかっただけなのに。
今日は昨日に比べて1時間以上も早いし、こんなに早く仕事が終わることもない。
「ごめん、仕事終わりの時間、昨日位なのかと思って――」
「女性を待たせるなんて、騎士としてなってません」
私がぴしゃりと言うと、シンさんは「確かにそうだね」と言って眉を下げた。
こんなこと言いたいわけじゃないのに、待っていたのを悟られたくなくて怒って誤魔化すことしかできない。
「もう出られる? ごめん、行こうか?」
「……はい」
むっつり顔を崩せなくて、私は怒った顔のままシンさんに付いていく。
ああせめて、笑顔くらいは見せないと感じが悪い。
分かっているのに、私ってどうしてこうなんだろう。
自分に幻滅しながら、厩舎まで歩いた。シンさんは「ちょっと待ってて」と言うと騎士団で割り当てられている愛馬を連れてくる。
栗毛の可愛らしい顔をした馬だった。なんだか、似た者同士に見えなくもない。
「リリスちゃん、馬には慣れてるの?」
「いえ……。その、二人乗りは初めて……」
「えっ??」
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「はい。多分大丈夫です。一人で乗ったことはありますし」
「そっか、でも勝手が違うから怖かったら言って」
相変わらず態度が悪い私を気にするでもなく、シンさんは軽々と馬に跨って上から手を伸ばしている。
ああ、手に捕まって上るんだ、と思ったらちょっと恥ずかしかったけどその大きな手に自分の手を乗せて、引っ張ってもらいシンさんの前に乗る。
自分の場所に収まった途端、背中にシンさんのお腹が当たっていることに気付いた。どうしよう、近い。でも離れたら危ないだろうし……。
「どう? 平気?」
密着した身体から声が聞こえてくるから、私の心臓がドキドキと音を立ててしまう。こんなに近いとまるで、抱きしめられているような……。
「平気です!」
「よし、じゃあ行こうか。場所は?」
「はい……」
私は自分の家の場所を伝えた。シンさんは頷いたようで、馬をゆっくりと歩かせ始める。
夕日が綺麗な空を見ながら、私は馬の揺れと男の人の体温を感じている……。なんだろう、こんなはずじゃなかった気がするんだけど。
「あのさあ」
「はい」
「シンさんっていうのと、敬語止めて欲しい」
「え? でも、年上……」
「同期だよ、俺たち」
この国は、上下関係っていうのが結構厳しい。年上の男の人に敬語を使うのは当たり前で、いくら私が無礼な女だとはいえその位の礼儀はわきまえている。
「同期って言っても……」
「なんか、よそよそしい感じがしない?」
「それだったら、リリスちゃんっていうのも止めてください」
「ああ、ちゃんづけは嫌だった?」
「はい……」
違うー……。こんな可愛くない感じで言いたいわけじゃないのに。
みんなみたいに、呼び捨てして欲しかっただけなのに。
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