数字で恋する男爵令嬢

碧井夢夏

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好きな人と気になる人

自分を売り込む 2

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「へえ……会計士か。確かにうちに必要ではあるが……」
「ですよね!!」
「生憎、今、経営面にあまり余裕が無くてな」
「平気です! お給料は安くて構いません! 私お金には困って無くて!」

 私が生き生きと自分を売り込んでいる間、迫力のある口の大きなおばさんがカイ・ハウザーの隣にいた。

 カイ・ハウザーは家族も親戚もいないはずだから、きっとこの女性は血縁者ではないはず。それにしてもデカい女性だなー……。なんていうか、厚み。

「なんで金に困って無いやつが働き口を探しているんだ……」

 ぎっくうううう。
 ですよねー。しまった、そこ考えてなかったなああ。

「……社会勉強です!」
「なるほど」

 うそ、通じちゃった? カイ・ハウザーって信じやすいのかしら?

「マクウェル家なら信用も置けるから、俺はどちらでもいい。サラはどう思う?」
「まあ、あたしは良いわよ。お嬢様にこんなむさくるしい所は勧められたもんじゃないけど」

 サラさんと呼ばれた人が、私を見てにこりと笑った。
 後ろをひとつの三つ編みにしていて、頼りになりそうな女の人。
 笑顔がとっても明るくて、なんだか抱き付きたくなっちゃう人だ。

「いつから来れる?」
「えっ??」
「採用してやってもいい。給料はこれだけしか払えんが」
「明日から来ます!!」

 そう、こうして私、リリス・マクウェルはカイ・ハウザーの経営する『ハウザー騎士団』の会計士になったのでした。

 幸先良し!

  *

「へえー。リリス、カイ・ハウザーのところで働くの?」
「うん。会計士するの」
「頑張れー」

 ママはあんまり深いことは考えていない人で、だから数学者のパパと上手くやっているんだと思う。

 私のやることを反対したことも、パパのやっていることを反対したこともない。

「お前、なんでカイ・ハウザーのところなんだ?」
「そんなの、カイ・ハウザーの見た目がいいからでしょうよ」

 パパとママがそんな話をしていて、否定も肯定もできない。
 2人は私とカイ・ハウザーが同級生なのを知っているし、そこで働きたいと言い出したのも私だ。

「リリス、いくらなんでも無謀だぞ」
「パパ、憧れと恋は違うのよ」

 2人の中で、私とカイ・ハウザーは釣り合わないと結論が出ているらしい。
 一人娘に対しての評価が低くて泣きたくなるわ。

「パパ、ママ、私はこれからあの騎士団を会計の力で立ち直らせるのよ!」
「リリス、立ち直らせるって、まるで崖っぷち経営だと断定しているみたいじゃないの」
「ママ、あそこはどう見たって崖っぷち経営だよ」

 そう、数学者のパパと数字オタクの私から見たら一目瞭然。
 資料を見なくたって分かる。あの騎士団は、固定費が掛かりすぎている。

 これからは、ハウザー騎士団が潰れないように私が支えるのよ!
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