28 / 36
多忙夫に魔道具配達 編
★ 夫の寝ている間に
しおりを挟む黒牙騎士団の団長室にて、ユリウスさんと会えた日から三日後。
いつも通り定時で家に帰ると、寝室のベッドで死んだように眠るユリウスさんの姿があった。
上着を床に落とし、シャツの首元のボタンを外し、倒れ込んだかのようにベッドにうつ伏せで。すすすーっと、顔が見える位置へ移動してみると――。
「クマがひどい」
【八両の森】の管理棟で会った時よりもひどい。
三日前に黒牙騎士団の団長室で別れた後から、ずっと書類仕事をしていたのだろうか――徹夜で。
「あの副団長さんなら、ありえる」
あれはたぶん仕事の鬼だ。いや、絶対にそう。
よかった、あの人が上司じゃなくて。
「……よく寝てる」
そっと手を伸ばして、クマの部分を指で優しくなぞってみる。
この前は手を近付けた瞬間に起きたけど、今日は起きる気配がない。そのまま静かな寝息をたてて眠っている。
「…………」
特別何を思ったわけでもなく、それはただなんとなく。
音を立てないようにそっとベッドの脇に座り、寝ているユリウスさんの顔を改めてまじまじ観察してみる。
起きている時だと、不意打ちの微笑み攻撃があるのであまり見れないから……と、適当な理由をつけて。
そして、瞬きも忘れるくらいジーッと見つめて数秒後。
「なるほど」
ひとり静かに呟き――
「こういうのを『イケメン』って言うのか」
と、深く納得した。
「なるほどなぁ」
あれは確か……『離婚してやる!』と喚いていた頃だったか。
副団長にこんなことを言われたのだ。
『お前の旦那、超モテるぞ』――と。
あの時はそれどころじゃなかったから軽く流したけれど、今なら「でしょうね」とドヤ顔で肯定できる。
「ユリウスさんはかっこいい」
そう呟いて何度も頷く。
私はあまり人に興味がないから、好きな顔のタイプなんてなかったけど、ユリウスさんの顔は何時間でも飽きずに見ていられる気がする。
こんなにまじまじと見たのは今日が初めてだけど。
でも、飽きずに見ていられる――見ていたいと思うのはきっと、『顔がいい』からだ。つまり、『イケメン』もしくは『かっこいい』ってこと。
「私にもわかってしまった」
今まで面食いな友人の言うことがイマイチ理解できなかったけど、もう大丈夫。これからはしっかり話についていける……はず。
「ふふふっ」
笑いをこぼしながら、ユリウスさんの頬をすりすりと撫でる。
とてもいい触り心地だ。
コンコンッ――。
扉を叩く控えめなノック音に、撫でていた手が自然と止まる。
(夕飯にはまだ早いよね?)
なんだろうと不思議に思いながら、返事をしようとして――やめた。
ここで声を出したら、ユリウスさんが起きてしまうかもしれない。
だから返事はせずに、そっと扉を開けることにした。
「……執事長?」
「ご休憩中のところ、申し訳ございません」
開けた先にいた執事長が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
「大丈夫大丈夫。私はユリウスさんの寝顔見てただけだから」
「左様でございましたか」
「……なんか嬉しそうだね?」
「はい。とても良いことがございました」
そう言って執事長は笑みを深めるけれど、その理由はなぜか教えてくれなかった。
ちなみに、執事長がここへ来たのは、夕飯まで少し時間があるためお茶でもどうかとのこと。なんでも新しいブレンドの茶葉が今日届いたばかりなのだとか。
執事長の淹れてくれるお茶はとっても美味しいからぜひ飲みたい。
「談話室の方へご用意致しますので、そちらでお待ち下さい」
寝ているユリウスさんを置いていくのは少し名残惜しかったけど……。
(一人の方がよく眠れるかな)
そう思い直して、執事長に「よろしくね」と返してから談話室へと向かう。
(夜ご飯は久しぶりに一緒に食べれたらいいな)
自然と浮かんだ笑みと共に、そんなことを思って――。
だから、私は知らなかったのだ。
「狸寝入りは些か悪趣味かと」
「……起きるタイミングを逃しただけだ」
実はユリウスさんが起きていたという、驚愕な事実を……。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる