16 / 36
新妻逃げ旅 編
★ 一番悪いのは誰?
しおりを挟む重度の筋肉痛から全快し、今日が王都に戻ってきてから初めての出勤。
これから私は、団長にリーン村で遭遇した規格外について説明しなければならない。
(ユリウスさんがドラゴンと話せるってことは秘密にするけどね)
ユリウスさん自身はあまり気にしていないらしく、「話しても問題はない」と言っていたけど。
私が気にするので、この辺りはぼかすことにする。
その代わり、村長さんのことは事細かく説明しよう。
たとえば、精霊の加護を持っているとか。洞窟内にいたボタニルドラゴンと友人関係にあるとか。今は喧嘩中だとか。
(封印うんぬんに関しては私が調べた結果、仔竜が成竜になったら構築し直した方がいいと思うって言おう)
あまり深く追求されるとしどろもどろになりそうだけど、そこはユリウスさんが来たことで気が動転したとか言って乗り切る。隠し事は得意ではないけど、たぶんなんとかなるだろう。
団長は理解のある人だから、その辺りは流してくれるはずだ。
「それにしても……常にフォローされてた側が、フォローする側に回る日がこようとは。感慨深いわ」
改めてやる側になって理解したけど、話す部分と隠す部分の匙加減が結構難しい。特に、フォローばかりしてもらっていた私からしてみれば。
今回、フォローする側に回って初めて、過去の自分の行いを反省したくなった。
(これからは迷惑かけないように気を付けよう。……できるだけ)
言い切れないのが、私の悪いところ。でも、自信がないので仕方がない。私は無自覚にやらかすタイプらしいので。
「さてと。報告書提出に来ました。失礼します」
ノックもそこそこに、団長の返事を聞くこともなく、団長室の扉を開ける。
「おい。ノックぐらいしろよ」
「あれ?」
目の前にいる人物を見て、部屋を間違えたかと辺りをキョロキョロ見回す。けれど、部屋の内装からここが団長室であることは間違いない。
「ここ、団長室だよ。部屋間違えてない?」
そう言って首を傾げながら向ける視線の先には、私にリーン村の仕事を勧めた同僚の姿。
口は悪いけど魔術師団の副団長である彼には、“副団長室”という別の部屋が充てがわれている。
なぜ彼はここで仕事をしているのだろうか?
「間違えてねぇよ。団長の代わりに仕事片付けてっからここにいんだよ」
「団長、休みなの?」
「あぁ」
「ふーん。珍しいこともある――」
「原因、お前だけどな」
「へ?」
言葉の意味が理解できず、目を瞬かせる。
リーン村に向かう前から現在まで、私は一度も団長には会っていない。それなのに、私が原因とは一体どういうことなのか。
「私、何もしてないけど……」
「直接的にはな」
「どういうこと?」
「つまり、元凶がお前で、直接的原因はお前の旦那ってことだ」
「もっと意味がわからなくなった……」
簡潔すぎにも程があるだろう、これは。
「私にもわかるように説明してほしいんですけど」
「面倒くせぇ」
「事情がわからないんじゃあ、団長に謝ることもできないでしょ!」
と言いながら、執務机をバンバン叩く。事情を教えてもらえるまで、私はこの行為をやめるつもりはない。
すると、そんな私の意志を感じ取ったのか。副団長は面倒くさそうに溜め息をつきながらも、持っていたペンから手を離す。
「説明すっから机を叩くな」
「はーやーく……と、その前にお茶淹れてくる」
「やめろ。俺が淹れる」
なぜかものすっごい拒否され、「ソファーに座って待っとけ」とまで言われた。なぜだ。私だってお茶くらい淹れられるのに。
「解せぬ」
「へいへい。……団長はな、傷心中なんだよ」
そう言いながら、応接テーブルにお茶とお菓子を置き、ドカッとやや乱暴にソファーへ座る副団長。
「傷心中?」
「そう。傷心中」
「怪我をしたとかではなく?」
「体は元気」
「そっか……。よかった~」
「お前、旦那ことなんだと思ってんの?」
クッキーを頬張る副団長が、呆れたと言わんばかりの表情を浮かべる。
確かに自分でも、この確認はどうなのかなと思いはするけれど――。
「私は、魔法を弄くりながら平穏に暮らしたいの。だからできるだけトラブルは避けないと」
「ほぉー」
「何よ」
「生粋のトラブルメーカーがなんか面白いこと言ってんなと思って」
ボリボリと休みなくクッキーを口に運びながら、半眼でこちらを見る副団長。
どうやら、私に対する認識は悲しいことにどこも同じようなものらしい。日頃の行いが物を言うとはまさにこのこと。
「……それで? ユリウスさんと団長の間に何があったって?」
「…………」
「何があったって?」
ジトーッとした視線から逃げに逃げ、すっとぼけた風を装う。けれど、副団長の視線は痛い。
「……はぁ、もういいわ。お前がここを出て行った後、少ししてから団長が戻ってきてよ。更にそこから少し経って、お前の旦那がここへ来たんだ」
「うん」
「で、お前の旦那は団長にこう尋ねた。『妻はどこへ向かったんだ』ってな。お前さぁ、なんで行き先伝えとかねぇんだよ」
「うっかりミスだね」
「堂々と言うことじゃねぇわ」
と、副団長からは呆れられるけど、こればかりは仕方ない。あの時の私には、行き先を伝えるという考えがなかったのだから。
「でも、その流れのどこに団長の心が傷つく原因があるの?」
「そりゃあ、お前……」
「?」
「団長が行き先を答えられなかったからだろ」
「あぁ、そっか…………え? なんて?」
聞き間違いでなければ、団長が私の行き先を知らなかったと聞こえたのだけど。……いや、そんなまさか。
「団長がお前の行き先を知らなかったんだよ」
「……冗談でしょ?」
「いや、マジで」
「団長ォォォォォ」
もっと私に興味を持って!! と割と本気で叫びたい。
それとも、トラブルメーカーを視界に入れるのも嫌になってしまったのだろうか……。切ない。
「まぁ、その結果――ここが地獄と化したよな。殺気のすげぇことすげぇこと。俺は速攻逃げたけどな」
「裏切り者だ」
「なんとでも言え。俺は自分の身が可愛い」
「……それは真顔で言い切ることか?」
コイツも大概、図太いなと思う。
とはいえ、どうして団長は私の行き先を知らなかったのだろうか。
正式な仕事で出ているのだから、普通行き先は把握していないと駄目なのでは……。
「まぁ、俺が報告し忘れてたせいだけどな」
「アンタが元凶じゃん!!」
「そうとも言う」
「それしかないわ!!」
なんだ、コイツ。平然とした顔で人に責任押し付けようとして。
確かに、ユリウスさんに行き先を言わなかった私も悪いし。団長に本気の殺気を飛ばしたユリウスさんも悪いけど――。
「報告忘れたアンタが一番悪いッ!!」
「いや~、うっかりミス」
「態度も軽いッ!!」
悪びれた様子もなく、クッキーを食べ続ける副団長には呆れしかない。
けれど、自分も悪かった自覚はあるので、団長が無事に復帰したら謝ろうと思う私なのであった。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》
カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!?
単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが……
構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー!
※1話5分程度。
※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。
〜以下、あらすじ〜
市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。
しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。
車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。
助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。
特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。
『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。
外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。
中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……
不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!
筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい!
※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。
※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
引きこもりが乙女ゲームに転生したら
おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ
すっかり引きこもりになってしまった
女子高生マナ
ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎
心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥
転生したキャラが思いもよらぬ人物で--
「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで
男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む
これは人を信じることを諦めた少女
の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる