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血も唾液も混ざり合って、黒に犯されたい。

21話 2人の願い。

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俺はその足で、俺とクロがいるマンションへと向かった。
エレベーターで押した数字は「2」俺たちが住む305号室ではなく、メッセージで教えられた205号室、ちょうど真下にくる部屋だ。

ピンポーン。

すぐにドアノブが回され、扉が開かれた。

「やっぱり、同じマンションだったのね。」
「分かってたからあんな一言だけだったんじゃないんですか?」
「吸血鬼と過ごすために家を離れたでしょ?そのとき、もし自分と同じ人がいるのなら、被験者同士が会わないように離すか、近づけるかのどちらかだと考えて、私たちは一度会ってるから同じマンションだと思ったのよ。」
「...すごいですね。」

とはいえ、よくそんな自信がつくもんだな。

「中に入って、吸血鬼はいるけどあなたが一緒に住む吸血鬼と同じように、いきなり襲うような吸血鬼じゃないから。」
「……。」

部屋の中はどうやら同じようで、なにかを変えた感じもない。
ソファには一人先客がいた。肩くらいまで伸びた輝くような金の髪、足と腕を組む傲慢な姿勢でソファに腰かけており、閉じていた目をゆっくりと開けるとーーー...あの吸血鬼バケモノの赤い目をしていた。

「しょ、食事をとったばかりなんですか?」
「いいえ、ミハイルは常に目が赤いのよ。これは特に気にしないで、私たちの話をしましょうか。」

俺とクロが仲良いように、天野麗子とミハイルの2人も恋人...のようではないが、捕食者と被食者の関係でもないようだ。

天野麗子はミハイルの隣に座り、俺はちょっと離れた椅子の方に座る。

「まずお互いの目的から話しましょうか。」
「えっと、...俺は、俺と一緒に住む吸血鬼と本当の意味でパートナーになるためにも、吸血鬼がバケモノじゃない証明、人権を持った種族として確立させたいんです。」
「なるほど、吸血鬼への捉え方を変えたい...セカイ系ってことね。」
「そうなりますね。」
「……私も同じよ。」

本当にそう思ってるのか疑問に思ってしまうような、間、があいた。

「私も、吸血鬼と人間が同じ屋根の下で暮らしても普通な日本にしたいの。」
「俺と天野さんの望みは同じってことですか?」
「あなたはその望みのためにどうすればいいのか考えはあるの?」
「ないです。天野さんはなにか考えがあるんですか?」

天野麗子は両手の指を合わせる。

「進むための一歩、そのために人間を食糧として考えてる吸血鬼は切り捨てるべきだと考えてる。むしろ飢餓状態の吸血鬼はただのバケモノよ、私は街中でバケモノ化した吸血鬼を必ず殺してる。」
「必ず殺さないといけないんですか?あの偽血で元には戻せないんですか?」
「バケモノになった吸血鬼に偽血を飲ませるのは困難...いいえ、不可能よ。効果があったとしても、吸血鬼はそれを飲み込まないはずよ、あなたもそれがどうしてか分かるでしょ?」
「血の味をしてないからですか?」
「そうよ。」
「っていうか、なんで血の味をしてないんですか!?」

偽血は、人間の俺でも分かるくらい味に差を感じるし、普通に飲めちゃう味してる。

「その血に慣れた吸血鬼は、もう本物の血を飲んでも美味しくないって思ってくれるように味に変化をつけてるらしい。」
「それ、数日でできるような計画じゃないですよね。」
「私もそう思うわ。」

もっと他に方法があるんじゃないのか?なんでそんな...効果はあるっていうのに!

「吸血鬼ハイドリヒ。」
「えっ?」
「飢餓状態でなくとも、人間を好んで襲う吸血鬼がいる。私がこの手で確実に殺したい吸血鬼、それがハイドリヒ。」
「俺も会ったことがあります、美食家を名乗ってる吸血鬼ですよね?」

天野麗子は右手をギュッと握りしめて拳を作る。

「あいつの場所さえ分かれば、...」
「分かってもお前じゃ殺せない。」
「...やってみないと分からないでしょ。」

吸血鬼ミハイルが口を挟んだのは、人間じゃ吸血鬼を殺せない、っていう正論じゃないよな?だって、そもそも天野麗子はーーー

「どうやって吸血鬼を殺してるんですか?だって、太陽に弱いとしても、吸血鬼は強靭な肉体を持ってるんですよね?目を合わせてもダメなわけですし...」
なら魅了の目で体が動けなくなるけど、そこら辺の吸血鬼の目じゃそんな効果はない。」

無意識に体が動いてしまった、吸血鬼ハイドリヒの目は特別だったのか。特別だから天野麗子も殺せていない。

「これはあなたにも関係ある話だけど、吸血鬼が現れたことによって、人間はしてるのよ。」
「俺も?覚醒ですか?」
「えぇ、...間違えたわ、分かりやすい言い方をするなら進化かな?人間をメインに捕食する吸血鬼が現れたことで、人間は進化した。私は吸血鬼に襲われたとき、咄嗟の攻撃で吸血鬼の首を飛ばして殺したわ。」
「それは凄いですね。」
「でも異常でしょ?私はこれを覚醒と呼んでるわ。」
「でも俺はそんな力...」
「あなたの場合は味よ。吸血鬼に噛まれたことで、吸血鬼が好む味に変化し、...一滴も残さずに完食されるかorその甘い甘い美食を永遠に食べるために生かされるか、賭けるために進化したと考えてる。」

それじゃあ、クロに噛まれたからこうなったわけじゃ...あっ、体の怪我が治るのはクロのおかげか。

「えっと、少し話を戻ってもいいですか?」
「どれのこと?」
「吸血鬼の特別な個体についてです。特別な個体であるハイドリヒの殺し方について考えってあるんですか?」
「そのためにあなたのような人を探してたのよ。...と、呼ばれる特別な吸血鬼を探すために。」

それって...!やっぱり天野麗子も始祖の吸血鬼について知ってたのか!

コンコン。

突然のノック音に、俺と天野麗子は同時に体をビクッと動かし、天野麗子は隣にいる吸血鬼ミハイルに目線を向けた。

「外にいるのは吸血鬼?」
「気配がしない。」
「やっぱり吸血鬼って近くにいると、その、センサーみたいのがあるんですか?」
「そうみたいよ。」

でも人間でもおかしいんじゃないか?人間ならチャイムを鳴らすだろ。

「こ、ここにいるよね?ドアをあ、あけて、会いたい。」

クロの声だ!!

「俺と一緒に住んでる吸血鬼です。俺の家は上の階だから、俺の匂い?はするのに帰ってこないから多分きたんだと思います。開けてきますね。」
「待て。」

待ったをかけたのは、吸血鬼ミハイルだった。

「人なら人で、血の匂いを感じる。」
「いや、クロは吸血鬼で...」
「吸血鬼も同じだ。気配を隠せる吸血鬼もいるが、数メートルの距離じゃどんなに上手い奴も隠せられない。」
「クロが特別な個体ってことですか?」
「特別な個体でも、気配を隠せられるものじゃない。」
「そうよ、現にミハイルも特別な個体だけど、ミハイルの気配を感じ取ってハイドリヒは逃げてる。逆にミハイルもハイドリヒの気配を感じて、...あなたと初めて会ったときもハイドリヒの気配を感じてたのよ。」

ソファから吸血鬼ミハイルが立ち上がり、続くように天野麗子も立ち上がり、ミハイルの腕を掴んだ。

「それなら、...康介くんが一緒に住んでる吸血鬼って?」
「クロなんて犬みたいな名前じゃないだろ?」
「...クロードです。」
「ははっ、おい...こんなに近くにいたんだな。」
「え?」
「全ての吸血鬼を従わせられる始祖の吸血鬼クロードだよ。」

俺はギュッと拳を握りしめる。

あぁ、やっぱりクロは特別な吸血鬼だったんだ...。
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