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3章 プロローグ・はじまりのガーデン

21話 2人の想いと絆は灰となり、復讐の火が灯る。

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城の城門前に彼女は立っていた。彼女のことを騎士団が囲んでいるが、彼女は気にしていないようだった。

「母さんっ!!」
「ウツギ...怪我がなくてよかった。それ、拘束されてるだけで痛みはない?」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。って、俺のことはいいから!母さんは...っぐ!?」

後ろに立っている騎士アンセルがグイッと、俺の腕に繋がる鎖を引っ張った。

「君たちを会わせたのはーーー」
「「世界停止ストップ」」

母さんがなにかを口にした。口は動いたが、そんなに口は開いておらず、こちらまで聞こえるような音量じゃなかったはずなのに、頭に直接届いたような不思議な声が聞こえた。
でも、母さんがなにかの魔法を使ったんだと分かる。だって、俺の後ろにいるはずのアンセルの気配がない、ピタリと、呼吸すらも止まっているような気がする。ゾワゾワとする形のない恐怖に、振り返って確認したいのに体が動かない。

「今、この世界で制限なく動けるのは私だけ。ウツギは体だけ動けない状態よ。」

そんな魔法が...そんな凄い世界系?の魔法も母さんは使えるのか!?

「そ、そんなことより!今さっき母さんの処刑が決まったんだよ!?ガーデンの場所って絶対見つからないよな!?と、とりあえず、この国から離れるんだよな!?今逃げるんだよな!?」
「ウツギ、私はガーデンのみんなを守りたいの。」
「だから離れて...!!」
「私が愛したレグルス国、この国は私の箱庭ガーデン。」
「母さん...?」 

なにを、言い出すんだ?

「人間でも、魔女でも、魔者でもない、私は天使。」
「天使?」

母さんが天使?てか、なんで今この話になってるんだ?逃げるんじゃないのか?なんでこの鎖を、俺の体を解放してくれないんだ?

「魔界を統治する種族悪魔、悪魔をまとめる魔王が忽然と姿を消した。でもしばらくして魔王の姿を見つけた。見つけた場所はここ、私が見守っていたレグルス国だった。魔王はレグルス王を殺害し、自身が国王に成り代わり、天使制度を作っていた。私が魔王を見つけたとき、魔王を倒すだけの話じゃなくなっていたの。」
「じゃあ、あれは...」

あのとき、馬車から見えた赤い目、あの強烈な威圧感は国王だからじゃなくて、魔王だったから?

「悪魔の強さは人間との契約数、魂をどれだけ奪ったか。今の魔王はこのレグルス国の王、実際に契約を交わさずとも、人々の崇拝の強さによって直接魔王の力に繋がってしまってるの。」
「魔王を倒すには、国王の座から下ろさないといけないのか?」
「そう、今の魔王は偽物ってことを証明しないといけないの。」

そんな証明方法あるのか?母さんが魔女じゃないってことも証明できないのに...。

「方法が分からなかった。だから私はこれ以上被害者を増やさないためにも、天使に選ばれた子どもたちの保護を続けた。」
「...もしかして、天使制度の実態を知っている騎士や貴族が、誰1人として反対をしないのは魔王の仕業なのか?」
「えぇ、私がウツギや子どもたちにかけた魔法、記憶や感情を操る人心掌握の魔法を魔王は城に出入りする者にかけているの。だから誰1人として疑問に思わない。」

母さんが俺の方へと向かって歩き出す。

「そしてーー私は見つけることができた。18年前、レグルス王は殺害された。でも妻であるレイラ様はルクス教会のドゥーケ神父の手によって運よく助けられた。そしてレイラ様の腕には、あなた、亡き国王の実子である当時0才のリヒトが抱えられていた。」
「俺が...国王の?」
「レグルス国の建国記念日では、王族にだけ反応する魔道具を使った式が習わしにあった。それも18年前に廃止されてしまったけれど、あなたになら使えるはず。あなたは最後の王族、今の国王が偽りだということを証明できる唯一の手。」
「それで、...国王が魔王だって証明されたら?」
「国一つ分の魂、そんな大量の魂が一気に離れたら、いくら魔王でも自身の魂に亀裂が入る。その心臓を貫けば魔王は倒される。だから誰でもいいの...誰でも、誰の手でも魔王の心臓を突き破ることができる。」

母さんは動けない俺の両手を、自身の手で包み込む。

「魔王が天使制度...とはまた違うなにか、悍ましいものをこれ以上増やしたくない。」
「でもここにいたら、母さんは処刑されるんだよ?」
「今ここであなたが王族の生き残りだって、魔王に気づかれたくない。」
「か、あさん?」
「処刑されるのは私だけ。天使が死滅することはない、時間はかかるけどいつか復活する。」
「復活するからなんだよ!?死ぬんだよ!?なに言ってるんだよ!?」
「ーーー処刑されたら私への感情は治るわ。」
「待てよ!!治るって、...この感情を病気みたいにいうなよ!?」
「それは、私が魔法で与えたもの。あなたはウツギじゃない、リヒトよ。」
「母さんがいなくなったら、魔王はどうするんだよ!?俺に魔王を殺せっていうのか!?」
「好きに生きてほしい、私はウツギが幸せならどう生きても嬉しいの、ただ側にいられないだけが心残り...ウツギ、愛してるわ。」

ぎゅうぅっと、母さんは抱きしめた。抱きしめ返すこともできない、一方的で、俺はただ受け止めることしかできなくてーーー

「魔法が解けたらどうなるか分からないけど、俺は今母さんのこと愛してるよ。」
「ありがとう。」
「魔法が解けたら、やらないかもしれないよ。」
「うん、あなたの本当の気持ちで動いて、これは危険なことだから、自分のことを優先に考えて。私が戻ってきたときに...」
「魔王は母さんが天使だって知ってるのか?」
「...えぇ。」
「国王の偽りを証明するには俺が必要、向こうは母さんの存在も知ってる、俺がいないとできない作戦だよな。」
「私が戻ってきたら、一緒に魔王を倒してくれる?」
「そしたらまた魔法をかけてくれよ、母さんだって呼べないかもしれないし。」

ニコッと母さんは微笑み、ーーー世界が動き出す。

「君たちを会わせたのはーーー最後に家族の時間を与えてやってもいい、と国王からの慰みだ。」

ガーデンの子どもたちの出自で分からないのは俺だけ、母さんが魔王を倒そうとする天使だってのも気づかれてる、ここで変に話して俺という存在を勘づかれてはいけない。

「母さんがみんなに恐れられる魔女でも、...母さんがどんな存在だったとしても、俺は母さんを愛してる。」
「私も、...ウツギを愛してる。」

母さんは自身の両腕をくっつけて、首を傾けるようにして微笑む。

「ウツギを解放して、私を処刑して。」
「もちろん、彼はあくまでも被害者だ。魔女が処刑されたら、彼は自由の身だ。」

ーーー人々を恐れる魔女の処刑は、国の中央、城の正面広場で行われることになった。
木で作られた処刑台、それは魔女を磔にし、台もろとも燃やしてしまう処刑方法だった。

群衆に囲まれ、顔を隠した騎士によって火が灯される。

この処刑より3時間ほど前、母さんが騎士にガーデンの場所を話したことで、騎士団は塀の外を馬で走って3時間かかる場所に、森に囲まれたガーデンを見つけ、子どもたちを全員保護したという。
保護された子どもたちが天使になってしまう可能性よりも、処刑までが長引き、俺と母さんの関係が気づかれるのを恐れた。

炎が燃え上がり、空から灰色の雪が増える。

人々が歓喜の声をあげる。

「ゔっ...」

右腕に焼けるような痛みを覚え、俺はバッとシャツを捲った。

「なにそれ?」
「これは、...印ですね。自分の所有物だと表すものですが、この印には記憶や感情を操る類のものが施されているようです。」
「あっ、消えたのかな?」
「今、彼女による魔法が消えたのでしょう。」

俺の側にいたアンセルとセーロス、セーロスが説明してくれていたが、俺はほとんど聞いていられなかった。
膝から崩れ落ち、俺は自身の体をぎゅっと抱きしめる。

ガーデンの記憶が遠く離れていく。記憶として残るのは、俺を大切に想ってくれている母さんではなく、ガーデンの母エンゼという記憶。

強くそう思わされていた感情が、操られていた鎖が解けたのに、胸がひどく苦しい...吐きたくなるくらい苦しい。

涙がボロボロと頬を流れる。

「それは、...他者の手にあった感情が解放されたことによる反動で、心が狂ってしまったのかもしれません。」

分からない、ただただ苦しかった。

側にいるアンセルやセーロスは、俺の感情が灰になってしまったと感じたかもしれない。でも、俺の胸には火が灯っていた。
主人公の感情は消えたかもしれない、でもプレイヤーの記憶や感情の改竄まではできない。ゲームだって分かってるのに、俺はこの世界ゲームに感情移入してしまっていた。
母さん、俺はこの国のためには動けないかもしれないけど、母さんを奪ったこの国魔王になら復讐できる気がするよ。


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