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3章 プロローグ・はじまりのガーデン

19話 天使に選ばれても、はい分かりましたで行くわけないだろ!!

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「いいから、こちらにくるんだ!」

まだ中学生?ぐらいの幼い少女の腕を騎士が力強く引っ張っていた。
道の真ん中、道をあけるように群衆が囲んでおり、その中央に道幅ギリギリの豪勢な馬車が停まっていた。

俺はヒイラギをソッとおろし、距離を考えながら近づいていく。

「ごめんなさいっ!嫌です!ごめんなさい家族と離れたくないんですっ!!」
「貴様、王様のお誘いを断るというのか!?」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
「謝るのではなく誠意を見せるんだ!」

少女の力には限界があり、ズルズルと馬車の方に引きずられている。

「嬢ちゃん!天使になったらママが喜ぶぞー!」
「そうよ、天使の家族は裕福な暮らしができるのよ!」

少女に飛ばされるガヤで、俺はなにが起きているのかを理解した。

あの馬車にいる国王が、あの少女を天使に選んだんだ。天使は美しい女性のことを表すから、それに選ばれたことは光栄、だから群衆は少女を勧めるんだ。
でも実際、天使は城で娼婦の役割を持つ女性のことだ。

どんどんと馬車に近づいていき、少女は涙と鼻水で顔を濡らす。

少女を強く引っ張る騎士、国王の前だから表情は焦っているようにも見えるが、天使の背景を知っている俺には、高校生にも満たない子どもを犯したい獣にしか見えない。

「ごめんなさいっ!!許してください!」

少女が城での天使の役割を知るはずがない、少女は本当に家族と別れたくないんだろう。

「いやあああぁああああっ!!!」

非力な少女、一般的な成人男性よりも力がある騎士、少しでも耐えられること事態がすごい...だが、少女が起こした火事場の馬鹿力も限界を迎えたようだ。

少女の悲鳴が響く、ギュッと俺の心臓を鷲掴みにし、たちまち呼吸が苦しくなる。目の前でチカチカと火花が弾ける。

「その子はっ!!...嫌がってるんだぞ!?」

群衆の肩や腕を押しながら、俺は道の中央にでてきた。

まだ馬車には乗ってないことを確認する。

「騎士様!その人、魔女の息子よ!」
「俺も見た!魔女とたしかに一緒にいた!」

ガヤは黙っていてくれ!!

「天使に選ばれたらすぐに連れていくのか!?家族の同意は!?いくら裕福な暮らしが確約されているとはいえ!いきなり娘を連れていくのは、国王様がしていることは犯罪...誘拐ではないでしょうか!?」
「貴様、今ここには国王様が、この馬車には国王様が乗られているのですよ、その発言は不敬だぞ!」

そのとき、馬車の窓がほんの少しだけ開いた...。赤い目だ...。人を殺すような威圧感のある鋭い目に、ゔっ、と苦しくなる。
その威圧に屈するわけにはいかないのに、ジリ...と足が怯んでしまう。

「「ーーーウツギ、あなたも、ガーデンの子どもたちはみんな等しく私が愛し、守る子どもたちよ。」」

あの強い眼差しで、守るっていってくれた母さん。もし母さんがこの場にいたら、母さんはこの威圧感に屈することなんてないのだろう。

自分の無力さに、俺は唇を噛むことしかできなかった。目の前の現実から逃げるように、ギュッと目を瞑ったときだった。
「通してくれないか。」と後ろから申し訳なさそうな声が聞こえてくる。「すみませんすみません」という声をかけながら、杖をついて歩く男が現れた。

「その子は私の娘なんだ、もう妻も亡くして...私の生きがいは娘だけ、どうか城に連れて行くのは勘弁してくれないか?」

騎士がバッと手を離す。

「お父様!!」

少女は騎士を離れ、俺の横を通って父の元へ走る。
少女が俺の横を通った瞬間、ブワッと風を感じるのと同時に、俺は威圧感から解放され...急激に頭が冷えた。
その少女は輝くような金の髪、宝石のように透き通った青い瞳は、このゲームの主人公であるフィリアと瓜二つの姿だったからだ。

「おい、ヴィオセントさんじゃないか?」
「そ、それ、私も思ったわ。」
「名有りの貴族様の愛娘を勝手に連れて行こうとしたの?」
「まずいんじゃないのか?」
「でも国王様だよ。」
「国王様とはいえよ。」

ヴィオセント...か。このゲームの攻略キャラの1人、ノーブル・ヴィオセントもたしかに同じ名前だ。おそらく少女の兄がそのノーブル・ヴィオセントだろう。
この国には上の名前がない。だからいくら騎士アンセルや騎士セーロスを敬っていても、みんなが名前で呼ぶのはそのせい。
上の名前を持つのは貴族だけで、貴族でも国王と繋がりを持つ上級貴族、その貴族のみが名前を貰える。だから貴族には、名有り、名無しの貴族と分けられる。

少女は父に抱きつき、父は少女の背に腕をやった。
そしてこれ以上、騒ぎは広げない...争いを望まない穏便な性格であるヴィオセントは馬車に向かってスッと頭を下げた。

どうやらこの場は、ヴィオセントによって収められた。

そして、頭をあげたヴィオセントは俺に体を向ける。

「ありがとうございます。」
「え、あ、...いえ。」
「ほら、ノアもお礼をいいなさい。」
「っぐ、っ、あ、りがとう、ございます。」

泣きながらも、少女は俺にお礼を口にした。

「私はモーセ・ヴィオセントです。私にできることは少ないですが、これでも名有りの貴族...なにか手伝えることがありましたらお声を貰えないでしょうか?」
「え...」
「あなたが止めなかったらノアは今頃...あなた様の名前はなんと?」
「う、ウツギです。」
「ウツギ...先ほどはありがとうございました。」
「いえ、あまりにも無理やり感が凄かったんで。」

ノア・ヴィオセントか。どうして、1章では彼女と同じ容姿をしていたんだろうか。

俺はふと振り返った。振り返った先、あの騎士が馬車の窓に耳を寄せており、なにか国王からの言葉を聞いており、...俺と目が合った。ニタァと口角をあげて笑った。

な、なんだ?

騎士は声を張り上げた。

「魔女の処刑を進める!!ずっと先伸ばしになっていたこの街に度々現れる魔女!その魔女の処刑を、たった今!国王様が行うといいます!!」

なにを、...処刑?母さんが処刑されるのか?

『バンッ!!』

破裂音が響く。

頭に強い衝撃が走り、視界が黒に染まる。俺の体は崩れ落ちた。
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