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3章 プロローグ・はじまりのガーデン
15話 たとえそれが罪でも、母の真意に悪はない。
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「また、ここに来てしまいました。」
「ここは迷える信徒なら何度も来てください。ここでのことは私と、神様しか知り得ませんから。」
「ありがとうございます。神父様は優しいから、私の罪も許されそうな気がします。」
「ではあなたの告白を聞かせてください。」
女性の声だった。若くはないが、年老いてるというわけでもない。...どこか聞き覚えがあるような声だ。
「えっと、はじめから話すんですよね。」
「は、はい。」
「顔が分からないこそ、毎回違う神父様かもしれないんですよね、もしかしたらこの教会にいる神父様全員に話してるかもしれないんですよね。」
「でも安心してください、神父であれば誰1人として、ここでのことを口外しません。」
「そうですよね...。」消え入りそうなほどの相槌を打つと、彼女は話し出す。
一体、なにを話すというんだ?壁の向こうに聞こえないよう、ゆっくりと唾を飲み込む。
「娘が天使に選ばれたんです。」
「て、んしに...?」
「一緒に歩いていたところを、騎士様に天使として選ばれたんです。それなのにあの娘、考えさせてって言ったんですよ。一体なにを考えるっていうの!?騎士様に失礼じゃない!」
天使って、...この世界で登場する天使は娼婦のことだよな?
「娘さんが天使になることについては、なにも意義はないんですか?」
「あるわけないでしょ!?天使は美しい者に与えられる称号...私も昔は若かったのだけれど、結局選ばれることなかったわね。」
あぁ、...女性の中でも一段と美しい者という意味を持つ「天使」。
そして前述の意味はあくまでも表向きの意味で、本来その名前が意味するのは、……天使。天使とは王宮内で夜をご奉仕することが役割の女性たちのこと。
城に行くまでその実態が分からないとか、国としてオワッテル。
「娘さんは天使として、城に行ったんですか?」
「...行ってない。その前に、あの...魔女に!連れ去られたのよ!!」
「魔女に?」
魔女に連れ去られた?
この女、まさかこの女は!!
「当然じゃないっ!!誘拐は魔女の仕業っ!だから騎士様にお願いしたの!でも騎士様は証拠がないって...相手は魔女よ!?証拠なんか残すわけがない!!もう少し待ってほしいって...どうせ見てることしかできないのよ!!」
壁に遮られた向こう、俺の向かいで話してる女は、あの時俺に声をかけた、母さんを魔女だと罵った女じゃないか!!
動悸が激しくなる。荒々しくなった呼吸が向こうに気づかれないよう抑えながら、胸の辺りの服をギュッと鷲掴みにする。
「娘が城に行く前に、ママと2人で食事をしたいって言うから!娘が好きな...あの店で!あのクソ魔女が一瞬で娘を連れ去ってしまったのよ!私にどうしろっていうの!?」
「では、あなたの懺悔は娘から目を離してしまったこと、ですか?」
バンッ!!「違うわ!!」
女は向かいの扉を殴った。殴るのと同時に否定の言葉も吐き出した。
「なにを聞いていたの!?せっかく騎士様に選ばれたのに、...知ってる?天使に選ばれたら、その親族は死ぬまで裕福な暮らしができるのよ?ふふっ、それが全て台無し...。神父様、私の罪は騎士様に選ばれたのに、娘の務めを果たせられなかったこと。親として本当に情けない。」
俺だけが、俺がおかしいのか?この人は、金目的で娘を引き渡そうとしてるんじゃないのか!?
「神父様...」
「はい、なんですか?」
「新しい懺悔っていうのは、その魔女の子どもに会ったのに警戒されて、娘のことを上手く聞き出せなかったの。」
あっ、俺のことか。
「子どもを怯えさせてしまったのは、大人として情けなかったと思って、...あの子、大丈夫かしら。」
「……きっと大丈夫です、子どもはそうやって成長するんですから。」
「そう?なら良かった、もうこれ以上罪を増やしたくないもの。神父様ありがとうございます。」
「はい...。」
「もう告白は以上です。」
今ので終わり!?
「ーーーでは、また罪を告白をされたいときはここを訪れてください。」
「はい、神父様!」
俺は立ち上がってドアノブに触れる。するとすぐに彼女が出ていくのを感じる。
俺は告解室を出る。その先で待っていたのはドゥーケ神父1人だった。
「全部は...分からなかったです。母さんは魔女でも、魔者でもない、でも人間でもない。じゃあその正体は?...今の告解じゃ分からなかったです。」
「エンゼ様の正体を知ってるのは、私と息子のドラシオン、...あと1名だけと聞いています。」
「...そうなんだ。」
正体不明の母さん。記憶を奪い、自身を母と慕わせ、花の名前を持った子どもたちがいるガーデンの母エンゼ。
どうしてそんなことをしてるのか、それはなんとなく分かる気がする。
「あの女の娘は、天使として城に行くのが嫌だったから、何らかの方法でそれを知った母さんが娘を連れ出し、今はガーデンでチェリーとして第二の人生を送ってる、って感じですか?」
「その通りです。」
そういう境遇だからって、たとえ本人の意思でも、連れ去って自分の子どもにするのは犯罪なんだよな。
「記憶を奪ってるのは...」
「本人にとっては地獄、トラウマにもなる記憶を改竄してるそうです。」
「じゃあ俺は?」
「ウツギ様のことは分かりません。私が知ってるのは、ウツギ様より前の子どもたちです。」
俺のことは分からないって、そういえばそんなことも言ってたな。
「でも、私は記憶を失う前のウツギ様を知っていた...かもしれません。」
「知っていた?」
「ウツギ様を一目見たときに、なにか胸がザワザワしたんです。これは私の憶測ですが、エンゼ様が私の中にあるウツギ様の記憶を奪ったのかもしれません。」
俺自身のことは分からないままか。
「これから、どうするおつもりですか?」
「ガーデンに帰ります。」
母さんの正体も、俺の正体も分からないが、母さんの真意に悪意はなかった、それでいいんじゃないかと思った。
ーーーそして、俺の体は光に包まれる。
「ここは迷える信徒なら何度も来てください。ここでのことは私と、神様しか知り得ませんから。」
「ありがとうございます。神父様は優しいから、私の罪も許されそうな気がします。」
「ではあなたの告白を聞かせてください。」
女性の声だった。若くはないが、年老いてるというわけでもない。...どこか聞き覚えがあるような声だ。
「えっと、はじめから話すんですよね。」
「は、はい。」
「顔が分からないこそ、毎回違う神父様かもしれないんですよね、もしかしたらこの教会にいる神父様全員に話してるかもしれないんですよね。」
「でも安心してください、神父であれば誰1人として、ここでのことを口外しません。」
「そうですよね...。」消え入りそうなほどの相槌を打つと、彼女は話し出す。
一体、なにを話すというんだ?壁の向こうに聞こえないよう、ゆっくりと唾を飲み込む。
「娘が天使に選ばれたんです。」
「て、んしに...?」
「一緒に歩いていたところを、騎士様に天使として選ばれたんです。それなのにあの娘、考えさせてって言ったんですよ。一体なにを考えるっていうの!?騎士様に失礼じゃない!」
天使って、...この世界で登場する天使は娼婦のことだよな?
「娘さんが天使になることについては、なにも意義はないんですか?」
「あるわけないでしょ!?天使は美しい者に与えられる称号...私も昔は若かったのだけれど、結局選ばれることなかったわね。」
あぁ、...女性の中でも一段と美しい者という意味を持つ「天使」。
そして前述の意味はあくまでも表向きの意味で、本来その名前が意味するのは、……天使。天使とは王宮内で夜をご奉仕することが役割の女性たちのこと。
城に行くまでその実態が分からないとか、国としてオワッテル。
「娘さんは天使として、城に行ったんですか?」
「...行ってない。その前に、あの...魔女に!連れ去られたのよ!!」
「魔女に?」
魔女に連れ去られた?
この女、まさかこの女は!!
「当然じゃないっ!!誘拐は魔女の仕業っ!だから騎士様にお願いしたの!でも騎士様は証拠がないって...相手は魔女よ!?証拠なんか残すわけがない!!もう少し待ってほしいって...どうせ見てることしかできないのよ!!」
壁に遮られた向こう、俺の向かいで話してる女は、あの時俺に声をかけた、母さんを魔女だと罵った女じゃないか!!
動悸が激しくなる。荒々しくなった呼吸が向こうに気づかれないよう抑えながら、胸の辺りの服をギュッと鷲掴みにする。
「娘が城に行く前に、ママと2人で食事をしたいって言うから!娘が好きな...あの店で!あのクソ魔女が一瞬で娘を連れ去ってしまったのよ!私にどうしろっていうの!?」
「では、あなたの懺悔は娘から目を離してしまったこと、ですか?」
バンッ!!「違うわ!!」
女は向かいの扉を殴った。殴るのと同時に否定の言葉も吐き出した。
「なにを聞いていたの!?せっかく騎士様に選ばれたのに、...知ってる?天使に選ばれたら、その親族は死ぬまで裕福な暮らしができるのよ?ふふっ、それが全て台無し...。神父様、私の罪は騎士様に選ばれたのに、娘の務めを果たせられなかったこと。親として本当に情けない。」
俺だけが、俺がおかしいのか?この人は、金目的で娘を引き渡そうとしてるんじゃないのか!?
「神父様...」
「はい、なんですか?」
「新しい懺悔っていうのは、その魔女の子どもに会ったのに警戒されて、娘のことを上手く聞き出せなかったの。」
あっ、俺のことか。
「子どもを怯えさせてしまったのは、大人として情けなかったと思って、...あの子、大丈夫かしら。」
「……きっと大丈夫です、子どもはそうやって成長するんですから。」
「そう?なら良かった、もうこれ以上罪を増やしたくないもの。神父様ありがとうございます。」
「はい...。」
「もう告白は以上です。」
今ので終わり!?
「ーーーでは、また罪を告白をされたいときはここを訪れてください。」
「はい、神父様!」
俺は立ち上がってドアノブに触れる。するとすぐに彼女が出ていくのを感じる。
俺は告解室を出る。その先で待っていたのはドゥーケ神父1人だった。
「全部は...分からなかったです。母さんは魔女でも、魔者でもない、でも人間でもない。じゃあその正体は?...今の告解じゃ分からなかったです。」
「エンゼ様の正体を知ってるのは、私と息子のドラシオン、...あと1名だけと聞いています。」
「...そうなんだ。」
正体不明の母さん。記憶を奪い、自身を母と慕わせ、花の名前を持った子どもたちがいるガーデンの母エンゼ。
どうしてそんなことをしてるのか、それはなんとなく分かる気がする。
「あの女の娘は、天使として城に行くのが嫌だったから、何らかの方法でそれを知った母さんが娘を連れ出し、今はガーデンでチェリーとして第二の人生を送ってる、って感じですか?」
「その通りです。」
そういう境遇だからって、たとえ本人の意思でも、連れ去って自分の子どもにするのは犯罪なんだよな。
「記憶を奪ってるのは...」
「本人にとっては地獄、トラウマにもなる記憶を改竄してるそうです。」
「じゃあ俺は?」
「ウツギ様のことは分かりません。私が知ってるのは、ウツギ様より前の子どもたちです。」
俺のことは分からないって、そういえばそんなことも言ってたな。
「でも、私は記憶を失う前のウツギ様を知っていた...かもしれません。」
「知っていた?」
「ウツギ様を一目見たときに、なにか胸がザワザワしたんです。これは私の憶測ですが、エンゼ様が私の中にあるウツギ様の記憶を奪ったのかもしれません。」
俺自身のことは分からないままか。
「これから、どうするおつもりですか?」
「ガーデンに帰ります。」
母さんの正体も、俺の正体も分からないが、母さんの真意に悪意はなかった、それでいいんじゃないかと思った。
ーーーそして、俺の体は光に包まれる。
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