曇りの国

培養

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プロローグ

僕のお父さん

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 僕が住む街は、晴れの日がありません。物心ついた時には、空が真っ黒になっていました。なぜかというと第三次世界大戦が終わり、戦後まもなく火山の噴火ラッシュに見舞われて、日本中が灰に覆われたからなのです。
綺麗な月を見ることもなく、だから四季を感じることも薄れていました。
そして溢れんばかりに増えた工場群のガスや排気の匂いが立ち込めた中で、宗教や政治が交錯している、ぼんやりとした日本を生きてきました。

僕のお父さんは、麻薬を売っています。
彼には正義があり、これは善良な行いなのだと僕に教えてくれました。
善良ではありません。僕の牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡を通せば分かります。
彼は戦後の活気に置いていかれた一人なのです。生きていくしかないし、この堕落していて臭い街では善悪などないから、だから訳もわからずそういうことをやっているのです。
ただ、なんとか自分の役割を見つけだして、自分たちを見放した国の忠実な犬にはならないぞと、あえてこういう仕事をやっているのです、きっと。彼が売っている麻薬を、僕もいただいたことがあります。
もしお金がなかったらこれを売るんだぞと、お小遣いの代わりにいただきました。子供の僕が麻薬を売るにはリスクが高すぎるのです。だから自分で使うつもりだけど、まだ僕は使えずにいます。
この街は、きらびやかなネオンとスクリーンに囲まれて、高そうな車が常に行き交ったりしています。それだけで常に目眩がしているから、だから僕は麻薬を使えずにいるのだと思います。お金を持っている人たちはきっと偉い人で、そのお金がいつ消えてしまうかわからないから、金銭感覚も無くなった今、訳もわからず必死に使っているのだと思うのです。その明るい街のすぐ外側は、行き場のない人々のゴミ溜めです。毎日毎日空は灰で埋めつくされた曇天だし、僕は自分が毎日どうやって生きているのかすらわからないです。きっとお金持ちも、そうじゃない人も、全員一緒です。何をやるべきなのかはこのぼんやりとした日本をぼんやりと過ごしている僕らにはわからないのです。
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