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 ……嘘だ。

 嘘だ、こんなの。

 隊長が……ルイス隊長が…………

 胸を、刺された。


 倒れたまま、動かない。
 血が、真っ赤な鮮血が、どんどん広がってゆく。


 どうして、こうなった?
 どうして、隊長が、みんなが……


 ……私のせいだ。
 私のせいで、大切な人たちが、みんな……

 死……




「……いやぁぁぁぁああああああああっ!!」




 ──カッ!!


 叫ぶのと同時に。
 何かが、光ったような気がした。


「な、なんだ?!」


 ジェイドの声に、閉じていた瞼を開ける。
 すると、真夜中だというのに、目の前が眩いほどの光に溢れていた。
 そしてその光は、私の身体から放たれていて……

 これは……一体、なに……?


「まずい、"精霊の暴走"だ! この女、制御できないのか?!」

 そう言ってジェイドは、私の身体を突き飛ばす。
 地面に転がされ、白いワンピースの裾が裂けた。

 起き上がりながら、ゆっくりと自分の手のひらを──白い光を放つ身体を眺めるが……
 自分の身に、何起きているのかまったくわからなかった。




 ………………いや、わからなくていいか。

 ええと、なんだっけ。

 あぁ、そうだ。

 消さなきゃ。

 どこもかしこも、血、血、血。

 私の大嫌いな、赤い色だらけだ。

 みんな、みんな、みんな。

 綺麗にしなきゃ。

 悲しみ。

 苦しみ。

 怒り。

 それも全部。


 真っ赤な血と共に、消してしまわなくちゃ。






「──精霊ヨ……」


 自然と、口が動く。
 自分の身体が、自分のものじゃないような、不思議な感覚に襲われる。

 そして、光を放っている右手で……

 私は静かに、宙に『署名』をした。


「──消セ」



 ──刹那。
 森中を覆い尽くすほどの光が、私の手から放たれた。

 直視すれば失明してしまいそうなほどの、強烈な光──
 それに、隊長やみんなが包まれ、ジェイドたちが絶叫する。

 目では見えないのに、手に取るようにわかる。
 みんなが、まだ生きていること。
 その傷が、みるみる癒されていくことが……

 どうやら、私の治癒魔法の能力が、最大限に発揮されているらしい。


「よかった……」


 なんだ……やればできるじゃん、私。
 このまま、みんなの傷を癒して、助けよう。

 そんなことを、ぼんやりとした意識の隅で思う。


 ……しかし。

 光の中のジェイドと術師は……
 苦しげな声で叫んでいて。


「ぐぁぁああああああっ!!」
「焼ける……皮膚が……あ、あぁ……!」


 光を介し、ジェイドたちの状態が伝わってくる。
 あの二人は、ほとんど傷を負っていない。
 だから、私の治癒魔法を浴びても、何も起こらないはずなのに。

 彼らの細胞が、組織が、再生と破壊とを繰り返し……
 ……死んでいくのが、わかる。


 これは……どういうこと?
 それじゃあ、このまま再生を進めれば、隊長たちも……
 彼らと、同じ目に遭うの……?


「いや……待って……!」


 草が、樹が、花が。
 森中の生き物たちが。


「だめ……そんな、私……」


 光に包まれたすべての生物が、死に向かっていくのがわかる。


「お願い、止まって! このままじゃ、みんなを……!」


 そう叫び、自分の身体をぎゅっと抱き締める。
 けれど、身体から放たれる光は、ちっとも止まってくれなくて。


 なんで……どうして?
 嫌……このままじゃ、私…………




「みんなを…………殺しちゃう……っ」







 ──ふと。

 光の中で、誰かが、泣いている私を後ろから抱き締めた。

 そして、私の右手に自分のを重ねると……

 耳元で優しく、囁いた。





「──君、やっぱり下手だね。

 貸してごらん?

 あとは僕がやってあげる」




 それは、もう二度と聞けないはずの……

 大好きなで、意地悪な、あの声だった。


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