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19 深夜の遭遇
しおりを挟む──その後。
私たちは明け方まで語りつくし、結局ローザさんが帰ったのは、朝日が昇る頃だった。
また夜から仕事があるというのに、タフな人だとつくづく思う。
当然、私が眠れたのも朝方で……
気付けばそのまま、夕方近くまで眠っていた。
「うぅ……」
気怠い身体を起こし、瞬きをする。
寝過ぎた。けど、今日は初めての休日。いくら寝坊してもお店に迷惑をかける心配はない。
だからこそ気が抜けたのだろうか、なんだか久しぶりにぐっすり眠れた気がした。
……そういえば。
この部屋を借りるようになってから、あの夢を見ていない。
誰かに全身をくすぐられて、耳元で囁かれる、あの妙な夢……
あれは一体、何だったのだろう?
襲撃を受けて死にかけたショックや、軍隊と行動を共にする緊張感によるストレスが原因だった、とか……?
何にせよ、ここに来てからあの夢を見ていないということは、私の気持ちもだいぶ落ち着いている証拠だろう。
それもこれも、ヴァネッサさんやローザさん、お店のみなさんや優しいお客さんたちのおかげだ。
……若干一名、ぜんっぜん優しくないお客様もいるけど。
「……って、ダメダメ」
脳裏に浮かぶあの意地悪な笑みを振り払うように、私は首を振る。
休みの日まであの人に思考を支配されたくない。ただでさえローザさんに「マゾ」だ何だと言われ、変に意識してしまいそうなのだから。
気持ちを切り替え、私はベッドから降りる。
起きるのがすっかり遅くなってしまったが、せっかくの休日だ。
気分転換も兼ねて、必要なものの買い出しに行こう。
「……よし」
私は、一つ頷くと……
パジャマを脱ぎ、着替えを始めた。
──そして。
「…………あ」
私がそのことに気がついたのは、その日の夜。二十三時を過ぎた頃だった。
晩ご飯とお風呂を済ませ、新しく買った雑貨や服を整理していた時のこと。
昨日、クロさんが言った言葉を……思い出したのだ。
『じゃあね、レンちゃん。また明日~』
……しまった。
今日、私が休みだってこと、彼に伝えていない。
当然、彼は私の出勤日がいつかなんて知らないだろう。
……どうしよう。
今日、知らずにお店へ来ちゃった、よね……?
「…………」
彼は、昨日も一昨日も二十二時に来て、きっかり一時間後に帰って行った。
彼が本当に高貴な身分なら、お忍びで来ているのかもしれない。
だから、二十三時を過ぎたこの時間じゃ、もう帰っているに決まっているけど……
でも……もし、まだいたら?
「…………っ」
居ても立っても居られず、私は部屋を飛び出し、螺旋階段を駆け下りた。
そうして、一階のお店の横に降り立つ。
窓から明かりが漏れている。楽しそうな談笑の声も。
もしかしたら、まだ店内に彼がいるかもしれない。
そう思って、お店の入口に近づくと………
──ふわっ。
白いものが、視界をかすめた。
煙だ。それが手招きするようにたなびいて……
覚えのある匂いで、私を誘う。
すると──
「──やぁ」
……そこに。
店の前にある石造りの段差に、腰掛けて。
「く……クロ、さん……」
彼は、いた。
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