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4 拾われた命
しおりを挟む次に目が覚めた時、辺りは既に明るかった。
テントの端から入り込む陽の光。
朝か……もしかしたら、もう昼かもしれない。
「………………」
どうやら、あのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。瞼が重たい。
ゆっくりと起き上がり、ベッドから下りる。
立っても、伸びをしてみても、昨日のようにはふらつかない。
頭の傷も、昨日ほど痛くはなくなっている。なんとか動けそうだ。
昨日……
今思い出しても、夢だったんじゃないかと思ってしまう。
あまり好きではなかったけど、一年間お世話になった領主の一家。
一緒に働いた、給仕仲間たち。
その、無残な死体……
恐怖。絶望。そして──
ルイスに出会い、私は生き残った。
生きている以上は、ちゃんと今日を生きなくちゃ。
ちゃんとこの目で、前を向いて生きるんだ。
だからもう、涙で視界を塞ぐわけにはいかない。
それには、まず……
……ぐぅ。
「……腹ごしらえね」
よくよく考えたら、昨日の襲撃以降何も口にしていない。最後に食べたのは、昨日の朝ごはんだ。
……ルイスは?
と、テントの中を見回すが、いない。
そこで初めて、外が騒がしいことに気がつく。
そういえばテントの外がどんな様子なのか、さらに言えば、ここがどこなのかも知らない。
考えてみれば、それは恐ろしいことだった。
ルイスの善人オーラにうっかり心を許してしまっていたけど、一体どこまで連れて来られたのか……
……ちょっと怖い気もするが。
私はそぉっと、テントの入口を開け、覗いてみた。
すると、
「わ……」
そこは、森の中だった。
しかし、森を見て声を上げたわけではない。
人だ。
少し拓けた広場のような場所に、軍服を着た兵士たちが、食事をしたり談笑したり、それぞれ好きなことをして騒いでいた。その数、二十名ほどか。
これは、ルイスの仲間……つまり、ロガンス帝国軍の人間なのだろうか?
しかし見たところ、この中にルイスはいないようだ。
……どうしよう。思い切って出てみようか。
しかし、仮にも私はイストラーダの人間なわけで、こんな敵国の軍人だらけの中に女一人で出て行ったらどう思われるか……
……ぐぅぅ。
「あぅ……」
腹の虫の猛抗議に、テントから顔だけを出して、思わず唸った……その時。
「おっ。おはようフェレンティーナちゃん! 傷は大丈夫かい?」
「へぇー、噂通りの美人さんだなぁ」
「ご飯まだでしょ? これ、食べるかい?」
それまで思い思いに行動していた兵士たちが、一斉に集まって来て……
戸惑う私にお構いなしに、いっぺんに話しかけてきた。
「昨日は大変だったね。ごめんなぁ、俺達の力不足で」
「敵軍の中で不安だろうけど、心配いらないよ。ここには隊長がいるからね」
「そうそう! あの人の側にいりゃとりあえず安心だな」
「ぇ、あ、あの……」
や、やっぱりルイスが来るまでおとなしくテントの中で待っているんだった……!
あちこちからいろいろ言われて、目が回るぅ……
それに、『隊長』って……?
「おーう、なんの騒ぎだ?」
そこでまた別の声が、兵士たちの後ろからする。
──その瞬間。
「「おはようございます! 隊長!!」」
今まで散々騒いでいた兵士たちが突然、一斉に足をそろえ気をつけの姿勢になり、道を開けた。
それは、見事なまでの連携で……
「おはよ。あぁ、フェル。起きていたのか」
そんな声と共に、兵士たちが開けた道を歩いてきたのは……
あの、ルイスであった。
……え? どういうこと?
訝しげな顔で見つめていると、ルイスは相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべ、私に言う。
「よう。調子はどうだ?」
「まぁ、大丈夫……って、あんたひょっとして、偉い人なの?」
「はは。いちおうこいつらの隊長だけど、エライってわけではないかな」
そ、そうだったのか……こんな軽い喋り方だから、全然そうは見えなかった。
言われてみれば昨日、さらっと隊長だとか言っていた気もする。話の内容からしても、だいぶ重要な役割を任されているみたいだったし……
……はっ。そんなことよりも。
「その……なにか食べ物をわけてもらえたりする? お腹が空いて死にそうで……」
思わず、声を潜めて言う。
だって、周りでまだ兵士たちがビシッと「気をつけ」しているんだもの。その威圧感と言ったら。
そんな私の態度に、ルイスはやはり笑って、
「あぁ、もちろん。今その準備をさせていたところだ。お前のこれからについても話したいしな」
「私の、これから?」
「そ。とにかく先に飯だ。ついてこい」
そう言って背を向け、一番大きなテントのほうへと歩いて行く。
これから……か。
確かに私、もう行く宛てないし……どうすればいいのだろう?
ルイスには、なにか考えがあるのだろうか。
「おーい、早くしねぇと飯が冷めるぞー」
「あっ、待ってよ!」
先を行くルイスに呼ばれ駆け出すと、周りから例の兵士たちが「またあとでねー」とか「ごゆっくりー」とか、口々に言ってくる。
この人たち……こんなノリで、本当に軍隊なのか?
歓迎ムードはありがたいけど、なんとも緊張感に欠ける。
兵士たちの和やかな雰囲気に見送られながら、私はルイスの待つテントへと駆け込んだ。
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