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34 新たなる配役
しおりを挟む「あ、そうだ。魔剣が完成しました」
試行錯誤の末に、わたしはクレアさんにふさわしい魔剣を作り出した。
「とうとう、ワタクシの魔剣が完成したのですか、キャルさん?」
完成した魔剣を、クレアさんに見せる。
はじめ、クレアさんは首をかしげていた。
「使い方が、わかりませんか? これは――」
「結構。自分で試したほうが、楽しそうですわ」
用途を説明しようとしたのを、クレアさんは遮る。この人は、瞬時に理解したのだ。「使ってみたほうが早い」と。
「徒党を組んで、街を破壊せしめんとする狼藉者の方々。あなた方は魔剣のサビにされても、文句をいえませんわ。では、お覚悟を」
クレアさんがさっそく、サハギン相手に魔剣を試してみた。
見た目が剣っぽくないのに、試運転ですぐに用途を理解している。「優れた剣士はそんなもんだ」、って聞く。けど、クレアさんは桁違いだ。
『キャル、クレアのために作った魔剣、上出来じゃないか』
「そうだね。これほどまでとは、思っていなかったよ」
『アタシ様も、血が騒いじまって仕方ねえ。やるよ』
レベッカちゃんのゾクゾクが、わたしにまで伝わってくる。
「うん。街を守らないとね」
わたしも参戦し、サハギンを全滅させた。
「なるほど。わかりました」
クレアさんは納得した様子で、魔剣を収める。白いゴリラの【トート】に持たせた。
「ありがとうございます。あなたの性格が、すごく反映された剣だと思いましたわ。こういう剣を、ワタクシは求めていたのです」
「気に入ってくださったなら、なにより」
「では、海底神殿へ参りましょう」
神殿へ向かうため、まずは財団の屋敷に。
「街を救ってくれて、ありがとう。海底神殿に入る洞窟が、特定できた」
海底神殿は文字通り、海の底にある。海へ潜って、入るワケにはいかない。なのに魔物は海底からやってくるため、神殿探しは難航していた。
しかし、ようやく神殿と繋がっている洞窟を発見したらしい。
「現場には我々財団の他に、東洋の魔剣調査隊も向かったそうだ」
さきほど、東洋の国から連絡があったとか。
「キャルさん、例のお二方でしょうか?」
「多分そうですね」
クレアさんの質問に、わたしも同じ答えに行き着く。
「知っているのかね?」
ヤトとリンタローと名乗る二人組と交戦になったと、会長に話した。
「あの二人を相手にして、生き残るとは。あっぱれだよ」
「その調査隊とは、どんな方なんです?」
「東洋にある北国の巫女姫様と、天狗だそうだよ」
なんと、あちらもお姫様だったとは。
「かつてお姫様だった、と形容したほうがいいですね」
シューくんが、話に割り込んできた。
「ヤト様は、北東の小国【ザイゼン】の王女で、神通力を扱う巫女様だったのです。けれど、かつてその国は、一族皆殺しの被害に遭っていたのです」
「もしかして、妖刀伝説で一度滅びた国っていうのは?」
「はい。そのザイゼン国です」
ザイゼン国を血祭りにあげたのは、時の国王だった。自分でノドを切った姿で、発見されたらしい。しかし、肝心の妖刀はどこにも見当たらなかったそうだ。
「自決ではなく、殺されて妖刀を持ち去られたのでは、との説が濃厚です」
小国となっても、ザイゼンはかろうじて生き残っている。ザイゼン国は調査隊を率いて、現在も妖刀の在り処を探しているとか。
「ですが、ザイゼンは神と通じる力を持ち、影響力は強いです。もし、悪い考えを持つ国なんかに連れ去られたら」
「わかりました。助けに向かいます」
「準備はできています。お気をつけて」
シューくんたちに見送られ、わたしたちは海底神殿に通じるという洞窟へ出発した。
*
神殿に近いとされる、小島が見える。
調査に来た冒険者やファッパの関係者が、サハギンと戦っていた。
あそこに、洞窟があるに違いない。
「さっそく、戦が始まってるでヤンスねー」
リンタローが、竜巻から飛び降りる。落ちた拍子で、サハギンの一体を押しつぶした。
他の冒険者が、何事かとこちらを見る。
「ヤト、手を出す必要はないでヤンスよ」
もとよりリンタローに任せるつもりだったので、ヤトはゆうゆうと竜巻から降りる。
リンタローが、着物を脱ぐ。すぐさま、鉄扇に変化させた。
「ああ、ゾクゾクするでヤンス。あんなふうに殺気立たれたら、惚れっちまうでヤンスよ!」
身体を震わせながら、リンタローは自らが竜巻になった。サハギンの集団を、旋風脚で蹴り飛ばす。
「ああ。刺激が足りないでヤンス! もっと強いやつは、いないんでヤンスか?」
言っていた矢先、鉄球のようなパンチが飛んできた。しかも、立て続けに六発。
「およよっと!」
リンタローは華麗にかわす。なんてことない動きのように見える。が、普通の冒険者には、できるものではない。
パンチを繰り出した相手は、ボクサー型のイカである。イカ型の魔物は、触手すべてにグローブをはめている。絡め取るのではなく、触手をしならせて殴るタイプか。珍しい。
「そうこなくては、でヤンスね」
対するリンタローも、やる気だ。
こちらは、サハギンの数を減らす作業に専念するか。
四方八方からくる触手パンチを、リンタローは手足だけで軽くさばく。風魔法で、肉体を強化しているのだ。
リンタローは、風属性の天狗である。
だが、本職は格闘技能の専門家である【豪傑】だ。
肉体を、風属性で強化している程度である。戦闘力は、魔力に依存しない。
リンタローはエルフながら、フィジカルが強いのだ。
「リンちゃん、後ろ」
エビの頭を持つ格闘家が、リンタローの背後に回った。
「わかってるでヤンスよ」
背後から魔物に掴まれそうになるのを、リンタローは受け止める。両足だけでイカボクサーの連続パンチをすべてさばきながら。
「よっと」
バク転し、リンタローは背後から攻撃してきた敵を迎え撃つ。
モンスターは裏拳で、リンタローに殴りかかった。
リンタローは、軽々と身をかわす。
エビ格闘家の裏拳は、岩を砕き大木をなぎ倒した。
「その程度でドヤってされても、困るでヤンスよっ!」
リンタローが、鉄扇を装備する。
「遊びは終わりでヤンス」
鉄扇を振り回し、リンタローはイカボクサーの触手を切断した。
「変則的な動きは立派ですが、一発一発が遅すぎるでヤンス。死角を狙っているのが、バレバレでヤンス」
イカボクサーの動きは、たしかに絶妙だ。とはいえマルチタスクなせいで、精彩を欠いている。
「倒すなら、一発で十分でヤンス」
すべての腕を失ったイカボクサーの眉間に、リンタローの正拳突きがめり込んだ。
イカボクサーが、灰になる。
続いてリンタローは、エビレスラーにハイキックを叩き込んだ。
しかし、エビレスラーは動じない。分厚い装甲に、キックの威力が相殺されている。
「上等上等。でヤンスが、それで勝ったとはいえないでヤンスね」
リンタローは、エビの関節に蹴りを連続で叩き込んだ。
「いくら甲羅が固かろうが、可動部分はどうしたって脆くなるでヤンスよ」
最後はリンタローの方が、エビを投げ飛ばす。
尖った岩に背中を打ち付けて、エビが逆方向へ海老反りになった。
「ボハアアアアアア~♪」
魔物の群れを率いていたセイレーンが、力の限り歌う。
海が膨れ上がり、幽霊船が浮上してきた。いや、幽霊船の中には大ダコが。
「あれは、クラーケン」
「リーダー格モンスターの、お出ましのようでヤンスね」
歌っているセイレーンを、クラーケンが飲み込む。
「あれはちょいと、厄介でヤンスよ」
冒険者たちも触手に掴まれ、セイレーンと運命をともにするところだった。
しかし、謎の雷光が冒険者たちを助け出す。
「おお、あなたはいつぞやの」
「冒険者の、クレアです」
白いゴリラを連れた金髪の冒険者は、クレアと名乗った。
【トート】なんてネタ召喚獣を、連れているとは。
「そのゴリラ殿が持っているのは、魔剣でヤンスか」
「はい。ご紹介いたしますわ。これぞワタクシの魔剣。その名も、【地獄極楽右衛門】ですわ」
クレアなる冒険者が持っていたのは、身の丈ほどに大きい一〇徳ナイフだった。
試行錯誤の末に、わたしはクレアさんにふさわしい魔剣を作り出した。
「とうとう、ワタクシの魔剣が完成したのですか、キャルさん?」
完成した魔剣を、クレアさんに見せる。
はじめ、クレアさんは首をかしげていた。
「使い方が、わかりませんか? これは――」
「結構。自分で試したほうが、楽しそうですわ」
用途を説明しようとしたのを、クレアさんは遮る。この人は、瞬時に理解したのだ。「使ってみたほうが早い」と。
「徒党を組んで、街を破壊せしめんとする狼藉者の方々。あなた方は魔剣のサビにされても、文句をいえませんわ。では、お覚悟を」
クレアさんがさっそく、サハギン相手に魔剣を試してみた。
見た目が剣っぽくないのに、試運転ですぐに用途を理解している。「優れた剣士はそんなもんだ」、って聞く。けど、クレアさんは桁違いだ。
『キャル、クレアのために作った魔剣、上出来じゃないか』
「そうだね。これほどまでとは、思っていなかったよ」
『アタシ様も、血が騒いじまって仕方ねえ。やるよ』
レベッカちゃんのゾクゾクが、わたしにまで伝わってくる。
「うん。街を守らないとね」
わたしも参戦し、サハギンを全滅させた。
「なるほど。わかりました」
クレアさんは納得した様子で、魔剣を収める。白いゴリラの【トート】に持たせた。
「ありがとうございます。あなたの性格が、すごく反映された剣だと思いましたわ。こういう剣を、ワタクシは求めていたのです」
「気に入ってくださったなら、なにより」
「では、海底神殿へ参りましょう」
神殿へ向かうため、まずは財団の屋敷に。
「街を救ってくれて、ありがとう。海底神殿に入る洞窟が、特定できた」
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しかし、ようやく神殿と繋がっている洞窟を発見したらしい。
「現場には我々財団の他に、東洋の魔剣調査隊も向かったそうだ」
さきほど、東洋の国から連絡があったとか。
「キャルさん、例のお二方でしょうか?」
「多分そうですね」
クレアさんの質問に、わたしも同じ答えに行き着く。
「知っているのかね?」
ヤトとリンタローと名乗る二人組と交戦になったと、会長に話した。
「あの二人を相手にして、生き残るとは。あっぱれだよ」
「その調査隊とは、どんな方なんです?」
「東洋にある北国の巫女姫様と、天狗だそうだよ」
なんと、あちらもお姫様だったとは。
「かつてお姫様だった、と形容したほうがいいですね」
シューくんが、話に割り込んできた。
「ヤト様は、北東の小国【ザイゼン】の王女で、神通力を扱う巫女様だったのです。けれど、かつてその国は、一族皆殺しの被害に遭っていたのです」
「もしかして、妖刀伝説で一度滅びた国っていうのは?」
「はい。そのザイゼン国です」
ザイゼン国を血祭りにあげたのは、時の国王だった。自分でノドを切った姿で、発見されたらしい。しかし、肝心の妖刀はどこにも見当たらなかったそうだ。
「自決ではなく、殺されて妖刀を持ち去られたのでは、との説が濃厚です」
小国となっても、ザイゼンはかろうじて生き残っている。ザイゼン国は調査隊を率いて、現在も妖刀の在り処を探しているとか。
「ですが、ザイゼンは神と通じる力を持ち、影響力は強いです。もし、悪い考えを持つ国なんかに連れ去られたら」
「わかりました。助けに向かいます」
「準備はできています。お気をつけて」
シューくんたちに見送られ、わたしたちは海底神殿に通じるという洞窟へ出発した。
*
神殿に近いとされる、小島が見える。
調査に来た冒険者やファッパの関係者が、サハギンと戦っていた。
あそこに、洞窟があるに違いない。
「さっそく、戦が始まってるでヤンスねー」
リンタローが、竜巻から飛び降りる。落ちた拍子で、サハギンの一体を押しつぶした。
他の冒険者が、何事かとこちらを見る。
「ヤト、手を出す必要はないでヤンスよ」
もとよりリンタローに任せるつもりだったので、ヤトはゆうゆうと竜巻から降りる。
リンタローが、着物を脱ぐ。すぐさま、鉄扇に変化させた。
「ああ、ゾクゾクするでヤンス。あんなふうに殺気立たれたら、惚れっちまうでヤンスよ!」
身体を震わせながら、リンタローは自らが竜巻になった。サハギンの集団を、旋風脚で蹴り飛ばす。
「ああ。刺激が足りないでヤンス! もっと強いやつは、いないんでヤンスか?」
言っていた矢先、鉄球のようなパンチが飛んできた。しかも、立て続けに六発。
「およよっと!」
リンタローは華麗にかわす。なんてことない動きのように見える。が、普通の冒険者には、できるものではない。
パンチを繰り出した相手は、ボクサー型のイカである。イカ型の魔物は、触手すべてにグローブをはめている。絡め取るのではなく、触手をしならせて殴るタイプか。珍しい。
「そうこなくては、でヤンスね」
対するリンタローも、やる気だ。
こちらは、サハギンの数を減らす作業に専念するか。
四方八方からくる触手パンチを、リンタローは手足だけで軽くさばく。風魔法で、肉体を強化しているのだ。
リンタローは、風属性の天狗である。
だが、本職は格闘技能の専門家である【豪傑】だ。
肉体を、風属性で強化している程度である。戦闘力は、魔力に依存しない。
リンタローはエルフながら、フィジカルが強いのだ。
「リンちゃん、後ろ」
エビの頭を持つ格闘家が、リンタローの背後に回った。
「わかってるでヤンスよ」
背後から魔物に掴まれそうになるのを、リンタローは受け止める。両足だけでイカボクサーの連続パンチをすべてさばきながら。
「よっと」
バク転し、リンタローは背後から攻撃してきた敵を迎え撃つ。
モンスターは裏拳で、リンタローに殴りかかった。
リンタローは、軽々と身をかわす。
エビ格闘家の裏拳は、岩を砕き大木をなぎ倒した。
「その程度でドヤってされても、困るでヤンスよっ!」
リンタローが、鉄扇を装備する。
「遊びは終わりでヤンス」
鉄扇を振り回し、リンタローはイカボクサーの触手を切断した。
「変則的な動きは立派ですが、一発一発が遅すぎるでヤンス。死角を狙っているのが、バレバレでヤンス」
イカボクサーの動きは、たしかに絶妙だ。とはいえマルチタスクなせいで、精彩を欠いている。
「倒すなら、一発で十分でヤンス」
すべての腕を失ったイカボクサーの眉間に、リンタローの正拳突きがめり込んだ。
イカボクサーが、灰になる。
続いてリンタローは、エビレスラーにハイキックを叩き込んだ。
しかし、エビレスラーは動じない。分厚い装甲に、キックの威力が相殺されている。
「上等上等。でヤンスが、それで勝ったとはいえないでヤンスね」
リンタローは、エビの関節に蹴りを連続で叩き込んだ。
「いくら甲羅が固かろうが、可動部分はどうしたって脆くなるでヤンスよ」
最後はリンタローの方が、エビを投げ飛ばす。
尖った岩に背中を打ち付けて、エビが逆方向へ海老反りになった。
「ボハアアアアアア~♪」
魔物の群れを率いていたセイレーンが、力の限り歌う。
海が膨れ上がり、幽霊船が浮上してきた。いや、幽霊船の中には大ダコが。
「あれは、クラーケン」
「リーダー格モンスターの、お出ましのようでヤンスね」
歌っているセイレーンを、クラーケンが飲み込む。
「あれはちょいと、厄介でヤンスよ」
冒険者たちも触手に掴まれ、セイレーンと運命をともにするところだった。
しかし、謎の雷光が冒険者たちを助け出す。
「おお、あなたはいつぞやの」
「冒険者の、クレアです」
白いゴリラを連れた金髪の冒険者は、クレアと名乗った。
【トート】なんてネタ召喚獣を、連れているとは。
「そのゴリラ殿が持っているのは、魔剣でヤンスか」
「はい。ご紹介いたしますわ。これぞワタクシの魔剣。その名も、【地獄極楽右衛門】ですわ」
クレアなる冒険者が持っていたのは、身の丈ほどに大きい一〇徳ナイフだった。
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