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第四章 終わらない歌
4.最高に素敵な魔法
しおりを挟む優しい声が、続ける。
『要求なんてないよ。この船を奪うつもりもない。ただ、君たちがケンカしているみたいだったから、仲直りしようよって言いたかったんだ』
「紗音さん……この声……」
わたしの耳元で、坂田さんが囁く。
坂田さんも気づいたのだろう。
彼の声は、一度聞いたら耳に残る、特徴的な声だから。
ということは、あの映像に映っていたパンダはやっぱり『ささくれ』で、中にいるのは……
「……シマさん、なの……?」
わたしのその呟きは、ハミルクの「あぁん?!」という不機嫌な声にかき消された。
「戦艦を占拠しといてンな言い分が通ると思うなよ?! 奪う気がないならさっさとそこから出て、おとなしく投降しやがれ!」
『そう言われても……出口を探していたら迷っちゃって。この船、すごく広いんだねぇ。君たちが作ったのかい?』
「ふふん、そーよ! その船はキズミちゃんが作ったの!」
『へぇ、そうなんだ。すごいねぇ』
「って、なに得意げに答えてんだ、じゃじゃ馬娘!」
「はぁ? あんたの声が子供っぽいからナメられてんでしょ? このシロクロ毛玉!」
などと、二人がケンカし始めるけれど……わたしの耳にはあまり入ってこなかった。
なんで……なんでシマさんが宇宙にいるの?
……まさか。
わたしの時みたいに、あの『赤い扉』から宇宙空間へと転送されてしまって……
それで、そのままずっと、宇宙に取り残されちゃっていた、とか……?!
うわわ……だとしたら、この状況はかなりまずい。
シマさんには宇宙船を奪うつもりなんてまったくないんだろうけど、たまたま迷い込んでしまったせいで、ピアニカ星とジバラム星に宣戦布告しているみたいになっちゃってるし……!
出口がわからなくて出られないなら、早く行って助けなきゃ……!!
(そうと決まれば、みんなに事情を説明して……!)
……と、わたしが言おうとした、その時、
『あぁ、ほらほら。ケンカはだめだって。ストップストップ!』
という、シマさんの慌てた声の後に……
――ズドーンッ!!
戦艦『マルデック』から、波動砲が放たれ……
わたしたちが乗る船の横ギリギリを掠めた。
「……え」
さらにもう一発、ズドーンッ!!
「ぎゃーっ! なにっ?! なんなの急に?!」
「あのヤロー、ついに本性あらわしやがったな!?」
『違う! 違うよぉ! なんかレバーにぶつかったら出ちゃったんだ!』
泣きそうな声で弁明するシマさん。
だけど、『マルデック』の大砲はまだこちらに向けて波動砲を撃とうとしてきている。
「きっと迎撃システムが作動して、近くにある船に自動で照準を合わせているんだわ! キズミちゃんがそういう風に作ったから!」
「えぇぇえええ?!」
キズミちゃんの説明に絶望している間に、もう一発「ズドーン!」と鳴る。
「アイツ、さてはわざと迎撃システムを作動させたな?!」
「穏やかな口調で我々を油断させたのでしょう……こちらも攻撃しますか?」
「ダメ! 『マルデック』には強力なリフレクター機能がついているの。迎撃システムを作動した今、こっちが撃ったビームはぜんぶはね返されるわ!」
「なんだソレ!? じゃあどうしろって言うんだよ?!」
頭を抱えながら、ジタバタするハミルク。
そこで、わたしは……ハッと思いつく。
そして、大きく手を広げ、
「みんな! こんな時こそ『歌』だよ! 『マルデック』にわたしたちの歌を流して、内側から機能を停止させるの!」
そう、力強く言った。
この方法なら、シマさんを攻撃することなく『マルデック』を止められる。
みんなに事情を説明しているヒマはない。とにかく今は、あの大砲を止めなくちゃ!
わたしの言葉に、キズミちゃん、ハミルク、レイハルトさんが顔を上げる。
「そうだ、歌だ! おれっちたちには歌がある!」
「オッケー! 今『マルデック』の中の全スピーカーにこっちの音声を繋いだわ! ここで歌えば、あっちに大音量で歌が流れるはずよ!」
「よし。紗音殿」
「うん! みんなが得意な『しんらばんしょう だいばくしょう!』でいこう!」
「かしこまりました。いつでも曲を再生できますよ」
坂田さんがにこやかに、スマホの画面をかざす。
そんなわたしたちの様子を、ルミナさんとパディさんはきょとんと見つめ、
「あの……さっきから気になっていたんですが、『ウタ』って一体、なんなんですか?」
そう尋ねてくる。
それに、わたしはくるっと振り向いて、
「――みんなの心をひとつにする、最高に素敵な魔法だよ!」
まっすぐに、そう答えた。
わたしは、操縦席にあるマイクを強く握る。
そして……元気いっぱいに叫ぶ。
「それじゃあみんな! 大きな声で、いっくよー!!」
同時に、坂田さんが再生ボタンを押し、イントロが始まった。
明るくて軽快な、聴いているだけでワクワクしてくる曲……
先ほど岩國さんたちの前で披露し、大成功を収めた歌だ。
わたしたちは、すぅっと息を吸って……
声を合わせ、歌い始めた。
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