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第三章 歌でつながる絆
7.いるはずのない面影
しおりを挟む――その後、わたしとキズミちゃんは動物園内にあるカフェでお昼ご飯を食べた。
二人でパンダの形をしたあんまんを楽しく食べている時、わたしのスマホが「ピコン」と鳴った。
「あっ、坂田さんからだ」
メッセージアプリを開くと、坂田さんから画像が届いていた。
楽しそうな様子で宙に浮かぶハミルクと、真顔で佇むレイハルトさんの写真だ。
場所は、どこかの繁華街のようだけれど……
と、続けて坂田さんからメッセージが入った。
そこには、こんなことが書かれていた。
『街で「着ぐるみフェスティバル」をやっていたので来てみました。全国の様々な着ぐるみが集まるイベントです。ここならハミルクさんとレイハルトさんも目立つことなく観光できるので、ちょうどよかったです』
「きっ、着ぐるみフェスティバル……?」
そんな素敵すぎるイベントが開催されていたなんて……うぅ、わたしも行きたかった!
うらやましさに震えていると、キズミちゃんがパンダまんを頬張りながら不思議そうに首を傾げる。
「なによ、どうかしたの?」
「見てコレ! ハミルクたち、こんな楽しそうなイベントに遊びに行っているんだって!」
そう言ってスマホの画面を見せるけれど……キズミちゃんは眉をひそめて、
「そう言われても……なんて書いてあるのかわからないし」
と、困ったように言うので……
わたしは、「へっ?」と間の抜けた声を上げてしまう。
「も、もしかして、キズミちゃん……ずっと文字読めていなかったの?」
恐る恐る尋ねると、キズミちゃんは少し照れくさそうに、
「……うん」
頷いた。
その瞬間、わたしは……雷に撃たれたような衝撃を覚えた。
「うそ………だってわたしたち、異星人だけど言葉通じてるよね……?」
「話し言葉はね。キズミちゃんやハミルクたちみたいに他の惑星との交流が盛んな星では、生まれてすぐ脳に自動翻訳チップが埋め込まれるの。だから、どんな星の言葉も話せるし聞くことができる。けど、『読み』だけはどうしようもないの」
「そ、そうだったんだ……ごめんね、気づかなくて。文字が読めないなら、なおさら不安だったよね」
「べ、別に不安ではないしっ、これから覚えるつもりだったしっ……今度、ちゃんと教えてよね」
「教える! ぜったいに教えるよ! まずはひらがなからやろうね!」
恥ずかしそうに言うキズミちゃんに、わたしは頭をぶんぶん振って全力で答えた。
まだ強がりは抜けないけれど、わたしを頼るようになってくれたことが本当に嬉しかった。
「……それで? ハミルクたちはどこにいるの?」
「『着ぐるみフェスティバル』っていうイベントを見に行っているみたい。ここならレイハルトさんたちも目立たなくて済むから、って」
「ふーん。なんか、変わった格好の地球人もいっぱいいるみたいね」
キズミちゃんにそう言われて、わたしはあらためて画像を見てみる。
すると、ハミルクたちの後ろに、アニメやマンガのキャラクターに似た格好の人たちが写っていた。
きっとコスプレ参加もできるイベントなのだろう。
そんな、たくさんの着ぐるみや人々の中に、
「……ん?」
わたしは見覚えのある姿を見つけ、目を凝らす。
白と紫の、不思議な配色の着ぐるみ。
ふわふわした、大型犬のようなシルエット。
うそ……でも、見間違えるはずがない。
だって、これは……わたしの大好きな……
「ワットン……?!」
ガタッ、と立ち上がるわたしを、キズミちゃんがまばたきして見上げる。
「ど、どうしたのよ急に」
「ここに、写ってる……行方不明になったシマさんが……!」
「え……?!」
わたしはすぐに坂田さんへ電話をかける。
そして、繋がった瞬間、一方的に捲し立てた。
「坂田さん! わたしたちもそちらに向かいます! 会場の場所、教えてください!!」
* * * *
――坂田さんに教えてもらった駅を目指し、電車に揺られること十五分。
わたしとキズミちゃんは、『着ぐるみフェスティバル』が開催されている駅に降り立った。
駅前広場がイベント会場になっているようで、多くの人で賑わっていた。
全国のご当地キャラクターや、テレビ番組でおなじみのマスコットたちのグッズが出店に並んでいる。
中央にはステージが設定され、時間ごとに様々な着ぐるみキャラが登場するようになっていた。
普段のわたしならこんなイベント、間違いなく大はしゃぎしているのだろうけれど、今はそれどころじゃなかった。
だって、シマさんの――ワットンの姿が、画像に写っていたのだから。
(シマさん……どこにいるの?)
わたしはイベント会場を見回し、ワットンを探す。
と、離れた場所にある柵で仕切られた広場――『撮影可能エリア』と書かれた場所に、ワットンの後ろ姿を見つけた。
「っ……!」
「あっ、紗音! どこ行くの?!」
キズミちゃんに返事をする余裕もないままに、わたしは駆け出す。
柵を回り込み、『撮影可能エリア』に入ると、コスプレを楽しむ人と撮影をする人で溢れかえっていた。
その中に……いた。
やっぱりワットンだ!
わたしは人混みをかき分けながら、一直線にワットンの元へ向かう。
そして、
「シマさん!!」
その後ろ姿に、呼びかけた。
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