上 下
28 / 43
第三章 歌でつながる絆

7.いるはずのない面影

しおりを挟む


 ――その後、わたしとキズミちゃんは動物園内にあるカフェでお昼ご飯を食べた。

 二人でパンダの形をしたあんまんを楽しく食べている時、わたしのスマホが「ピコン」と鳴った。

「あっ、坂田さんからだ」

 メッセージアプリを開くと、坂田さんから画像が届いていた。
 楽しそうな様子で宙に浮かぶハミルクと、真顔で佇むレイハルトさんの写真だ。
 場所は、どこかの繁華街のようだけれど……

 と、続けて坂田さんからメッセージが入った。
 そこには、こんなことが書かれていた。


『街で「着ぐるみフェスティバル」をやっていたので来てみました。全国の様々な着ぐるみが集まるイベントです。ここならハミルクさんとレイハルトさんも目立つことなく観光できるので、ちょうどよかったです』


「きっ、着ぐるみフェスティバル……?」

 そんな素敵すぎるイベントが開催されていたなんて……うぅ、わたしも行きたかった!

 うらやましさに震えていると、キズミちゃんがパンダまんを頬張りながら不思議そうに首を傾げる。

「なによ、どうかしたの?」
「見てコレ! ハミルクたち、こんな楽しそうなイベントに遊びに行っているんだって!」

 そう言ってスマホの画面を見せるけれど……キズミちゃんは眉をひそめて、

「そう言われても……なんて書いてあるのかわからないし」

 と、困ったように言うので……
 わたしは、「へっ?」と間の抜けた声を上げてしまう。

「も、もしかして、キズミちゃん……ずっと文字読めていなかったの?」

 恐る恐る尋ねると、キズミちゃんは少し照れくさそうに、

「……うん」

 頷いた。
 その瞬間、わたしは……雷に撃たれたような衝撃を覚えた。

「うそ………だってわたしたち、異星人だけど言葉通じてるよね……?」
「話し言葉はね。キズミちゃんやハミルクたちみたいに他の惑星との交流が盛んな星では、生まれてすぐ脳に自動翻訳チップが埋め込まれるの。だから、どんな星の言葉も話せるし聞くことができる。けど、『読み』だけはどうしようもないの」
「そ、そうだったんだ……ごめんね、気づかなくて。文字が読めないなら、なおさら不安だったよね」
「べ、別に不安ではないしっ、これから覚えるつもりだったしっ……今度、ちゃんと教えてよね」
「教える! ぜったいに教えるよ! まずはひらがなからやろうね!」

 恥ずかしそうに言うキズミちゃんに、わたしは頭をぶんぶん振って全力で答えた。
 まだ強がりは抜けないけれど、わたしを頼るようになってくれたことが本当に嬉しかった。

「……それで? ハミルクたちはどこにいるの?」
「『着ぐるみフェスティバル』っていうイベントを見に行っているみたい。ここならレイハルトさんたちも目立たなくて済むから、って」
「ふーん。なんか、変わった格好の地球人もいっぱいいるみたいね」

 キズミちゃんにそう言われて、わたしはあらためて画像を見てみる。
 すると、ハミルクたちの後ろに、アニメやマンガのキャラクターに似た格好の人たちが写っていた。
 きっとコスプレ参加もできるイベントなのだろう。

 そんな、たくさんの着ぐるみや人々の中に、

「……ん?」

 わたしは見覚えのある姿を見つけ、目を凝らす。


 白と紫の、不思議な配色の着ぐるみ。
 ふわふわした、大型犬のようなシルエット。

 うそ……でも、見間違えるはずがない。
 だって、これは……わたしの大好きな……


「ワットン……?!」

 ガタッ、と立ち上がるわたしを、キズミちゃんがまばたきして見上げる。

「ど、どうしたのよ急に」
「ここに、写ってる……行方不明になったシマさんが……!」
「え……?!」

 わたしはすぐに坂田さんへ電話をかける。
 そして、繋がった瞬間、一方的に捲し立てた。

「坂田さん! わたしたちもそちらに向かいます! 会場の場所、教えてください!!」



 * * * *



 ――坂田さんに教えてもらった駅を目指し、電車に揺られること十五分。
 わたしとキズミちゃんは、『着ぐるみフェスティバル』が開催されている駅に降り立った。

 駅前広場がイベント会場になっているようで、多くの人で賑わっていた。
 全国のご当地キャラクターや、テレビ番組でおなじみのマスコットたちのグッズが出店に並んでいる。
 中央にはステージが設定され、時間ごとに様々な着ぐるみキャラが登場するようになっていた。

 普段のわたしならこんなイベント、間違いなく大はしゃぎしているのだろうけれど、今はそれどころじゃなかった。

 だって、シマさんの――ワットンの姿が、画像に写っていたのだから。

(シマさん……どこにいるの?)

 わたしはイベント会場を見回し、ワットンを探す。

 と、離れた場所にある柵で仕切られた広場――『撮影可能エリア』と書かれた場所に、ワットンの後ろ姿を見つけた。

「っ……!」
「あっ、紗音! どこ行くの?!」

 キズミちゃんに返事をする余裕もないままに、わたしは駆け出す。
 柵を回り込み、『撮影可能エリア』に入ると、コスプレを楽しむ人と撮影をする人で溢れかえっていた。

 その中に……いた。
 やっぱりワットンだ!

 わたしは人混みをかき分けながら、一直線にワットンの元へ向かう。
 そして、

「シマさん!!」

 その後ろ姿に、呼びかけた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女のお母さんのブラジャー丸見えにムラムラ

吉良 純
恋愛
実話です

猫のモモタ

緒方宗谷
児童書・童話
モモタの出会う動物たちのお話。 毎月15日の更新です。 長編『モモタとママと虹の架け橋』が一番下にあります。完結済みです。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

【完結!】ぼくらのオハコビ竜 ーあなたの翼になりましょうー

Sirocos(シロコス)
児童書・童話
『絵本・児童書大賞(君とのきずな児童書賞)』にエントリーしている作品になります。 皆さまどうぞ、応援くださいませ!!ペコリ(o_ _)o)) 【本作は、アルファポリスきずな文庫での出版を目指して、本気で執筆いたしました。最後までどうぞお読みください!>^_^<】 君は、『オハコビ竜』を知っているかな。かれらは、あの空のむこうに存在する、スカイランドと呼ばれる世界の竜たち。不思議なことに、優しくて誠実な犬がまざったような、世にも奇妙な姿をしているんだ。 地上界に住む君も、きっとかれらの友達になりたくなるはず! 空の国スカイランドを舞台に、オハコビ竜と科学の力に導かれ、世にも不思議なツアーがはじまる。 夢と楽しさと驚きがいっぱい! 竜と仮想テクノロジーの世界がミックスした、ドラゴンSFファンタジー! (本作は、小説家になろうさん、カクヨムさんでも掲載しております)

「私は○○です」?!

咲駆良
児童書・童話
マイペースながらも、仕事はきっちりやって曲がったことは大の苦手な主人公。 一方、主人公の親友は周りの人間を纏めるしっかり者。 偶々、そんな主人公が遭遇しちゃった異世界って?! そして、親友はどうなっちゃうの?! これは、ペガサスが神獣の一種とされる異世界で、主人公が様々な困難を乗り越えていこうとする(だろう)物語です。 ※まだ書き始めですが、最後は「○○○だった主人公?!」みたいなハッピーエンドにしたいと考えています。 ※都合によりゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします。

「最期の願い」「二人だけの合言葉」

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
オスのモンシロチョウの寿命は一週間。主人公のモンシロチョウは神様に最期のお願いをする。 「最期の願い」の続き「二人だけの合言葉」が新たに出来ました。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 ※オスのモンシロチョウのお話なので「僕」で統一してください。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

トレジャーズ・バディ!

真碧マコト
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 応募作品】  化石に鉱石、呪印にオーパーツ! さらにはオバケにトラップまで⁉  ――この地下遺跡、絶っ対! 普通じゃない!  主人公・鷹杉 晶(たかすぎ あきら)は鉱石や化石が大好きな、ひとよりちょっと背の高い小学五年生の女の子。  そのことをイジワルな男子にからかわれたりもするけれど、ちっとも、まーったく! 気にしていない!  なぜなら、晶のモットーは『自分らしく生きる』ことだから!  ある日、晶はいつものように化石採集にでかける。すると、急に地層に穴が開き、晶はその中に転がり落ちてしまう。  穴の中はどうやら地下遺跡のようで、晶はそこで不思議な祭壇を見つける。そして、その祭壇に触れた途端、晶の手の甲にナゾの印が刻まれてしまった!  出口を求めて地下遺跡をさまよううちに、晶はひとりの少年に遭遇する。御祠 友弥(みほこら ともや)というその少年は、自分はトレジャーハンターであると名乗る。そして、晶に刻まれた印は、寿命を半分にしてしまう『呪印』であり、この呪いを解除するためには、遺跡に隠された『大いなる財宝』を手に入れる必要があるというではないか!  こうして、晶は、どこか謎めいたトレジャーハンターの少年・友弥とともに、『呪印』を解くために、地下遺跡にもぐり宝さがしをすることになるのであった――。

処理中です...