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第三章 歌でつながる絆

3.天使の歌声

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 ――次の日の朝。

 脳みそが半分だけ起きているような、心地よいまどろみの中……
 誰かの歌が、聴こえてきた。


 ♪ひつじのぼうやのセーターは
  ママのおさがりなんだって――


 おもちゃの鉄琴のように可愛らしい、それでいて凛とした、きれいな声。
 小さな小さな、囁くような歌声。
 まるで……

(……天使が、ないしょ話をしているみたい)

 そんなことをぼんやり思いながら、わたしはゆっくりと瞼を開けた。
 すると目の前にいたのは――
 ベッドの中でわたしのスマホを勝手に操作し、イヤホンをしながら小声で歌う……

「……キズミ、ちゃん……?」

 そう、呼びかけた途端、

「……ぎゃーっ!!」

 キズミちゃんが、ビクッ! と体を震わせ、顔を真っ赤にして、わたしにスマホをぶん投げてきた!

「うわっ、あぶなっ!」

 ぶつかるギリギリでスマホを避け、わたしはドキドキと心臓を暴れさせる。

「あ、危ないよキズミちゃん! 人に物を投げたらダメ!」
「あんたが驚かせるからでしょ?! 起きるなら『起きる』って言いなさいよ!」
「そんなのムリだから! 『はい、今から起きまーす』なんて予告できないよ! ……っていうか!」

 わたしは、彼女の赤い瞳をじっと見つめ、

「キズミちゃん……今、歌ってた……?」

 半信半疑のまま、そう尋ねた。
 その途端、キズミちゃんはさらに顔を赤くして、首をぶんぶん横に振る。

「う……歌ってなんかいないし! 今のは……そう! ピアニカ星に伝わる呪いの呪文! 聞いた人は今日一日サイアクな目に遭うのよ!」
「なにそれ怖っ! いや、ウソだよね? 絶対に歌っていたよね?」
「だから違うってば! あと、キズミちゃんって呼ぶな! 『キズミ様』っ!」
「はいはい、申し訳ありませんでしたキズミ様」

 犬歯を剥き出しにして喚くキズミちゃんに、わたしはおとなしく引き下がった。

 キズミちゃん、やっぱり歌に興味があるんだ。
 素直に練習に参加してくれればいいのに……

(今日のおでかけで、少しは心を開いてくれるかなぁ?)

 小さくため息をつきながら、わたしは投げつけられたスマホを拾う。
 時間を確認すると、ちょうど七時になったところだった。

 わたしとキズミちゃんが二人でおでかけする間、坂田さんがハミルクとレイハルトさんを東京観光に連れ出してくれることになっていた。
 坂田さんが迎えに来るのは九時。あと二時間ある。

 わたしは、未だ怒り顔のキズミちゃんをなだめるように笑いかけながら、カーテンを開ける。

 今日は、雲ひとつない快晴。
 絶好のおでかけ日和だ。

「……さて、朝ごはんの用意をしなくちゃ。ほら、ハミルク起きて! レイハルトさんも。朝ですよー!」

 そう声をかけると、わたしは腕まくりをして、キッチンへ向かった。
 
 
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