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第三章 歌でつながる絆

2.社会科見学に行こう!

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 ――それから二日間。
 わたしは異星人たちに、たくさんの歌を聴かせた。

 気に入った曲をいくつか選んでもらって、それをみんなで歌ってみる。
 ひと通り歌えるようになったら次の曲へ。

 この練習を、何度も繰り返した。

 子供向けの歌というのは、ほとんどが長調――明るい雰囲気の曲調だ。
 同じ音の繰り返しが多く、リズミカルでテンポが良い。
 だから、印象に残りやすくて覚えやすい。

 歌のない世界で暮らしていた異星人たちが初めて触れるには、うってつけの曲ばかりだった。

 最初、レイハルトさんは音取りに苦労していたけれど、だんだんと合うようになってきた。

 ハミルクはどの曲もすぐに覚え、移動中の車の中や、帰ってからのお風呂でも歌声が聴こえてくるほどにハマっている様子だった。

 キズミちゃんは……相変わらず歌ってはくれなかったけれど、ちゃんとレッスンルームにはいてくれて、こちらの様子をチラチラと窺っていた。


 そうして歌の練習を進める合間に、わたしたちは坂田さんを交えて番組のコーナー企画を考えた。

 けど、こちらはなかなか進まなかった。
 なぜなら……

「『シンカンセン』ってなんだ?」
「この『ぶらんこ』というのは、一体どのようなものなのだ?」
「さっきから思っていたんだけど、『ぱんだ』ってなに?」

 みんなと話せば話すほど、会話や歌詞に登場する地球の知らない言葉が、どんどん浮き彫りになっていったから。

 みんなに質問される度に、スマホで画像や動画を見せながら説明するけれど、その説明の中でまた知らない言葉があったりして……もうキリがない状況だった。

(そうだよね……知らないことだらけのまま企画を考えようとしても、なかなかむずかしいよね)

 三人の質問責めに、わたしが頭を抱えていると……
 隣に座る坂田さんが、スッと立ち上がり、

「……わかりました。では――社会科見学に参りましょう」

 そう言った。
 ハミルクとキズミちゃんが、「しゃかいかけんがくぅ?」と声をハモらせながら聞き返す。

「はい。あなた方がこの星に来てもう五日になりますが、このレッスンルームと紗音さんの寮を行き来するばかりで、あまり外に行けていないですよね? これでは見識が広がらないですし、気持ちも塞がってきてしまいます。だから……」

 にこっと、坂田さんは眼鏡の奥の目を細め、

「明日、思い切ってどこかへ出かけてみませんか? 地球観光……と言うと大袈裟ですが、東京観光ということで」
「いいね、賛成! おれっち、『しんかんせん』が見てみたいんだ。さっき聴いた歌に出てきたやつ!」
「俺も賛成だ。若の行きたいところへぜひ案内してくれ」

 さっそくノリ気なハミルクと、静かに頷くレイハルトさん。
 二人の見た目が人々の注目を浴びないか、少し心配だけれど……わたしも、実際に地球の文化を見てもらうことには大賛成だ。

「キズミ様は? どこか行ってみたい場所はある?」

 と、わたしは残る一人に声をかける。
 しかし、

「ない」

 ばっさり。
 キズミちゃんは、切り捨てるように即答した。

 一緒に過ごす中で、ハミルクやレイハルトさんはかなり心を開いてくれるようになった。
 けど、キズミちゃんだけは相変わらず心を閉ざしたままだ。

 見知らぬ地球にひとりぼっちでいることを受け入れられず、自分の殻に閉じこもってしまっている。
 わたしの目には、そんな風に見えた。
 だから……

「それなら――わたしと二人で、おでかけしない?」

 わたしはキズミちゃんに、そう誘いかけた。
「え?」と聞き返すキズミちゃんの正面に屈み、わたしは目線を合わせて語りかける。

「わたし、東京に引っ越してきたばかりでね。今はまだ春休みだし、新しいお友達が一人もいないの。だから、久しぶりに女の子同士でおでかけしたいなぁ、って思って。キズミ様、付き合ってくれないかな?」

 キズミちゃんと、仲良くなりたい。
 このおでかけを通して、キズミちゃんのことをもっと知りたい。

 そんな思いを込め、わたしはキズミちゃんに優しく笑いかける。
 すると、小さな女王様は照れくさそうに目を泳がせた後、

「……好きにしたら?」

 ぽつりと、そう答えてくれた。
 
 
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