中の人なんてないさっ!

河津田 眞紀

文字の大きさ
上 下
21 / 43
第二章 異星人といっしょ……?

11.イチからのスタート

しおりを挟む


 ――数分後、坂田さんが戻ってきた。

 そして、抱えた紙袋から折り紙や画用紙、色ペンやのり、はさみなどの工作道具を取り出し、テーブルに並べてくれた。

 その様子を訝しげに眺めるキズミちゃんに、坂田さんが言う。

「偉大な発明家であるキズミ様にとっては、お遊びにもならないかもしれませんが……先ほどご覧になったあの番組のように、小さな子供のお手本になるようなものをなにか作っていただけないでしょうか?」

 その言い方に、わたしは感服する。
 坂田さんは、キズミちゃんにはこんな風に褒めながら頼むのが効果的であることをしっかり見抜いているのだ。

 案の定、キズミちゃんは腰に手を当て、

「そうね。こんなのは朝飯前だけど……どうしてもって言うなら少しだけ、この天才発明家のすごさを見せてあげてもいいわ!」

 機嫌良くそう答えて、テーブルに置かれた材料を観察し始めた。
 そして、なにかを思いついたように画用紙とはさみを手に取ると……ものすごい速さで切り始めた。

 その動作には迷いがなく、目を見張るほどに手際がいい。
 それに、速いのに丁寧だ。

(すごい……こんなに器用な人、初めて見た!)

 坂田さんも驚きながらキズミちゃんの手さばきを見つめている。

 そうして、画用紙を切ったり折ったり貼ったりする彼女の手元を夢中で眺めていると……

「はい、できた」

 キズミちゃんが、ふぅと息を吐きながら言った。

 テーブルの上にトンと置かれた完成品は……複雑で精巧な形をしているけれど、わたしにはそれがなんなのかわからなかった。

 だから、素直に尋ねてみることにする。

「えっと……これは、なにかな?」
「はぁ? 見てわかんないの? キズミちゃんと同じ角を持つ、最強ドクロ型宇宙船よ!」

 キ、キズミちゃんと同じ角を持つ、最強ドクロ型宇宙船……?!

 たしかに、画用紙で作られた丸い形はドクロに見えるし、そこに繊細な造りの立派な角が付いているし、よく見ると翼やジェットエンジンのようなものも付いているけれど……

「なんというか……センスが技術を殺しているな」
「ん?! なんか言った?!」

 ぼそっと漏れたハミルクの本音に、キズミちゃんがすかさず噛みつく。
 正直、わたしもハミルクと似たようなことを考えてしまったのは内緒だ。

 目をつり上げるキズミちゃんを宥めるように、わたしは柔らかな声音で尋ねる。

「えっと……なんでこういうデザインにしたのかな?」
「なんでって、かっこいいからに決まってるじゃない! キズミちゃんはね、こういうのが好きなの!」

 えっへん、と胸を反らすキズミちゃん。
 なるほど。今着ている悪役みたいなドレスも、たぶんキズミちゃん自身のセンスで選んだんだ。

「すっ……すごいね! なんというか、独創的で……わたしには絶対に思いつかないものだよ!」

 びっくりしながらも、わたしは手を叩いて称賛した。
 センスはちょっぴりダークだけれど、器用さと技術は間違いなくピカイチだ。

(これは、すごい工作コーナーが期待できそう……!)

 キズミちゃんの特技がわかったところで、わたしは振り返りながら言う。

「まとめると、レイハルトさんは体操やダンスを、キズミ様は工作コーナーを担当できそうだね。あとは、ハミルクの個性を生かした企画があればいいんだけど……」
「ま、おれっちはいるだけで可愛いから、癒しのマスコット担当でいいんじゃないか?」
「でも、ハミルクって喋ったら可愛くないじゃん」
「なんだと?! おれっちの良さはこのおしゃべりなところだろうが!」

 宙に浮きながら、ぷんぷん怒るハミルク。
 彼の性格がだいたい掴めた今、可愛いうさぎさん扱いをする気も、惑星の王子様扱いする気も、わたしにはさらさらなかった。

 そんなわたしたちのやり取りを見て、坂田さんは困ったように笑いながら、

「では、それ以外の企画はこれから考えていくとして。異星人のみなさんにとっての最大の課題が……まだありますよね」

 そう口にする。
 わたしは坂田さんが言おうとしていることを理解し、一つ頷いて答える。

「歌を歌えるか、ですね」
「えぇ。番組内容ももちろん大事ですが、やはり子供番組と言えば歌です。みなさんにも、最低限の歌唱力は求められるでしょう」
「ですよねぇ……みんな、どう? できそう?」

 不安げに聞いてみると、異星人たちは口々に、

「よゆーよゆー!」
「善処する」
「ヤダ!」

 と、答えた。
 ……どうしよう。不安しかない。

 すると、坂田さんがにこっと笑って言う。

「そう思って明日、ピアノが使えるレッスンルームを一日押さえておきました。そこで思う存分練習してください」
「さすが坂田さん! ありがとうございます!」
「いえいえ。歌を教えることはできませんが、それ以外のことならなんでもサポートいたします。今日から一週間、やれることはすべてやって、契約を勝ち取りましょう」

 そして、坂田さんはテーブルの上を片付けながら、

「みなさん、いろいろあってお疲れでしょうから、今日はこの辺でおしまいにしましょう。ゆっくり休んで、明日からまた頑張りましょうね」

 そう言って、優しく微笑んだ。



 * * * *



 ――当面の間、異星人たちはわたしの寮の部屋で一緒に暮らすことになった。

 みんな、まだまだ地球に不慣れだ。
 寮には他にも空き部屋があるけれど、わたしの知らないところでなにか問題を起こしたら大変である。
 だから、わたしの目が届く範囲にいてもらおうと、坂田さんと話し合って決めたのだった。


 事務所のビルを出た後、坂田さんは車でわたしたちを寮に送り届けてくれた。
 途中でスーパーに寄って、数日分の食料も買ってくれた。本当に、お世話になりっぱなしだ。

 そうして寮に帰り着いた時には、すっかり夕暮れ時になっていた。
 車から降り、坂田さんに別れを告げ、わたしは異星人たちと共に部屋に入った。


 ……さて。
 今日からしばらく、ここでみんなと暮らすわけだけれど。

 それにあたって、まず最初にやっておかなければならないことがあった。
 それは……

「はい。ではここで、家事の役割り分担を発表します。ハミルクは、このコロコロで床を掃除して。あなたの抜け毛、けっこうすごいから。キズミ様は洗濯物を取り込んで畳んでね。レイハルトさんは、お風呂掃除をお願いします」

 わたしは、車の中で考えておいたそれぞれの役割をテキパキと伝えた。

 すると、レイハルトさんだけは「わかった」とすぐに答え、早速お風呂掃除に向かってくれた。
 けど、ハミルクとキズミちゃんはあからさまに嫌そうな顔をして、

「はぁー?! なんでおれっちが?!」
「そーよ! キズミちゃんは女王様なのよ?!」

 と、予想通りに文句を言ってくる。
 わたしはため息をつきながら、腰に手を当て、言い聞かせる。

「あなたたちはもうお客さんじゃなくて、一緒に暮らす仲間なの。なんでもお世話してもらえると思ったら大間違いなんだからね。王子だとか女王だとか一切関係ありません。ここは地球で、わたしの家なんだから、一緒に暮らす以上は平等に、協力し合っていきましょう」

 しかし、それでも二人は不満げに口を尖らせるので……
 わたしはぼそっと、こう呟くことにする。

「……やらないと晩ご飯抜きだからね」
「やります!」
「キズミちゃんも!」

 そう叫んで、バタバタと持ち場へ向かう二人。
 ふふん、作戦成功だ。

(さて、わたしはご飯の準備をしなくちゃ)

 と、腕を捲りながら、キッチンへ向かったのだが……



 ――三十分後。

「………………」

 わたしは、家中を見回し、絶句していた。


 脱衣所に溢れ出すくらいの泡にまみれたお風呂場。

 ベタベタと床に貼り付きまくったコロコロシート。

 ベランダから落下し、泥まみれになった洗濯物。


 異星人たちがお手伝いをしてくれた現場は、見事に悲惨な結果となった。

 ……これは、わたしが悪い。
 三人に、ちゃんと家事のやり方を伝えなかったから。

 申し訳なさそうにうなだれる異星人たちを見つめ、わたしは苦笑いをして、

「……ごめん。一からちゃんと教えるね」

 ため息まじりに、そう言った。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

処理中です...