中の人なんてないさっ!

河津田 眞紀

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第二章 異星人といっしょ……?

11.イチからのスタート

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 ――数分後、坂田さんが戻ってきた。

 そして、抱えた紙袋から折り紙や画用紙、色ペンやのり、はさみなどの工作道具を取り出し、テーブルに並べてくれた。

 その様子を訝しげに眺めるキズミちゃんに、坂田さんが言う。

「偉大な発明家であるキズミ様にとっては、お遊びにもならないかもしれませんが……先ほどご覧になったあの番組のように、小さな子供のお手本になるようなものをなにか作っていただけないでしょうか?」

 その言い方に、わたしは感服する。
 坂田さんは、キズミちゃんにはこんな風に褒めながら頼むのが効果的であることをしっかり見抜いているのだ。

 案の定、キズミちゃんは腰に手を当て、

「そうね。こんなのは朝飯前だけど……どうしてもって言うなら少しだけ、この天才発明家のすごさを見せてあげてもいいわ!」

 機嫌良くそう答えて、テーブルに置かれた材料を観察し始めた。
 そして、なにかを思いついたように画用紙とはさみを手に取ると……ものすごい速さで切り始めた。

 その動作には迷いがなく、目を見張るほどに手際がいい。
 それに、速いのに丁寧だ。

(すごい……こんなに器用な人、初めて見た!)

 坂田さんも驚きながらキズミちゃんの手さばきを見つめている。

 そうして、画用紙を切ったり折ったり貼ったりする彼女の手元を夢中で眺めていると……

「はい、できた」

 キズミちゃんが、ふぅと息を吐きながら言った。

 テーブルの上にトンと置かれた完成品は……複雑で精巧な形をしているけれど、わたしにはそれがなんなのかわからなかった。

 だから、素直に尋ねてみることにする。

「えっと……これは、なにかな?」
「はぁ? 見てわかんないの? キズミちゃんと同じ角を持つ、最強ドクロ型宇宙船よ!」

 キ、キズミちゃんと同じ角を持つ、最強ドクロ型宇宙船……?!

 たしかに、画用紙で作られた丸い形はドクロに見えるし、そこに繊細な造りの立派な角が付いているし、よく見ると翼やジェットエンジンのようなものも付いているけれど……

「なんというか……センスが技術を殺しているな」
「ん?! なんか言った?!」

 ぼそっと漏れたハミルクの本音に、キズミちゃんがすかさず噛みつく。
 正直、わたしもハミルクと似たようなことを考えてしまったのは内緒だ。

 目をつり上げるキズミちゃんを宥めるように、わたしは柔らかな声音で尋ねる。

「えっと……なんでこういうデザインにしたのかな?」
「なんでって、かっこいいからに決まってるじゃない! キズミちゃんはね、こういうのが好きなの!」

 えっへん、と胸を反らすキズミちゃん。
 なるほど。今着ている悪役みたいなドレスも、たぶんキズミちゃん自身のセンスで選んだんだ。

「すっ……すごいね! なんというか、独創的で……わたしには絶対に思いつかないものだよ!」

 びっくりしながらも、わたしは手を叩いて称賛した。
 センスはちょっぴりダークだけれど、器用さと技術は間違いなくピカイチだ。

(これは、すごい工作コーナーが期待できそう……!)

 キズミちゃんの特技がわかったところで、わたしは振り返りながら言う。

「まとめると、レイハルトさんは体操やダンスを、キズミ様は工作コーナーを担当できそうだね。あとは、ハミルクの個性を生かした企画があればいいんだけど……」
「ま、おれっちはいるだけで可愛いから、癒しのマスコット担当でいいんじゃないか?」
「でも、ハミルクって喋ったら可愛くないじゃん」
「なんだと?! おれっちの良さはこのおしゃべりなところだろうが!」

 宙に浮きながら、ぷんぷん怒るハミルク。
 彼の性格がだいたい掴めた今、可愛いうさぎさん扱いをする気も、惑星の王子様扱いする気も、わたしにはさらさらなかった。

 そんなわたしたちのやり取りを見て、坂田さんは困ったように笑いながら、

「では、それ以外の企画はこれから考えていくとして。異星人のみなさんにとっての最大の課題が……まだありますよね」

 そう口にする。
 わたしは坂田さんが言おうとしていることを理解し、一つ頷いて答える。

「歌を歌えるか、ですね」
「えぇ。番組内容ももちろん大事ですが、やはり子供番組と言えば歌です。みなさんにも、最低限の歌唱力は求められるでしょう」
「ですよねぇ……みんな、どう? できそう?」

 不安げに聞いてみると、異星人たちは口々に、

「よゆーよゆー!」
「善処する」
「ヤダ!」

 と、答えた。
 ……どうしよう。不安しかない。

 すると、坂田さんがにこっと笑って言う。

「そう思って明日、ピアノが使えるレッスンルームを一日押さえておきました。そこで思う存分練習してください」
「さすが坂田さん! ありがとうございます!」
「いえいえ。歌を教えることはできませんが、それ以外のことならなんでもサポートいたします。今日から一週間、やれることはすべてやって、契約を勝ち取りましょう」

 そして、坂田さんはテーブルの上を片付けながら、

「みなさん、いろいろあってお疲れでしょうから、今日はこの辺でおしまいにしましょう。ゆっくり休んで、明日からまた頑張りましょうね」

 そう言って、優しく微笑んだ。



 * * * *



 ――当面の間、異星人たちはわたしの寮の部屋で一緒に暮らすことになった。

 みんな、まだまだ地球に不慣れだ。
 寮には他にも空き部屋があるけれど、わたしの知らないところでなにか問題を起こしたら大変である。
 だから、わたしの目が届く範囲にいてもらおうと、坂田さんと話し合って決めたのだった。


 事務所のビルを出た後、坂田さんは車でわたしたちを寮に送り届けてくれた。
 途中でスーパーに寄って、数日分の食料も買ってくれた。本当に、お世話になりっぱなしだ。

 そうして寮に帰り着いた時には、すっかり夕暮れ時になっていた。
 車から降り、坂田さんに別れを告げ、わたしは異星人たちと共に部屋に入った。


 ……さて。
 今日からしばらく、ここでみんなと暮らすわけだけれど。

 それにあたって、まず最初にやっておかなければならないことがあった。
 それは……

「はい。ではここで、家事の役割り分担を発表します。ハミルクは、このコロコロで床を掃除して。あなたの抜け毛、けっこうすごいから。キズミ様は洗濯物を取り込んで畳んでね。レイハルトさんは、お風呂掃除をお願いします」

 わたしは、車の中で考えておいたそれぞれの役割をテキパキと伝えた。

 すると、レイハルトさんだけは「わかった」とすぐに答え、早速お風呂掃除に向かってくれた。
 けど、ハミルクとキズミちゃんはあからさまに嫌そうな顔をして、

「はぁー?! なんでおれっちが?!」
「そーよ! キズミちゃんは女王様なのよ?!」

 と、予想通りに文句を言ってくる。
 わたしはため息をつきながら、腰に手を当て、言い聞かせる。

「あなたたちはもうお客さんじゃなくて、一緒に暮らす仲間なの。なんでもお世話してもらえると思ったら大間違いなんだからね。王子だとか女王だとか一切関係ありません。ここは地球で、わたしの家なんだから、一緒に暮らす以上は平等に、協力し合っていきましょう」

 しかし、それでも二人は不満げに口を尖らせるので……
 わたしはぼそっと、こう呟くことにする。

「……やらないと晩ご飯抜きだからね」
「やります!」
「キズミちゃんも!」

 そう叫んで、バタバタと持ち場へ向かう二人。
 ふふん、作戦成功だ。

(さて、わたしはご飯の準備をしなくちゃ)

 と、腕を捲りながら、キッチンへ向かったのだが……



 ――三十分後。

「………………」

 わたしは、家中を見回し、絶句していた。


 脱衣所に溢れ出すくらいの泡にまみれたお風呂場。

 ベタベタと床に貼り付きまくったコロコロシート。

 ベランダから落下し、泥まみれになった洗濯物。


 異星人たちがお手伝いをしてくれた現場は、見事に悲惨な結果となった。

 ……これは、わたしが悪い。
 三人に、ちゃんと家事のやり方を伝えなかったから。

 申し訳なさそうにうなだれる異星人たちを見つめ、わたしは苦笑いをして、

「……ごめん。一からちゃんと教えるね」

 ため息まじりに、そう言った。
 
 
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