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第二章 異星人といっしょ……?
10.みんなの個性
しおりを挟む異星人たちは、テレビ番組を視たことがない。
そもそも、『歌』が存在しない星で生きてきた。
子供向け番組がどのようなものなのか、想像すらできないのだろう。
だからわたしは、言葉であれこれ説明するよりも、まずは実物を視てもらおうと考えた。
引き続き、ポルトアカデミーの相談室にて。
わたしは備えつけられたプロジェクターに自分のスマホを接続した。
「これを視て。あなたたちにお願いしたい仕事の参考になるはずだから」
蛍光灯の明かりを消し、窓にカーテンをかけ、わたしは動画の再生ボタンを押す。
すると、真っ白なスクリーンに、わたしの大好きな番組、『ワッと! わんだほー』が映し出された。
異星人たちはスクリーンの前にお行儀よく座り、興味深そうに映像を視ている。
『みんなー、元気ー? なおだよー!』
『バウワウ! みんな大好きワットンだよー!』
映像の中で、歌のおねえさん役のなおちゃんとワットンが、元気に挨拶する。
なおちゃんは、小学校低学年の女の子。
自分と同い年くらいの子が登場し、キズミちゃんは少し驚いたように目を見開いた。
対するハミルクとレイハルトさんは、大きな犬の着ぐるみであるワットンを目にした瞬間、あからさまにビクッと震えた。
自分たちによく似た生き物が出てきたから、びっくりしたのかもしれない。
でも、特になにも言わずに視続けているので、わたしもそのまま見守ることにした。
『見て、ワットン。葉っぱが黄色や赤に色付いて、もうすっかり秋だね』
『秋と言えば、食欲の秋! あぁ……ワットン、お腹が空いてきたバウ』
『もう、ワットンは本当に食いしん坊なんだから。それじゃあこの歌を歌って、秋の食べ物を楽しんじゃおう。「おいしい秋みぃつけた」。みんなも一緒に歌ってねー!』
これは、数年前に放送された秋スペシャルの映像。
秋にちなんだ歌や手遊び、工作などを、ワットンとなおちゃんが楽しんでいく、という内容だ。
『お芋も栗もサンマも、本当においしいね。それじゃあ次は、この落ち葉を使って好きなものを作っちゃおう!』
『ワットンは画用紙に貼って、お魚の形にしてみようかなぁ』
『いいね! なおは赤い葉っぱで、リンゴの形を作ろうっと』
歌と踊りの後、工作コーナーへと内容が進む。
その後もいくつかのコーナーを経て、秋スペシャルの放送は終了した。
動画を止め、蛍光灯のスイッチをつけると、わたしはワクワクしながら異星人たちに尋ねた。
「ね、どうだった? 楽しいでしょ? 面白いでしょ?」
しかし、ハミルクとキズミちゃんは、ジトッとした目でわたしを見上げ、一言。
「ぜんぜん」
「どこが?」
「えぇーっ!? なんでよぉ?!」
ガーンッ! と、ショックを受けるわたし。
そんな……この素晴らしさが伝わらないなんて……!
しかし、レイハルトさんだけは深く頷いて、こう言ってくれた。
「俺は、非常に興味深いと感じた。つまりこの番組は、子供たちに歌を教えるのと同時に、それを通じて教養や想像力、協調性といった『生きる上で必要な力』を学ばせるものなのだな?」
「そう! そうなんです! 歌に乗せていろんなことを教えたり、頑張る姿を見せて子供たちに勇気を与えたり……わたしたちがやろうとしているのは、そういうお仕事なんです!」
理解してもらえた嬉しさから、思わず立ち上がるわたし。
ハミルクとキズミちゃんは、相変わらず「ほー」「ふーん」とイマイチな反応だけれど、わたしはめげずに訴えかける。
「子供向け番組は、歌を中心にいろんなコーナーを組み合わせて構成されているの。あなたたちの個性を発揮できて、子供たちのためにもなるような、楽しい企画を考えてほしい、っていうのが岩國さんからの課題だよ」
「なるほど。我々の案があの者らが求めるものと合致すれば、『赤い扉』のあるスタジオに出入りがしやすくなるわけだな?」
「その通りです! 『おもしろい』と思ってもらえれば、正式に契約してもらえるはずです」
「おもしろい、か……まずは専門家である紗音殿から見て、どうだろう? 我々に相応しいコーナーというのは、どういったものが考えられる?」
「うーん、そうですね……」
レイハルトさんの質問に、わたしは腕を組み、考える。
これまでの子供番組に倣らうのであれば、歌や寸劇、体操、工作にクイズといったコーナーが定番だ。
でも岩國さんと紫堂さんは、これまでの常識を打ち破るような目新しさを求めているようだったし……
「……あなたたち、なにか特技とかある?」
まずは、みんなからヒントをもらおう。
そう思って聞いてみると、想像よりも早く、
「じゃあ、ハイ」
ハミルクが、小さな前足をちょこんと上げた。
わたしは「はい、ハミルク」と、学校の先生のように彼を指す。
すると、ハミルクは元気いっぱいにこう答えた。
「おれっちの特技は、誰とでもすぐに仲良くなれることだ!」
「却下! それなら同盟を結ぼうとしたキズミちゃんとケンカになんてならないでしょ?」
「それはおれっちのせいじゃなくて、キズミがワガママ頑固娘だったせいだよ!」
「誰がワガママ頑固娘よ! あと、『キズミちゃん』じゃなくて『キズミ様』って呼びなさい!」
と、わたしまでキズミちゃんに怒鳴られる始末。
これのどこが『誰とでもすぐに仲良くなれる』のだろうか?
こほん、と咳払いをし、わたしは仕切り直して尋ねる。
「じゃあ……レイハルトさんは、なにか特技はありますか?」
「ふむ……やはり戦いにおける技術だろうか。剣や銃の扱いはもちろんだが、最も得意なのは体術だ。地球の子供たちに、戦いで負けない体の使い方を教えることができるかもしれない」
「えっと、そういう乱暴なのはちょっと……でも、運動神経の良さはいろんなことに応用できるかも」
「あと、レイハルトはおれっちのお世話も得意だよな。掃除に料理に洗濯、毛並みのお手入れまで、頼めばなんでもしてくれる」
「それは若がなにもしなさすぎるだけです」
「せっかく褒めてやったのに!」
レイハルトさんの返答に、不満げにわめくハミルク。
やれやれ、とため息をつくわたしに代わり、坂田さんが残る一人に投げかける。
「キズミ様は、なにか得意なことはありますか?」
さすが坂田さん。キズミちゃんの機嫌を損ねないよう、ちゃんと『様』を付けて呼んでくれた。
キズミちゃんは、ふふんと得意げに胸を反らし、即答した。
「キズミちゃんはなんでもできるわよ。女王様だから!」
「それは素晴らしいですね。では、特に好きなことはありますか?」
「好きなこと……やっぱり、キズミちゃんのすごさを相手にわからせた時の達成感かな! キズミちゃんが一番だってことを全宇宙に知らしめたい!」
「その気持ち、よくわかるぞ。おれっちも相手を負かすことがなにより好きだ!」
なんて、キラキラした目で同調するハミルク。
(もう、そういう悪い部分だけ意見一致しないでよ!)
と、頭の中でツッコんでから、わたしはふと思い出す。
「そういえば……キズミ様の星は、科学技術が発達しているんだよね? キズミ様も機械を扱うのは得意だったりするの?」
気を取り直して聞いてみると、彼女は「ふん」と鼻を鳴らし、
「愚問ね。ピアニカ星において、キズミちゃん以上の開発者はいないわ。昨日乗っていた宇宙船も、背中のジェット付きカイトも、ぜーんぶキズミちゃんが自分で作ったんだから!」
「えっ!?」
わたしは思わず声を上げる。
あの宇宙船も、ビルの五階から飛び出した時に使っていたジェット付きの翼も、キズミちゃんが作ったものだったなんて……!
(もしかして……工作をやらせたら、ものすごい作品ができあがるかも……!)
わたしと同じことを考えたのか、坂田さんがすぐに立ち上がり、
「工作の道具を集めてきます。少し待っていてください」
そう言って、相談室を出て行った。
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