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第二章 異星人といっしょ……?
6.閉ざされたゲート
しおりを挟む――翌日。
朝食と支度を済ませ、わたしと異星人たちは、坂田さんの車に乗り込んだ。
向かうは、シティーロ通信放送局。
あの『赤い扉』から、異星人たちを宇宙に帰すのだ。
「岩國さんには、どう説明したんですか?」
信号待ちの時、わたしは助手席で坂田さんに尋ねた。
運転席に座る坂田さんは、前方を見たまま答える。
「昨日訪問した時に忘れ物をしたので取りに行きたい、と言ったら、あっさりOKしてくれました。岩國さんの方も私たちに話したいことがあるから、ちょうどいいとおっしゃっていましたよ」
「それって……」
やっぱり、第二スタジオで暴れたことがバレた……?!
どうしよう、絶対に怒られる……
機材の弁償って、わたしの貯金じゃ全然たりないよね……?
冷や汗を流し、あわあわ震えていると、坂田さんがくすりと笑う。
「岩國さんに怒っている様子はありませんでした。恐らく別のお話だと思いますよ」
「ほ、本当ですか? それならいいのですが……にしても」
そこで、わたしはチラッと後ろを盗み見る。
後部座席では、キズミちゃんとハミルクがワクワクした様子で外の景色を眺め、レイハルトさんは静かに目を伏せていた。
そんな異星人たちには聴こえないように、わたしは口の横に手を添え、
「どうやって彼らを放送局の中に連れて行くんですか? 受付で止められちゃわないか心配なんですが……」
こそっ、と尋ねる。
すると、坂田さんはにこっと笑い、
「もちろん、正面から堂々と連れて行きます。彼らは我がポルトアカデミーの新人タレントで、ご挨拶のために連れてきた、ということにします」
「し、新人タレント?」
「はい。これが普通の会社なら追い返されるかもしれませんが、放送局であれば着ぐるみや派手な衣装も珍しくありません。問題なく受け入れられるはずです」
そう答え、再び車を発進させた。
その横顔を、わたしは不安たっぷりに見つめながら、
(本当に大丈夫かなぁ……)
心の中で、そっと呟いた。
* * * *
――しかし、そんなわたしの心配は、杞憂に終わった。
到着したシティーロ通信放送の受付で、わたしたちが止められることはなかった。
坂田さんが言った通り、誰も異星人のことを怪しまなかったのだ。
この見た目のおかげで、かえって撮影の関係者だと思われたみたい。
放送局の廊下を、坂田さんは堂々と進んでいく。
異星人たちも空気を読んで静かにしてくれていた。
おかげで、わたしたちは無事にエレベーターへ乗り込むことができた。
そうして、昨日と同じ五階に辿り着いた。
岩國さんとの約束まで、まだ少し時間がある。
わたしたちは無言で頷き合い、第二スタジオへ向かった。
先にあの『赤い扉』から、みんなを宇宙へ帰すのだ。
キズミちゃんも、ハミルクもレイハルトさんも、早く自分の星に帰りたいのだろう。
黙ってはいるが、気持ちが逸っているようだった。
その緊張が伝わり、わたしまでドキドキしてくる。
わたしは周囲に誰もいないことを確認してから、坂田さんに目配せした。
坂田さんはこくんと頷き、ゴーサインを出す。
わたしは意を決し、スタジオのドアに手をかけ……
音を立てないよう、そうっと開けた。
――スタジオの中は、昨日と同じく真っ暗で、静かだった。
人がいる気配もない。
わたしは異星人たちを手招きし、素早くスタジオの中へ入る。
そして、見張り役の坂田さんを廊下に残し、ドアを閉めた。
足音を殺し、息を潜め、わたしを先頭にスタジオ内を進む。
と、昨日と同じ場所に、あった。
あの『赤い扉』だ。
わたしは無言で指を差し、異星人たちに合図を送る。
そして、そのまま静かに扉へと近づいた。
「………………」
キズミちゃんの喉が、ゴクッと鳴るのが聞こえた。
わたしはレイハルトさんへ視線を送る。
彼はゆっくりと頷いて、手を伸ばし……
宇宙への扉を、一気に、開け放った!
…………しかし。
「…………あり?」
ハミルクの口から、気の抜けた声が漏れた。
わたしも唖然として、扉の向こうを見てみるけれど……
「……うそ」
そこは、あの眩い光の中でも、宇宙船のコックピットでもなく……
『赤い扉』を立てかけているスタジオの壁が見えているだけだった。
「なんで……」
「宇宙へのゲートが、繋がっていない……?!」
キズミちゃんとハミルクが、震える声で呟く。
レイハルトさんも、扉を見つめたまま困惑しているようだ。
わたしにも、わけがわからなかった。
昨日、間違いなくここから、あの宇宙船へ飛び込んだはずなのに……
……と、沈黙するわたしたちの背後で、スタジオの扉が開いた。
廊下の光が差し込むその隙間から、坂田さんが顔を覗かせて、
「紗音さん、そろそろ岩國さんが……って、みなさん、まだここに? とにかく、一旦こちらへ。スタジオに入ったことが見つかると厄介です」
そう、急かすように言った。
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