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第二章 異星人といっしょ……?
1.彼らの正体
しおりを挟む乗り込んだ後の車内は、先ほどまでのバトルが嘘みたいに静まり返っていた。
うさぎさんも狼人間も、赤髪の女の子もなにも言わない。
坂田さんもなにも聞いてこない。
かなり気まずいけれど、わたしは少し安心していた。
だって、こんなおかしな状況、聞かれたところでうまく説明できそうになかったから。
そのまま、坂田さんの運転する車は、わたしの寮にたどり着いた。
人の目がなくて、落ち着いて話せそうな場所といえばここしかなかった。
わたしの部屋は、二階の一番奥にある角部屋だ。
車から降り、階段を上って部屋のドアを開けると、うさぎさんたちは案外おとなしく入った。
引っ越してきたばかりの部屋の中には、まだダンボール箱がいくつも積んである。
あまり広いとは言えない一人用の部屋にこの人数で入ると余計に狭く感じた。
とりあえず、わたしたちは部屋の真ん中にあるローテーブルの周りに座ることにした。
そして、全員がカーペットの上に腰を下ろしたことを確認すると、
「――さて、どこから説明してもらいましょうか」
坂田さんが、眼鏡の位置を直しながら切り出した。
テーブルの向かいに座る三人は、あいかわらずおとなしいままだ。
わたしは意を決して、坂田さんに経緯を説明した。
シマさんの行方が気になり、無断で第二スタジオに入ってしまったこと。
そこで撮影セットの『赤い扉』を開き、宇宙船のような場所へ迷い込んでしまったこと。
そこには角の生えた女性たちとこの赤髪の女の子がいて、狼人間とうさぎさんをレーザー銃で一斉に攻撃したこと。
わたしは狼人間に抱えられ、『赤い扉』を開けて元の第二スタジオに戻ってきた。
けど、赤髪の女の子が追いかけてきて……
「……あとは、坂田さんも目にした通りです。五階の窓から飛び降りて、広場でしばらく争って……」
「そこに私が車で駆けつけた、と」
坂田さんの言葉に、わたしは頷く。
坂田さんはため息をつきながら、困ったようにわたしを見つめた。
「信じがたいお話の連続ではありますが……まず、スタジオに無断で入り込んだことは反省してください。嶋永さんを心配する気持ちはわかりますが、私たちはまだ部外者。許可されていない場所へ勝手に立ち入るべきではありません」
「はい、ごめんなさい……」
「次に……こちらの方々についてですが」
と、坂田さんは顔を上げ、
「紗音さんの話を聞く限りでは、別のスタジオで撮影されていた出演者の方々、ですよね? 何故カメラのない場所であのような立ち回りを……? いえ、まずはお名前と所属事務所を教えていただけますか?」
狼人間たちに、そう尋ねた。
その問いかけに、三人は互いの顔をチラッと窺うと、
「……キズミ・クロロティカ。ピアニカ星の女王様よ」
「ハミルク・ピクカ・ジバラム。ジバラム星の王子だ」
「若……もとい、ハミルク王子の側近を務める、レイハルト・マクシムスと申す」
赤髪の女の子、うさぎさん、狼人間の順に、そう答えた。
正直、耳を疑った。
なんとか星だとか、女王様だとか王子だとか……
それって、撮影の役の設定だよね?
「そうではなくて……あなた方自身のお名前を伺っているのです」
「だから、今話した通りよ」
「……事務所の名前は?」
「ジムショ? なにそれ?」
「俺は側近ではあるが、事務職ではない。所属は近衛隊だ」
坂田さんの言葉に、大真面目に答える女の子と狼人間。
坂田さんは訝しげに目を細めると、
「ここまで役になり切っているとは……なんというプロ意識。えぇと、レイハルトさん、ですね? ちょっと失礼します」
そう言って立ち上がると、レイハルトと名乗る狼人間の後ろに回り込んだ。
そして、背中をしげしげと眺める。
「こうなったら着ぐるみを脱がせて、素顔を確認するまでです。きっとこの辺りにファスナーが……」
と、しばらくファスナーを探していた坂田さんだったが……その表情が次第に曇り始める。
「坂田さん……どうかしましたか?」
「おかしいですね……着ぐるみの継ぎ目がどこにも見当たりません。紗音さんも見ていただけますか?」
継ぎ目が見当たらない……?
わたしは疑問に思いながら、坂田さんの側に行き、レイハルトさんの体を観察した。
わたしは、かなりの着ぐるみ好きだ。
ワットンの熱烈なファンだったせいで、着ぐるみそのものにもハマってしまったのだ。
だから、着ぐるみの構造には詳しいつもりだった。
頭の被り物との境目がないか。
背中にファスナーがないか。
膨らみを出すための送風機がないか。
知っていることを参考に、あらゆる角度からレイハルトさんを見て、触った。
だけど、本当にどこにも見当たらない。
それどころか……触れば触るほど、生身の生物を触っているような温かさを感じる。
「うそ……なんで……?」
わたしは、自分の顔が青ざめるのを感じる。
すると、レイハルトさんが咳払いをして、
「君たちの言う『キグルミ』が何なのかはわからないが……武器を隠し持っていることを警戒しているのなら心配ない。見ての通り、丸腰だ」
そう、低い声で言った。
わたしは坂田さんと顔を見合わせ、ぱちくりとまばたきをする。
信じられない。
けど、もしかして本当に……
レイハルトさんは、中の人がいない……
本物の、狼人間……?!
わなわなと震えていると、うさぎさんがむすっと鼻を鳴らし、
「ずるいぞ、レイハルトのことばっかり撫でて。持ち物検査をするならおれっちのことも撫でてくれ!」
なんて言いながら、ふわふわ浮いて近づいてきた。
思えばこのうさぎさんこそ、不思議な存在だ。
見た目は完全にうさぎなのに、しゃべるし、常に宙に浮いている。
よくできたロボットなのだろうと思っていたけれど……どういった原理で動いているのか、甚だ疑問だ。
わたしは坂田さんに目配せをしてから、うさぎさん――ハミルクを、そっと捕まえた。
ロボットならどこかにスイッチがあるだろうし、飛ぶためのプロペラとかがあるはずだ。
けど、そうした機械的な部分はどこにもなかった。
それどころか、ふわふわな毛に覆われた体は柔らかくて温かくて、トクントクンという心臓の音まで感じられる。
わたしに撫でられ、ハミルクは気持ちよさそうに目を閉じた。
その様子を見て、坂田さんもロボットではないと悟ったのか、驚いたように汗を滲ませていた。
そうなると、次に気になるのが、赤髪の女の子――キズミちゃんの頭に生えた、ひつじのような角だ。
「えっと……キズミちゃん。ちょっといいかな?」
すると、キズミちゃんは「はぁ?」と顔をしかめ、
「女王様の名を気安く呼ばないでくれる? キズミ様、でしょ?」
と、強気な口調で言い返した。
わたしはびっくりしながらも、とりあえず言う通りにする。
「き、キズミ様のその角は……本物だったりしないよね?」
「失礼ね。これは正真正銘、キズミちゃんの頭から生えている角よ! ピアニカ星の女ならみんなそう。特に、由緒正しい王家の血を引くキズミちゃんの角は惑星イチ立派なんだから。信じられないっていうなら、特別に触らせてあげてもいいわよ?」
胸を反らし、自信満々に言うキズミちゃん。
わたしはもう一度坂田さんと顔を見合わせて、キズミちゃんの後ろに立つ。
そして……角の生えた部分を、じっくりと観察した。
見れば見るほど、角は間違いなく彼女の頭から生えていた。
さらに言えば、ルビーのように赤い髪の毛も、ウィッグや染毛ではなく地毛であることがわかった。
わたしは、めまいを感じる。
信じられないけれど、目の前にいる三人は……
着ぐるみでも、ロボットでも、コスプレでもない。
全員、血の通った『本物』なのだ。
なら、彼らが口にしている『惑星』だとか『女王様』だとかっていう言葉も、役の設定ではなく、すべて本当……?
「つまり、みなさんは……別の星から来た宇宙人、ってことですか?」
震える声で尋ねると、ハミルクがあきれたように首を振り、こう答えた。
「『宇宙人』って言い方はナンセンスだろ。宇宙に住んでいるわけじゃあるまいし。『異星人』の方が適切だぜ」
異星人……
アニメや映画でしか見たことのない異星人が、今、目の前にいるなんて……!!
衝撃のあまり、わたしの頭の中に広大な宇宙の景色が広がった。
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