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プロローグ
3.前途多難な幕開け
しおりを挟む――そういうわけで。
わたしは、子供向け番組『にじいろ♪ ささくれよん』の『歌のおねえさん』役に合格した。
それに伴い、『ポルトアカデミー』という芸能事務所に所属することになった。
今日からわたしは、事務所が管理する東京の寮で一人暮らしをする。
新しい中学に通いながら、番組の撮影を進めるのだ。
「……ふふ。少しは緊張が和らぎましたか?」
『サクサクラッタッタ』を聴き終え、運転席の坂田さんが笑う。
坂田さんは、わたしのマネージャーさんだ。
芸能活動だけでなく東京での生活をいろいろとサポートしてくれるそうで、宇都宮までわざわざ車で迎えに来てくれた。
わたしは頷き、笑顔を向ける。
「はい。家を出た時は、一人でやっているか不安で、緊張していたけれど……この歌と坂田さんのおかげで、すごく勇気が湧いてきました。わたし、精一杯がんばります。今日からよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。初めは慣れないことばかりかもしれませんが、無理をせず、楽しみながらやっていきましょう」
にこっと微笑み返す坂田さん。
その優しい言葉に、わたしは元気よく「はいっ」と頷いた。
坂田さんは再び前を向き、運転を続ける。
「あと一時間ほどで寮へ着く予定です。お荷物は先にお部屋に届いていますから、確認をしたら一緒に夕ご飯を食べに行きましょう。今日は早めに休んで、明日は……」
「番組のプロデューサーさんと初めての打ち合わせ、ですよね」
ごくっと喉を鳴らしながら、わたしが言う。
和らいだはずの緊張が、少しだけ戻ってきたような気がした。
坂田さんは頷き、続きを話す。
「はい。番組の撮影スケジュールや、他の出演者の方との顔合わせもあるそうです。もちろん私も同席するので、リラックスして参加してくださいね」
わたしの緊張が伝わったのか、坂田さんはそう言ってくれたけれど……やっぱりドキドキする。
でも、きっと大丈夫。
もう、好きなことから逃げないって決めたから。
そう自分に言い聞かせ、わたしは「はい」と答えながら、窓に流れる桜を見上げた。
* * * *
――翌日。
番組プロデューサーさんとの、初めての打ち合わせの日。
わたしは坂田さんと一緒にテレビ会社を訪れ、笑顔でプロデューサーさんに挨拶をした。
けど、その笑顔は、すぐに曇ることになる。
何故なら、プロデューサーさんが……こんな言葉を口にしたから。
「いやぁ。実は、すごく言いにくいんだけど……今、撮影の目処が立たない状況でね」
「……え」
えぇぇええぇっ?!
撮影の目処が立たない、って……?!
わたし、これからどうなっちゃうの……?
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