剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

休息と謎アイテムの正体

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「マヤメ、戻ってきたよ」
「ほぇ~、一体どうやったの? スミカちゃんの服も戻ってるし」

 マヤメと桃ちゃんの待つ、洞窟内へと帰ってきた。
 裏世界へと連れていかれた、トテラを取り戻して。


「ん、澄香とトテラっ!」
『ケロローッ!』

 私たちに気付いたマヤメが、桃ちゃんを地面に降ろし、直ぐに駆け付けようとするが、 


「んっ!」

 苦痛に顔を歪ませ、立ち上がる事が出来なかった。
 ヒトカタに受けた傷が、まだ完全には直っていないようだった。  


「マ、マヤメちゃん、無理しないでっ!」

 ぴょんっ!

 よろけるマヤメの元に、一足飛びで駆け寄るトテラ。
 背中にそっと手を回し、ゆっくりと地面に座らせる。


「ん、トテラ、戻ってきた」
「うん、アタシ戻ってきたよ。勝手に行っちゃって、本当にゴメンね」
「ん、トテラが無事ならマヤはいい」
「うん。でもちゃんと訳を話すね?」
「ん、それと澄香…… ありがとう」

 トテラに支えられたまま、マヤメは私の目を見て、一言お礼を口にする。
 一見すると、不愛想に見えるが、マヤメを知ってる私から見れば、かなり喜んでいる様に見える。


「ま、気にしないで。トテラは私も気に入ってるし、マヤメの友達だしね」

「ん、まだ腕が……」

「ああ、これも気にしないでいいよ。切られた腕は回収してるし、落ち着いたらキチンと治療するから」

「ん、でも……」

「って、言う訳で、少し休憩しようか? あっちに部屋を用意するから、話なら中で話そっか。トテラ、マヤメをお願い」

「うん、任せてっ!」

 マヤメの頭を軽く撫で、レストエリアを設置する。
 そんなマヤメはまだ何か言いたげだったが、トテラに任せて中に入った。


『せっかくいい表情が見れたのに、私が原因で暗くなるのは嫌だからね。桃ちゃんやトテラも含めて、みんな無事だったんだから』

 互いに気遣いながらも、自然と笑みを浮かべる二人を見て、そう思った。  
 

――――――――


「とりあえずマヤメはベッドに寝て。まだ完全には直ってないんでしょう?」
「ん」
「じゃ、トテラはマヤメをベッドに運んであげて」
「うんっ!」
「それと、飲み物と軽い食べ物は、ここに置いておくよ」
 
 4人掛けのテーブルの上に、回復系レーション各種と、串焼き肉。それとお味噌汁を二人分並べていく。


「あれ? スミカちゃんは?」

 桃ちゃんを抱えて、部屋を出ようとする私に声を掛けてくるトテラ。


「私は先にお風呂に入ってくるよ。その後二人も使っていいから」

「ん、わかった」
「うん、ありがとうっ!」

 パタン

 笑顔で返す二人を残し、桃ちゃんと脱衣所に向かった。


―――――――――― 


「い、つつ……」
『ケロロ?』

 切断された腕を取り出し、Rポーションを使用する。
 緊張感が薄れた為か、今になって鈍痛が走る。


「ふぅ~、これで良しっと。左足もそうだけど、あと数時間は安静かな」

 下着と一緒に、装備を脱衣かごに入れ、鏡の前で確認する。
 見た目は問題ないが、動かすにはまだ違和感が残る。


「ま、仕方ないか。無傷とは言えないけど、マヤメもトテラも桃ちゃんも、全員無事だったんだから」

 シャ――――

 コックを捻り、桃ちゃんと一緒にシャワーを浴びる。 
 少しだけ温いが、これ以上は桃ちゃんがのぼせてしまう。

 キュ

「どれ、桃ちゃんも洗ってあげる。二人を守ってくれてありがとうね」
『ケロロ――♪』

 シャワーを止め、自分の体と一緒に桃ちゃんを洗う。
 ヒトカタに受けた傷が癒えたとはいえ、所々、体液で汚れていた。


「よし、これでキレイになった。私はお風呂に入るけど、桃ちゃんはどうする?」
『ケロロ――ッ!』
「なら一緒に入ろうか? ちょっと熱いから、無理そうなら先に上がってて?」
『ケロ♪』

 ジャポンッ

「っと、孤児院の池じゃないんだから、もう少しゆっくり入ってね? それと小さくなった方が広く使えるからお願いね」

『けろろ~』

「それと、お風呂から上がったら、桃ちゃんにもオヤツあげる。あんなに頑張ったんだからお腹減ったでしょう?」

『けろろ――っ♪』

 桃ちゃんと一緒に湯船に浸かる。
 二人分の広さはないが、体長が5センチ程になった桃ちゃんとなら余裕だ。


「ふぅ~、今回はさすがに疲れたかも。砂漠に来てから色々あったしね」

 ゆらゆらと天井に昇る湯気を眺めながら思い出す。
 ここ数時間で起きた、目まぐるしい出来事を。


 マヤメのマスターの眠る、トリット砂漠について早々、サンドワームとサンドパルパウに襲われているトテラを救出し、

「その後で、トテラが逃げ出したんだよね? お漏らししてて、お風呂を貸したら、お風呂グッズをパクって、逃走したんだった。で、その次は――」
   
 逃走したトテラを追って、直ぐに見付けたはいいが、今度はアリジゴクにハマってた。


「で、トテラを助けたまでは良かったんだけど、その時に、発情スイッチの耳に触れちゃって、私に襲い掛かってきたんだ。それでGホッパーで遠くに飛ばしちゃって、落下した先が、サソリの魔物の群れの中だったんだ……」

 今更ながらに思う。
 私も関わっているとはいえ、トラブルが多過ぎると。

 そう考えると、手癖の悪い事や、暴走(発情)する事も含めて、マヤメがトテラを警戒していたのが良く分かる。


「ま、そんなトテラとマヤメだけど、私がメーサに飲み込まれて、その胎内でヒトカタと戦ってた時は、私を助けるために、二人は共闘したんだよね」

 それが切っ掛けで、その後は、二人の距離がグンと近づいた。
 一緒に戦い、守り合う事で、一気に信頼度が上がったのだろう。

 元々マヤメは、兎族ってだけの先入観で、トテラの事を毛嫌いしていた。だけどトテラは、持ち前の純真さとコミュ力を発揮し、自然と和解していった。   


「そして、半分になったヒトカタとの戦闘と、地下に降りてのタチアカとの戦闘があって、裏世界からトテラを取り戻して、ようやく今ゆっくりできたと…… それじゃ桃ちゃん上がるよ?」

『けろろ?』

 ジャバ

 気付いたら洗面器の中で、水浴びをしてた桃ちゃんに声を掛ける。   
 きっとお風呂の熱さに耐え切れずに、浴槽から抜け出したのだろう。


――――――――――


 ガ――――

「ふぅ~」

 下ろしたての縞々のパンツを履き、鏡の前で髪を乾かす。
 ドライヤーの温風が、長く湿った黒髪を次第に軽くしていく。


「あ、そう言えば――――」

 鏡の中の自分と目が合い、ふと思い出す。 
 とある謎のアイテムを入手していた事に。


「うぇ、なんか生々しいんだよね? この目玉……」

 それは、裏世界での科学者、マカスから奪った目玉の付いたカチューシャだった。

 スチャ

「ん? なんだ? 何も変わらないじゃん」

 頭に着け、鏡を見てみるが、そこにはいつもと変わらぬ美少女が映っていた。

「……桃ちゃんも一緒かぁ~、何か映し出されると思ってたんだけどなぁ」
『けろ?』

 予想では、相手の情報や能力が視えるものだと思っていた。
 数値、若しくは色や何かで、弱点とかもわかるものだと。

 その理由は、私の正体を知るマカスが、私を執拗に見ていたからだ。


「……ま、もしかしたら、使用条件や、持ち主登録しないとダメなのかも?」

 ガチャ

 若干、期待外れだったなと、いつもの装備に着替えて、脱衣所を出た。


――――――――――


「なんだ、二人とも寝ちゃったんだ」

 居間に戻ると、ベッドの上でマヤメとトテラが寝息を立てていた。
 食べ物が減っている事から、お腹が膨れて寝てしまったのだろう。


「そりゃそうだよ。色々あって、二人も疲れてたんだもんね? どれ、もう一枚毛布でもって…… ええええぇ――――っ!」

 アイテムボックスから、毛布を取り出し、二人に近付くと、

「な、な、なんで服着てないの――――っ!」

 何故か、全裸で二人が抱き合って寝ていた。


 色白で華奢でありながらも、形の良い二つの膨らみを持つマヤメ。
 それに対し、日焼けした健康的な肌と、そこそこの胸部装甲のトテラ。

 しかも偶然なのか、トテラの手がマヤメの左胸へ、マヤメの腕がトテラの太ももに挟まれているせいで、どこかハレンチな想像をしてしまう。


「はわわわわ…… な、なんで、なんで? ってか、服、服はどこ行ったのっ!?」

 キョロキョロと周囲を見渡すが、二人の服が見当たらない。
 わざわざ片付けてから寝るなんて、面倒な事しないと思うけど。


「あ、それじゃ、マヤメのマジックポーチに?…… って、そもそもパンツ履いてないじゃんっ! それじゃ、一体何処に?…… はっ! も、もしかして――――」

 嫌な予感がしながらも、直立姿勢になって、自分の体を見下ろしてみる。
 

『………………』

 すると徐々に装備が透けていき、傾斜のほぼない、なだらかな斜面と、二つの薄桃色の突起が目に入った。


「やっぱり………… これ、か?」

 脱衣所から着けていた、目玉型のカチューシャを外し、二人を見てみる。

「うん…… 着てる。私も着てる」

 マヤメとトテラは勿論、私もいつもの格好だった。


「じゃ、なにっ! このアイテムって、服を透視するだけってことっ!? そ、それじゃ、あのマカスがずっと、こっちを見てたのって――――」  


 ただ単に、私の裸をガン見してただけじゃんっ!
 分析や情報集めじゃなく、覗き見していただけじゃんっ! 

 未知のアイテムを使い、さも何かあるような雰囲気をかもし出しておいて、動き回る美少女の裸体を、舐め回すように鑑賞していただけじゃんっ!


「あ、あのロリコン変態DQN科学者めっ! 今度会ったらアイツの目玉をくりぬいて、リアル目玉カチューシャを作ってやるっ!」

『ケロ?』

 グッと拳を握り、あの嫌らしい視線を思い浮かべ、復讐を決意する。

 苦戦を強いられ、手痛い傷を負わされたタチアカよりも、戦いには参戦せず、何食わぬ顔でずっと、私の裸を追い続けていた、マカスの方が心底憎いと思った。 



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