剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

時代遅れ

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 前時代的・旧式・B級品・型落ち。
 言い方は多々あれど、要するに私の装備は、


「この刀で斬れぬものはないっ! 貴様の透明壁とやらも一刀両断できるだろうっ!」

 芝居がかかった台詞で、1本の太刀を引き寄せるタチアカ。
 一気に威圧感が増し、どことなく息苦しさを覚える。

 今の話が本当であれば、既に、私の装備は時代遅れな可能性が高い。
 未来より持ち込まれた、最新式の装備や技術によって。



「……随分と自信満々だけど、なんなら試してみる?」  

 大盾を解除し、挑発する様に長剣2本を構える。 


「ん、澄香……」

「なんでそんな顔してんの? 私が負けるとか思ってるの?」

 不安げな表情を浮かべる、マヤメに声を掛ける。
 そんなマヤメの様子に、ちょっと意地悪な質問をしてみる。


「ん、マヤは知ってる。澄香はもの凄く強い。フーナにも負けなかった。ジェムの魔物にもたくさん勝ってきた。でもタチアカは――――」

「別次元って言いたいの?」

「ん…………」

 目を伏せ、遠慮がちに小さく頷く。


『う~ん…………』

 正直、ちょっと複雑な気分だ。
 せめてもう少し悩んで欲しかった。

 けど、逆を言えばそれだけ信憑性が増す。
 
 マヤメは監視役として、私の戦いを今まで見てきたのだから。


「来ないならこちらからいくぞっ! クリア・フレーバーっ!」

「いちいちフルネームで呼ぶなってっ! これだから厨二病はっ!」

 タンッ

 右に飛びのき回避する。
 タチアカの背後から射出した、2本の太刀を。

 ガガンッ
 
 更に襲ってきた太刀を長剣で弾く。

 
「…………」

 ここまでは覚えがある。
 過去に対戦した、あの時とほぼ同じ流れだ。

 すると次の行動は、


 ダンッ


「はん、相変わらずの捌くのが上手いなっ!」

 自在に操る刀を目くらましに、タチアカ本人が接近してくる。
 残り4本の赤太刀を、時間差で射出しながら。


「ほっ」

 ガインッ

 迎撃する。
 最初に届いた1本を、長剣で真横に薙ぎ払う。


「んっ!」

 ガンッ

 次にくる攻撃は、上から地面に叩き付けるが、


「くっ!」

 ガガガガガ――――ンッ! 

 正に暖簾に腕押し。
 弾き飛ばした太刀は、クルと向きを変え、再び襲い掛かってくる。
 更に射出した、残り3本と共に。


「はは、よく6方向からの攻撃を捌けるなっ! さすがソロ最強プレイヤー、クリア・フレーバーだっ! やはり貴様はこうでなくては面白くないっ!」

「いちいちセリフが大袈裟なんだよっ! マジで拗らせ過ぎだってっ!」

 だがタチアカの実力は本物だ。
 以前にも、私はこの波状攻撃に手を焼いた。 

 弾いても、避けても襲ってくる、6本の赤い太刀。
 まるで意志があるかのような、緩急自在の動き。


『そう。ここまでは一緒なんだけど……』

 タチアカの握る、最後の太刀に目を向ける。
 唯一、刀身が"極黒”で、薄黒い輝きを放つ、大太刀を。
  
 
『きっと、あの刀が何かしら、手を加えた刀なんだと思う。研究がどうとか言ってたし。だったら――――』

 ググッ

 2本の長剣を、胸の前でクロスに構える。
 重さをプラス50tにし、四方から襲いくる太刀全てを――――  


 ガギイィィィ――――――ッ!! ×6


「んっ!」

「なっ!?」

 一気に弾き返し、その勢いでタチアカの懐に入る。

 ザッ

「だったら確かめるしかないよねっ!」

「な、なんだ貴様のその力はっ! 以前とは――――」 

「だから言ったでしょ? 強くなったのは自分だけじゃないってっ!」

 ヒュンッ

 長剣を、足下から掬い上げる様に繰り出す。
 それに対しタチアカは、瞬時に反応し、袈裟斬りに太刀を振り下ろす。


「は、そんなのでワレを出し抜いたつもりかっ!」

 ブンッ


 極黒の太刀。そして、スキルで作製した長剣が交わる。

 早さも鋭さもこちらに分がある。
 更に重さを50tにしている事から、威力も確実に上回っているが、


 ザンッ!


「う、ぐ…………」


 クルクルと弧を描き、見なれた物体が背後に飛んでいく。
 まるでさっきの焼き増しかのように、マヤメとトテラの前に、今度は私の腕が。


「はん、だから言っただろう? ワレに斬れぬものはないとなっ!」

「う、く、はぁ、はぁ……」

 腕を抑え、苦しむ私を、タチアカは悠然と見下ろす。
 切っ先を私に向け、悦に入った笑顔を浮かべている。

  
 その後ろでは、タチアカの前に跪く私を、


「澄香――――」
 
 呆然と見つめるマヤメ。そして――――

「あわわわわ…………」

 切り落とされた腕を見て、怯えるトテラがいた。


 ヒュンッ
 ドガンッ! ×2


「……やっぱりその刀、厄介だね。これも防がれるなんて」

「ふむ、これが透明壁か。確かに視えんな。だがさすがにもうネタが尽きたか?」

 薄ら笑いを浮かべるタチアカに、スキルを叩き付けたが、難なく弾かれた。
 所持者を守る結界のような6本の太刀に。


『ふぅ、痛みと出血はポーションで治まった。でもまさか斬られるとは……』

 あの黒い太刀に、何かあるとは思っていた。
 けど、この結果は予期せぬ出来事だった。

 私の長剣と黒い太刀が交わった瞬間、右腕を斬られていた。 
 絶対障壁のスキルを擦り抜け、肘から先を切断されていた。


『これも、未来から持ち込まれた技術か、あの武器のせいなんだろうけど、これぐらいのダメージなら、まだ戦える……』

 左手の長剣を握りながら、ゆっくりと立ち上がる。

 利き腕を失くし、更に『Safety安全 device装置 release解除』の反動が残っていても、今だけは関係ない。

 状況的には分が悪いが、そもそもこれは私だけの戦いではない。

 マヤメのマスターや、トテラの帰りを待つ兄妹のため。
 延いてはこの国や世界を、そしてみんなの笑顔を守る為。

 だから泣き言なんか言ってられない。
 形勢が悪かろうが、仮に四肢を切り落とされそうが、ここで何としてでも食い止める。


「さあ、ここからが第二ラウンド。手負いの私はかなり手強いよ?」

「ほう、まだ立ち向かってくるか? ならこちらもそれ相応に、相手をしてやろう。今度は貴様からかかってくるが―――― ん?」 
 

 ――♪ ♬♫―― ♪――――― ♪♫ ―♪♪♫ ―――― 


「?」

 唐突に、間の抜けた音楽が洞窟内に響き渡る。
 まるでガラケーの着信のような、安っぽいメロディーが。


「これって…… ホタルノヒカリ?」

「ちっ、どうやら制限時間が来たようだな……」

 何処からか取り出した、四角い端末を見て呟くタチアカ。

「制限時間?」 

「そうだ。ワレたち裏世界のプレイヤーは、とある期間内でしかこちらの世界を行き来出来ぬ。RROでもそうだったはずだが?」

「RROでもって?…… はっ!?」

 タチアカの説明でふと思い出す。
 ゲーム内で年に一度開催される、表と裏世界の合同イベントの事を。


「そういう事だ。今ワレがここに存在できるのは、長年の研究と、この世界で集めたエナジーを消費して、強引に顕現しているってことだ。この世界の理に反してな」

「もしかして、その為に、この世界の人達の?…………」

「ああ、さすがに察しがいいな。それ以外にも魔戒兵や装飾品、装備やアイテムにも使われている。この世界の人間から搾取した、生気と呼ばれるエナジーを使ってな」

「…………なるほど」

 今の話で何となく繋がった。

 魔戒兵と言うのは、恐らくジェムの魔物とその取り巻き。
 それにヒトカタも含まれるはずだ。
 
 そして、装備品やアイテムに関しては、恐らくこの世界にも出回っている。
 この世界ではオーパーツ過剰技術なものを、私は目にしているから。

 
「さて、ワレはここで帰還する。貴様との決着を付けられないのは、少々口惜しいが。そもそもここに来た目的は1号の回収だ」

「口惜しいならもう少し付き合いなよ。ここからが本番でしょ? その黒い刀以外にも、まだ色々隠してるだろうから」

 タチアカが身に着ける、深紅のフルプレートに目がいく。


「いや、このままだとワレは消滅してしまう。この世界に弾かれて、裏の世界にも戻れぬ。だから貴様との決着は一時保留だ」

「あ、そ。ならって事で。今回は引き分けにしようか?」

「はぁ? 貴様は何を言っている。完全にワレが貴様の実力を上回っていたはずだ。痛みをこうむったのは貴様だけだろう。それに、ん? そのポーズは…… なんだ?」

 左手でスカートをたくし上げる、私の姿に訝し気な目を向ける。


「これ? ああ、別に気にしないでいいよ」

「? ま、まあいい。一応忠告しておくが、随分と子供っぽいものを身に着けてるのだな。もう少し色気のあるものの方が、貴様には合っていると思うが」

「ご忠告どうも。一応頭に入れておくよ」

「う、うむ………… さて、そろそろ時間だな。そこの兎族。お前の事は"マコイ”から聞いている。名前は確かトテラとかいったな? 今回の情報次第では、リバースシスターズの加入を認めよう。兄弟たちの命と引き換えにな」

「はあっ!?」
「んっ!」

 思いがけぬ名前が、予想外の人物から出た事に、混乱する私とマヤメをよそに、


 ぴょんっ

「マヤメちゃんとスミカちゃん、本当にゴメンね?……」

 マヤメの傍を一足飛びと離れ、タチアカの腕を握るトテラ。


「んっ! な、なんでトテラっ!」

「本当にゴメンね…… このままだと、妹や弟たちが…… だから」

「んっ! それじゃわからないっ! もっとマヤに説明を――――」

「おっと。それぐらいにしてもらおうか? そろそろタイムリミットだ」

「マヤとトテラの邪魔するなっ!」

 激しく感情を剥き出しにし、口を挟むタチアカに吠えるマヤメ。 

 
「あ、そうそう。貴様にも世話になったついでに、一ついい事を教えてやろう。マスターを葬ったのは…… このワレだ」

「んっ!?」

「そんな貴様は長年、ワレが親の仇とは知らずに、今までよく働いてくれた。それではクリア・フレーバー。また会おうぞ」

 シュン――――

 驚愕の事実を叩き付け、タチアカたちはいなくなった。
 足元から消える様に、この場から消え去ってしまった。  


 そして、この場に残ったのは――――


「う、うわああぁぁぁぁ――――――っ!!」

 トテラ、そして、マスター失った経緯を聞き、地面に拳を叩き付け、激しく嗚咽を漏らすマヤメがいた。 


「ちょっと行ってくる。だから桃ちゃんをお願いね?」

 そんなマヤメの頭に桃ちゃんを乗せ、優しく声を掛ける。   


「ん、グス、澄香。その姿は?…………」
『ケロ?』

「ああ、これ? これはあのデカ女にをする姿だよ。マヤメは私の性格知ってるでしょう?」

「ん、10倍…… 返し? グス」

「そ、だから私に任せて、もう泣かないで。マスターの件はどうしようもないけど、その分の借りと、トテラを必ず取り戻してくるから。マヤメも聞きたい事あるでしょ?」

 目尻を拭いてあげた後で、ポンと頭に手を乗せる。  

  
「ん、澄香。お願い…… トテラを無事に連れてきて」 
「うん、じゃ行ってくる」 

 ヒュン――――

 泣き顔から、少しだけ元気を取り戻したマヤメに手を振り、私自身、2度目となる、裏世界リバースワールドへと足を踏み入れた。  




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