剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

常識外VS非常識

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 ※スミカ視点
 (一人地上に残り、ヒトカタと戦闘中)



 カパッ


『『――ョジ』』

「遅いっ!」

 パンッ

 消化液を吐き出す前に、首から上が爆散した白い人型。
 重さを5tプラスした、なんちゃってトンファーの一撃を喰らって。

 いくら”起こり"が読めないと言っても、流石にこの距離で見逃すわけがない。
 変化を目視した後でも、十二分に対処できる。


「よっ!」

 ザシュッ ×10 

 そして顔面が再生する前に、背後に回り込み、斬り付ける。
 無防備な背中に向かい、二刀の短剣で滅多切りにする。

 
『思った通り、動きも反応も前と違う。このまま背後を取っている限り、脅威となる攻撃はなさそうだけど――――』

 正面で戦えば、恐らくあの消化液が飛んでくる。
 だからこの場合は、背後から仕掛けるのが正解

 あの時、分身と一緒に浴びた地面は、一瞬で溶解され、瞬く間に穴が開いた。
 その後、周囲の砂が流れ込み、すぐさま塞がったが、あらためて危険なものだと再認識した。


『それにしても、なんで桃ちゃんはここを離れたの? いなくなったって事は、だと思うけど……』

 私だけが知っている、桃ちゃんの事実。
 寝食もお風呂も一緒だったからこそ、ようやく気付けた能力。

 それは桃ちゃんが、索敵能力に優れている事だった。

 しかも、この目の前にいる、の可能性が高い。


 アシの森での初遭遇時や、メーサの胎内での2度目の邂逅、そして今回も、私より先に気が付き、鳴き声を上げる事で、人型の接近を教えてくれていた。

 だからそうなんだろう。
 桃ちゃんがここを離れたって事は、確実にそういう事だろうと。

 私がいる地上だけではなく、マヤメたちがいる地下にも、人型が現れているんだと。


『だとしたら、さっさとコイツを倒して、みんなの元に急がないと。きっと地下にはコイツの"半分”がいるはずだから』

 そう考えれば辻褄が合う。
 今の人型は、気配と共に、体積が半分になっているから。  


『分身だか、分裂だか知らないけど、そもそも変形するんだから、もう一々驚かないよ。それよりもどうやって、地下に行ったかだけど――――』

 胴体を斬り付けながら、人型の背後をチラ見する。
 今はその痕跡はないが、あの消化液を浴び、穴が開いた地面を。  


 パカッ

「ってっ! しつこいっ!」

 パンッ!

 再生を終えた人型の頭部を再度吹き飛ばす。
 背後に回り込んだはずが、後頭部に穴が開き、そこから吐き出そうとした。


「ち、この様子だと、前も後も関係ないって事か。なんなら胴体からでも出そうだし…… だったら――――」

 人型に寄りかかるように、頭をトンと付ける。
 私の身長だと、ちょうど胸の高さくらいだ。
 
 

『『?…………ダ、ンナ"――』』
「………………」

 そんな私の行動に、困惑する人型。
 動きを止め、体が硬直したのを僅かに

 傍から見れば、愚かで迂闊な行為に映るだろう。
 何を仕掛けてくるかわからない相手に、自ら密着しているのだから。 


「でも、この距離なら――――」

 前後も、ましてや上下も左右も関係ない。
 密着する事で、相手の行動を察知する、最適な距離だ。


 そしてこの距離こそが、私の持つSPスキルの『蝶瞰覚』を、最大限に発揮できる最良な距離だ。 



==============


 【蝶瞰覚】(ちょうかんかく)

 相手に密着することで、心音や呼吸、筋肉の動きから振動を感じ取り、行動を先読みできる、スミカのプレイヤースキル。

 更にその追加効果として、相手と自分の動きを脳内でイメージ化し、疑似的な鳥瞰ちょうかん(宙から見下ろしたような視点)を可能にする。



==============


 その結果――――



「――――右腕振り下ろす」

 スパンッ!

『『?!ッ』』

「次、左腕で私の脚を掴む」

 グシャ!

『『!ッググ』』

「次は頭を引いての頭突き」

 パンッ!

『『!!ッ――――』』

「そして、一度後退してからの――――」

 ス――――

『『?!?!ッ』』 

「地面の中に伸ばしていた、鋭い右脚での突き上げ」

 ザンッ!  

『『!?!?!?!ッッッッ――――』』  

 振ろ降ろしてきた人型の右腕を切断し、その死角を突いた左腕を潰す。次に、間髪入れず来た頭突きを拳で破壊し、距離を取る人型に密着したまま、背後から伸びてきた触手を薙ぎ払う。


『ふぅ~、やっぱり消耗が激しい』

 ゆっくりと息を吐き出し、少しだけ集中を解く。

 もう一つのSPスキル(脊髄反射)は、無意識化からくる、人体の反射行動を利用するが、この『蝶瞰覚』はその真逆で、極限の集中力を要する。

 僅かな振動から部位を、微かな音から方角を、些細な違和感から距離を感知し、最後は直感で攻撃を繰り出す。

 このスキルを使えば、相手が動いた瞬間=それが相手へのカウンターになる。
 だがその反面、敵に密着し、無防備を晒す事で、著しく精神力を消耗する。 



『ふぅ、でもここからがこのスキルの真骨頂。相手の動きを感知できるって事は、相手の弱点や隙、無防備なを補完できる――――』

 脳内でイメージする。 
 相手と自分をドール人形に見立てて。

 ドールが腕を上げれば脇腹が、脚を上げれば膝が、体を捻れば鳩尾が、頭を下げればこめかみが、それぞれに弱点に視える。

 まるで観戦者の様に。 
 自分と相手の戦いを、第三者が外から観戦しているように。 

 そう、今の私には――――


 ザシュッ!
 
 串刺しせんと、右脇腹から生えてきた二―ドルを、短剣で切断すると同時に、

 ザクッ!

「――――――」

 ガラ空きになった左脇腹を、お返しとばかりに槍で貫く。


『『!ッ――――ァァァァア』』

 ブンッ

 次に、再生した両腕で、私を掴みにかかるが、

 ザンッ ×2
 ドガッ ×2

 動いた瞬間に両腕を切断し、開いた背中と腰にスキルでの打撃を加える。


『…………ふぅ』

 そう。今の私には、上下も含めて、全方位の状況が疑似的に視えている。
 動きを感知することによって、まるで俯瞰的に視えているみたいに。

 これが『蝶瞰覚』の真髄にして真骨頂。
 カウンターで迎撃すると同時に、死角となる部位に追撃が出来る。

 そして、このスキルを使用すれば、相手が単体、あるいは、形のあるモノならば、ずっと私のターンに持ち込む事が出来るが、



『『………グ、コノ、―――』』

 一気呵成に攻め込むつもりが、ここで人型に変化が訪れた。


「え?」

 今までの逆さ言葉や言語化不能なノイズではなく、


『『――――ソン、ナ、ヨワソウナ、ムシ、ナノニ』』

 片言ではあるが、理解できる言語で話し始めた。


「…………な、に?」

『『モ、ウ、オマエ、トハタタカハ、ナイ』』

「……戦わない? なんで?」

 一歩後ろに引き、顔を見上げる。


『『ゴ、チソウナノニ、タダ、イタイ、ダケダ』』

「痛い? あ、そう…… だったらどうするの?」

 唐突な流れに一瞬戸惑うが、会話が可能ならばと話を続ける。


『『モウヒトリ、ノワタシ、ガ、コノ、シタニ、ゴチソウ、ミツ、ケタ』』

「もう一人の私? それとご馳走って?」

『『ニン、ギョウト、ケモノ…… ソレ、トマモノ』』

「人形と獣と…… 魔物?」

 人形と獣は恐らくマヤメとトテラの事だろう。
 だとしたら、最後の魔物はきっと桃ちゃんだ。


『……やっぱり、地下にもいるのは間違いないな。で、桃ちゃんが、二人に危険を知らせにいったって事か』

 ここまでは、凡そ想像できた。
 桃ちゃんがいなくなった理由も、この人型が弱体化した訳も。

 そもそもメーサの胎内で戦った時とはまるで別人だ。
 動きも反応速度も、膂力も適応力も不気味さも。


『けど、地下にいるのが、コイツと同じ強さとは限らない。二人が簡単にやられるわけはないけど……』

 でも急ぐ必要はある。
 強さを分断しているとは言え、マヤメとトテラには相性が悪い。

 単に強いってだけの魔物なら、あの二人で対処できるが、この人型及び、ジェムの魔物たちはそんな単純な強さではない。

 端的に言えば『非常識』。
 想像や想定を超える『無常識』。
 
 そんな存在を相手にするには、私のような『常識外』が必要。
 万を超える経験則からくる、あらゆる事象にも対処できる『異常識』の存在が。


「そう。色々教えてくれてありがとう。で、最後に聞いておくけど、名前は?」

『『ナマ、エ?』』

「なんて呼ばれてたか」

『『ヒ、ヒトカタ、ダ』』

「ヒトカタ、ね。覚えておくよ。それじゃ、今度はこれで潰すから、覚悟しときなよ。逃げられると思うなら、一応逃げてもいいけど」

『『ッ!?』』

 黒に視覚化した巨大な壁を、前後左右と頭上に展開する。
 大きさは凡そ10メートルの立方体だ。


『さあ、どうする? 私と戦うのが嫌なら、きっと動くはず』

 ヒトカタの足元に視線を向ける。 
 唯一、スキルで塞がれていない安全地帯を。 

 私と戦って"イタイ”と言ったヒトカタ。
 それで証明された事がある。

 このヒトカタには痛覚があり、感情がある。
 更に付け足せば、私に重度の忌避感を覚えている。

 それはそうだろう。

 ご馳走だと思っていた、ただの獲物に、二度も手痛い反撃を喰らい、触れる事も、一矢報いる事も出来ずに、戦わないとまで言っているのだから。


 だとしたら、ヒトカタの取る行動は一つ。
 私から逃げて、地下のヒトカタと合流し、マヤメたちを襲う事。

 その為には――――


 ギュン ×5

 四方、そして頭上に展開していたスキルを、私たちに向けて射出する。
 暴風や砂嵐をものともせず、巨大な黒壁がヒトカタと私に迫る。


『『ッ!? ジョビ、ジョババ――――』』

「っ!?」

 激突する瞬間、ヒトカタが慌てて、あの消化液を吐き出す。
 目の前の私ではなく、自身の足元に向かって。

 ちなみに私は『通過』を使ったので潰されることはなかった。


「…………上手くいった」

 その結果、ヒトカタの姿は忽然と消えていた。
 地下へと逃走するために、唯一残された、足元に穴を開けて。
 

「よし」

 タンッ

 穴を閉じてしまう前に、急いで飛び込む。
 溶かされて一瞬だけ開いた、マヤメたちのいる、地下への入り口に。
 


――――――――――



 一方その頃、地下でヒトカタに襲われ、桃ちゃんに助けられたマヤメたちは……


「んっ! トテラそこじゃないっ! もっと下っ!」 
「ここ?」

 ゴソゴソ

「んんっ! そ、そこも違うっ!」
「え? それじゃここ?」
「んっ! そこおへそっ! もっと下っ!」
「わ、わかった……」

 ゴソゴソ…… プニ

「ん、んんっ!」
「こ、今度はなにっ!」

 ビクンッ、と跳ねる様に声を上げた、マヤメを恐る恐る見るトテラ。

「んっ! 今度は下にいき過ぎっ! 上に戻ってっ!」
「わ、わかったっ!」

 スミカが地下に降りた、ちょうどその頃、何故かトテラがマヤメのパンツに手を入れ、怪しげな行為に及んでいた。



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