上 下
574 / 581
第13蝶 影の少女の解放と創造主

ヒトカタとヒトカタ

しおりを挟む



『やっぱり生きてたね……』

 砂塵舞う嵐の中で、異様な威圧感を放つ白い人影。
 これでこの白い人型とは、都合三度目の邂逅だ。
 
 一度目は、蝶の魔物が潜む森の中に現れ、追跡するが見失ってしまった。
 恐らくは同種であろう、数十体の蝶の魔物を喰らった後で。

 二度目は、エニグマ側のRシスターズのメーサの胎内。
 そこで初交戦し、大ダメージを与えたはいいが、止めを刺すには至らなかった。
 
 そして三度目の邂逅。
 最終目的地を目前に、三度私たちの前に姿を現した。

 しかも――――  


『……もう手足が元に戻ってるよ。なら、回復か再生もできるって事か』

 切断した四肢が再生している事に、一瞬戸惑うが、その程度では、驚きも、ましてや動揺するわけはなかった。

 元の世界でも、散々相手にし、その全てを屠ってきたのだから。
 この世界でも、強力な再生持ちの、巨大なトロールと相対している。


『にしては、なんか………… 変』

 ハッキリとはわからないが、数刻前とは何かが違う。
 異質で異様な風貌は変わらないが、何処か違和感を覚える。

 それはまるで弱体化しているようだった。
 今まで感じていた、得も言われぬ不気味さが、何故かなっていた。


「……ま、色々考えても仕方ないか。再生持ちだろうが、仮に不死身だろうが、結局やる事は変わらないからね。私を敵と認識し、私が敵と認識したなら――――」


 ヒュッ、ン―――― 

 ドバンッ!

『『!ッ――――ォォォオオオグ』』


 100tでの長槍の一投を受け、体の左半分が爆散する人型。 
 苦しんでいる様子だが、この程度ではまた再生するだけだろう。


「――――だったら、徹底的に、執拗に。それこそ完全にアイツが死に切るまで、何度でも殺してやるから」

   




 一方その頃、スミカとは別行動になった、マヤメとトテラは……


 カン、カン、カン――――


「うわ~、この中は涼しいんだねっ!」
「ん、澄香は?」

 地下へ地下へと続く、長い鉄梯子を下りていたが、マヤメはスミカがいない事に気付く。

「スミカちゃんは後からくるって言ってたよ?」
「んっ! 後から?」
「それにしてもここ凄いねっ! こんなのが砂漠の下にあるなんてっ!」

 麦わら帽子を首にかけ、周囲の景色に爛々と目を輝かせるトテラ。 

 薄暗くて遠くは見えないが、暗闇へと伸びる梯子に、壁が見えない洞窟。
 湿り気を帯び、薄っすらと光る岩肌に、ひんやりとした透き通った空気。

 ここは外とは全くの別世界。
 灼熱の熱砂地帯から、まるで真逆のオアシスに来たようだった。


「ダメっ!」
「うわっ! ってなにっ? どうしたの?」

 突然、大きな声を上げるマヤメに、両耳がピンと立つ。
 そんなマヤメを覗き見ると、若干強張った表情を浮かべていた。


「ん、なんであとからっ!」
「な、なんか周りを見てくるって言ってたよ? 入るとこ見られてたら危ないって」

 今まで見た事ない剣幕に、トテラはたどたどしく答える。    

「んっ! それはダメっ!」
「な、なんで?」
「あの入り口は自動で閉じるっ!」
「え? 勝手に閉じるの? でも、また開ければいいんじゃないの?」

 頭上をチラと見やり、さも当然のことのように答えるが、     

「んっ! あそこは入り口専用。出口と入り口は別。入り口は外から。出口は中からしか開かない。だからダメ」 

 先程よりも強張った表情で、一気にその訳を説明される。

「な、なんでそんな構造になってるの?」
「ん、さっきトテラも言ってた。追跡対策の為。出口も入り口も他にもある」
「そうなんだっ! ならスミカちゃんも一緒に来れば良かったんだっ!」
「ん、そう。だから急いで澄香に知らせ――――」


 ガコンッ 


「………………」
「………………」

 小さな機械音と共に、辺りがさっきより薄暗くなる。
 地上から差し込んでいた光が、入り口が閉じた事で途絶えたからだった。


「うわ――――っ! スミカちゃん置き去りにしちゃったっ!」
「ん――――っ!」

 梯子の上と下で顔を見合わせ慌てる二人。
 ジト目がデフォのマヤメでさえ、目を見開き、大きく動揺していた。


「ど、どど、どうするの、マヤメちゃんっ!」
「んっ! 一度下に降りて他から地上に出る。後はマジロボが案内する」
「わかったっ! なら早く下りようっ!」 

 先程よりも速度を上げ、二人は梯子を下り始める。


 カン、カン、カン――――

「あのさ、ちょっと聞きたい事あるんだけどいいかな?」
「ん?」
「ここって、マヤメちゃんのなんなの? ずっと気になってたんだけど」

 両手足をそそくさと動かしながら、マヤメに尋ねる。

「ん、ここはマヤの家だった。今は澄香の街に住んでる」
「家だった? ここが…… じゃ、なんでまた来たの?」
「ん、大事なものを取りに来た。マヤにとって一番大切なもの」
「だ、だったらさ、そんなに大事なものなら先にそっちを探そうよっ! スミカちゃんなら大丈夫だよっ!」
「ん、それは絶対にダメ」
「え?」

 トテラなりに気を遣った提案だったが、有無を言わせず断られる。 

「ん、澄香も大事。マヤを何度も助けてくれて、ここまで連れてきてくれた。マヤ一人では無理だった。だから澄香も一緒にって決めてた。一緒にマスターと会うって決めてた」
 
 スミカがいるであろう頭上を仰ぎ、その訳を話すマヤメ。

「そっか~、なんか変な事言っちゃってゴメンねっ!」

 それに対し、マヤメの想いと真剣さを感じ取り、素直に謝るトテラ。


「ん、問題ない。マヤの事心配してるの感じてる」
「うんっ!」
「でも急ぐ。下に降りて次の梯子探す」
「うんっ! わかった急ごうっ!」
「なら、マヤに掴まって。ここから飛び降りる」
「飛び降りる? う、うん、わかったっ!」

 ギュッ

 マヤメに促され、背後から首にしがみつく。       

 タンッ

「ん」
「わわっ!」

 背中に重みを感じたマヤメは、テンタクルマフラーを広げ、暗闇の中をゆっくりと下降していく。


 トン


「ん、着いた」
「おお~っ! 早い早いっ! やっぱりそれ便利だよねっ!」

 地面に足がついた途端、トテラはマフラーを絶賛し始める。
 犬の尻尾の様に耳を振り、正に興味津々と言った様子だ。


「ん、これもマスターがくれた。マヤの大切なもの」

 僅かに頬を緩め、マフラーを手に取るマヤメ。

「へ~、あの増えるナイフも凄いけど、やっぱりこれも凄いよねっ!」 
「ん、それよりも早く迎えに行く。じゃないと澄香拗ねる」

 マスターのアイテムを褒められ、その嬉しさを誤魔化すようにマヤメは歩き出す。

「え~、あのスミカちゃんが怒るかなぁ~」

 タタタ――――

 トテラはその後ろ姿を、笑顔のまま追いかけていると、


 『『………………ザ、ザザ――』』


 暗闇の向こうから、何処か不吉や不快を思わせる、不気味なノイズ音と共に――――


 『『…………タ、ッ、へ、カ、ナ、オ……』』


「んっ! なんでいるっ!」
「な、なにこの変なのっ!?」

 地上にいる筈であろう白い人型が、二人の前に現れた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...