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第13蝶 影の少女の解放と創造主
ヒトカタとヒトカタ
しおりを挟む『やっぱり生きてたね……』
砂塵舞う嵐の中で、異様な威圧感を放つ白い人影。
これでこの白い人型とは、都合三度目の邂逅だ。
一度目は、蝶の魔物が潜む森の中に現れ、追跡するが見失ってしまった。
恐らくは同種であろう、数十体の蝶の魔物を喰らった後で。
二度目は、エニグマ側のRシスターズのメーサの胎内。
そこで初交戦し、大ダメージを与えたはいいが、止めを刺すには至らなかった。
そして三度目の邂逅。
最終目的地を目前に、三度私たちの前に姿を現した。
しかも――――
『……もう手足が元に戻ってるよ。なら、回復か再生もできるって事か』
切断した四肢が再生している事に、一瞬戸惑うが、その程度では、驚きも、ましてや動揺するわけはなかった。
元の世界でも、散々相手にし、その全てを屠ってきたのだから。
この世界でも、強力な再生持ちの、巨大なトロールと相対している。
『にしては、なんか………… 変』
ハッキリとはわからないが、数刻前とは何かが違う。
異質で異様な風貌は変わらないが、何処か違和感を覚える。
それはまるで弱体化しているようだった。
今まで感じていた、得も言われぬ不気味さが、何故か薄くなっていた。
「……ま、色々考えても仕方ないか。再生持ちだろうが、仮に不死身だろうが、結局やる事は変わらないからね。私を敵と認識し、私が敵と認識したなら――――」
ヒュッ、ン――――
ドバンッ!
『『!ッ――――ォォォオオオグ』』
100tでの長槍の一投を受け、体の左半分が爆散する人型。
苦しんでいる様子だが、この程度ではまた再生するだけだろう。
「――――だったら、徹底的に、執拗に。それこそ完全にアイツが死に切るまで、何度でも殺してやるから」
※
一方その頃、スミカとは別行動になった、マヤメとトテラは……
カン、カン、カン――――
「うわ~、この中は涼しいんだねっ!」
「ん、澄香は?」
地下へ地下へと続く、長い鉄梯子を下りていたが、マヤメはスミカがいない事に気付く。
「スミカちゃんは後からくるって言ってたよ?」
「んっ! 後から?」
「それにしてもここ凄いねっ! こんなのが砂漠の下にあるなんてっ!」
麦わら帽子を首にかけ、周囲の景色に爛々と目を輝かせるトテラ。
薄暗くて遠くは見えないが、暗闇へと伸びる梯子に、壁が見えない洞窟。
湿り気を帯び、薄っすらと光る岩肌に、ひんやりとした透き通った空気。
ここは外とは全くの別世界。
灼熱の熱砂地帯から、まるで真逆のオアシスに来たようだった。
「ダメっ!」
「うわっ! ってなにっ? どうしたの?」
突然、大きな声を上げるマヤメに、両耳がピンと立つ。
そんなマヤメを覗き見ると、若干強張った表情を浮かべていた。
「ん、なんであとからっ!」
「な、なんか周りを見てくるって言ってたよ? 入るとこ見られてたら危ないって」
今まで見た事ない剣幕に、トテラはたどたどしく答える。
「んっ! それはダメっ!」
「な、なんで?」
「あの入り口は自動で閉じるっ!」
「え? 勝手に閉じるの? でも、また開ければいいんじゃないの?」
頭上をチラと見やり、さも当然のことのように答えるが、
「んっ! あそこは入り口専用。出口と入り口は別。入り口は外から。出口は中からしか開かない。だからダメ」
先程よりも強張った表情で、一気にその訳を説明される。
「な、なんでそんな構造になってるの?」
「ん、さっきトテラも言ってた。追跡対策の為。出口も入り口も他にもある」
「そうなんだっ! ならスミカちゃんも一緒に来れば良かったんだっ!」
「ん、そう。だから急いで澄香に知らせ――――」
ガコンッ
「………………」
「………………」
小さな機械音と共に、辺りがさっきより薄暗くなる。
地上から差し込んでいた光が、入り口が閉じた事で途絶えたからだった。
「うわ――――っ! スミカちゃん置き去りにしちゃったっ!」
「ん――――っ!」
梯子の上と下で顔を見合わせ慌てる二人。
ジト目がデフォのマヤメでさえ、目を見開き、大きく動揺していた。
「ど、どど、どうするの、マヤメちゃんっ!」
「んっ! 一度下に降りて他から地上に出る。後はマジロボが案内する」
「わかったっ! なら早く下りようっ!」
先程よりも速度を上げ、二人は梯子を下り始める。
カン、カン、カン――――
「あのさ、ちょっと聞きたい事あるんだけどいいかな?」
「ん?」
「ここって、マヤメちゃんのなんなの? ずっと気になってたんだけど」
両手足をそそくさと動かしながら、マヤメに尋ねる。
「ん、ここはマヤの家だった。今は澄香の街に住んでる」
「家だった? ここが…… じゃ、なんでまた来たの?」
「ん、大事なものを取りに来た。マヤにとって一番大切なもの」
「だ、だったらさ、そんなに大事なものなら先にそっちを探そうよっ! スミカちゃんなら大丈夫だよっ!」
「ん、それは絶対にダメ」
「え?」
トテラなりに気を遣った提案だったが、有無を言わせず断られる。
「ん、澄香も大事。マヤを何度も助けてくれて、ここまで連れてきてくれた。マヤ一人では無理だった。だから澄香も一緒にって決めてた。一緒にマスターと会うって決めてた」
スミカがいるであろう頭上を仰ぎ、その訳を話すマヤメ。
「そっか~、なんか変な事言っちゃってゴメンねっ!」
それに対し、マヤメの想いと真剣さを感じ取り、素直に謝るトテラ。
「ん、問題ない。マヤの事心配してるの感じてる」
「うんっ!」
「でも急ぐ。下に降りて次の梯子探す」
「うんっ! わかった急ごうっ!」
「なら、マヤに掴まって。ここから飛び降りる」
「飛び降りる? う、うん、わかったっ!」
ギュッ
マヤメに促され、背後から首にしがみつく。
タンッ
「ん」
「わわっ!」
背中に重みを感じたマヤメは、テンタクルマフラーを広げ、暗闇の中をゆっくりと下降していく。
トン
「ん、着いた」
「おお~っ! 早い早いっ! やっぱりそれ便利だよねっ!」
地面に足がついた途端、トテラはマフラーを絶賛し始める。
犬の尻尾の様に耳を振り、正に興味津々と言った様子だ。
「ん、これもマスターがくれた。マヤの大切なもの」
僅かに頬を緩め、マフラーを手に取るマヤメ。
「へ~、あの増えるナイフも凄いけど、やっぱりこれも凄いよねっ!」
「ん、それよりも早く迎えに行く。じゃないと澄香拗ねる」
マスターのアイテムを褒められ、その嬉しさを誤魔化すようにマヤメは歩き出す。
「え~、あのスミカちゃんが怒るかなぁ~」
タタタ――――
トテラはその後ろ姿を、笑顔のまま追いかけていると、
『『………………ザ、ザザ――』』
暗闇の向こうから、何処か不吉や不快を思わせる、不気味なノイズ音と共に――――
『『…………タ、ッ、へ、カ、ナ、オ……』』
「んっ! なんでいるっ!」
「な、なにこの変なのっ!?」
地上にいる筈であろう白い人型が、二人の前に現れた。
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