上 下
572 / 581
第13蝶 影の少女の解放と創造主

復活のトテラと出立準備

しおりを挟む



 ザッ

「もう全然大丈夫だよっ!」

 ぴょんぴょんと周囲を跳ねた後で、私たちの前に華麗に着地するトテラ。
 治ったばかりの脚で屈伸しながら、満面の笑みを浮かべる。  


「そう。それは安心したよ」
「ん、良かった」

 そんなトテラの様子を確認し、マヤメと二人、顔を見合わせ、笑顔になる。
 どうやら後遺症も違和感もないようで安心した。
 
 如何に私のアイテムが、この世界では効力が増すと言っても、トテラのケガは片足を失うほどの大ケガだった。

 だから正直、完治できてるか、かなり不安だったけど――――


「本当にありがとうっ! スミカちゃんとマヤメちゃんには助けてもらってばかりだねっ! アタシ独りだったら、もうとっくに魔物に食べられてたよっ!」

 向日葵のような笑顔で話すトテラを見て、こっちが救われた気分になる。


「そんなの気にしないでいいよ。トテラはマヤメの力になってくれたし、そのお陰で私もメーサの中から出れたし。寧ろ巻き込んだのはこっちなんだから、逆にこっちがありがとうだよ」

「ん、マヤも助かった。トテラありがとう」

「そ、そうかな? てへへ」

 感謝を感謝で返されて、嬉しそうに照れるトテラ。 
 両耳がへなへなとおかしな動きをしている。


「さ、それじゃ、体力も気力も回復したから、そろそろ目的地に向かおうか?」

 レストエリアを収納しながら二人に声を掛ける。 
 一番の気掛かりだった、トテラの脚も確認できたので。

 ところが、

「あひゃ~、やっぱり砂漠は暑いねっ! これじゃウサギの丸焼けになっちゃうよ」

 ジリジリと差す太陽を見上げ、そのトテラが悲鳴を上げる。


「あ~、そう言えばそうだよね。でも私、陽射しを防ぐような服持ってないんだよ」

 今トテラの着ているものは、私が貸しているもの。
 確かに、薄手の白シャツと短パンでは、この先も辛いだろう。


「マヤメは何か持ってない?」

 なので隣のマヤメに聞いてみる。

「ん、マヤもない。でもこれならある」

 すぐさま麦わら帽子を取り出し、トテラに手渡す。


「え? マヤメちゃんいいの? それよりもそれどこから出したの?」

「ん、コムケの街でお隣さんに貰った。だから後で返して欲しい」

「でも、それじゃマヤメちゃんは?」

 手に持った麦わら帽子と、マヤメを心配気に眺める。

「ん、マヤは問題ない。ずっとこの姿」

 クルリとその場で回転し、大丈夫だと小さく頷く。

 そんなマヤメの出で立ちと言えば、ノースリーブで丈の短い、黒のライダース風ジャケットに、同じく黒の短パンと黒のロングマフラー。
 そして腰の後ろには、漆黒のククリナイフが2本ベルトに収まっている。


「そう言えばそうだよねっ! でもマヤメちゃんは暑くないの?」

 今更ながらマヤメの服装を見て心配する。

「ん、マヤは暑さも寒さもあまり感じない。構造が人族とは違うから」

「え? 人族じゃないんだっ! 見た目は人族なのにね?…… それじゃスミカちゃんは、蝶と人族との交配種? それとも蝶の生まれ変わり? それか蝶の妖精さん?」

 マヤメの話を聞き、同行者だった私に興味が湧いたのだろう。
 ぴょんぴょんと私の周りを跳ねながら、的外れな事を言ってきた。
 
 まあ、今の流れならきっと、こっちに来るとは思っていたけど。


「いいや、どれも違うよ。私がこの環境でも平気なのは、この衣装のおかげだよ。寒暖差以外にも、あらゆる状態異常も軽減してくれるから」

「そ、そうなのっ!? それはいくらしたの? なんで蝶なの?」 

「いきなり値段って…… これは賞品だから元の値段は知らないよ。それと蝶なのも」

「はぇっ!? ならきっとそれもの凄い高価なやつだよっ! それ売れば、お城みたいなおっきな家や、食べきれないほどの野菜が買えるよっ!」

 装備の効果を知って、食い気味どころか、ギラギラとした瞳に変わる。
 なんか暴走(発情)した時みたいに、目が赤くなってない?  


「いやいや、いくら高くても売らないって。そもそもこれは私にしか着れないから」

 装備をチラと見下ろした後で、両手を広げてそう答える。


 【M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)】

 この装備は私のアバターと紐付けしてある。
 外す事は出来ても、他のキャラが装備する事は出来ない。

 いや、正確に言えば装備は出来るけど、その恩恵を受ける事が出来ないってだけだ。
 
 そうなれば、防御力皆無の、ただのコスプレになってしまう。
 装備としての効果がないなら、誰しも好き好んで着たくはないだろう。

 そういう意味も含めて『私以外は着れない』って、言ったんだけど……


「そ、そうだよねっ! 子供用の服なんて、アタシじゃ着れないもんねっ! なんかゴメンねっ!」

「………………」

 勝手に勘違いして、一方的に謝罪される。
 気のせいじゃなければ、なんかチラチラと私の胸元見てない?


「あ、あのさ、そう言う意味じゃなくって、この衣装についてる効果が――――」

 色々と誤解しているようだから、慌てて訂正しようとするが、


「ん、澄香は脱いでも凄い。マヤ知ってる」

 何故かマヤメが割って入ってくる。


「え? そうなのっ!?」

「ん、マヤは見た。澄香は脱いでも凄かった(強かった)」 

「本当に? でもマヤメちゃんがそう言うなら。でもなぁ~……」

 マヤメの説明を聞いて、更に疑心暗鬼になるトテラ。
 私と自分の胸を交互に見比べて、首を傾げている

 
『これって………………』

 マヤメは一体なんのフォローなの?
 そもそもこれフォローなの?
 
 なんか嫌味って言うか、実際に見られてるから、逆に傷つくんだけど。
 この場合、脱いだ方が凄いじゃなく、脱いだ方が酷いって聞こえるんだけど。


「あ、あのさ、その話はもう後にしなよ。目的地も近いんだから。それとトテラにはこれあげるから。あ、マヤメにも一応渡しておくよ」

 なので、あるアイテムを取り出し、二人の話を中断させる。
 これ以上聞いてたら、SAN値がガリガリ削られるだけだし。


「え? なにコレ?」
「ん?」

 私から手渡されたものを不思議そうに眺める二人。


「それは『リデュースピアス』って言って、耳につけると体に見えない膜を張るんだよ」

「膜? これが? それでどうなるの?」
「んっ!?」

「で、その膜が、私の衣装ほどではないけど、暑さや寒さ、それに衰弱や睡眠―― って、最後まで話聞きなよっ!」

 説明を終える前に、早速装着した二人を睨む。


「えっ! 本当だっ! 全然暑くないよっ!」
「ん、澄香からの贈り物。マヤ大切にする」

 その効果を体感し、トテラは飛び跳ねて喜び、マヤメは耳に手を当て、どこか嬉しそうに目を細めていた。


「ね、それならあの中がどんなに過酷な環境でも大丈夫でしょ? 因みに風の方は、私の魔法で防ぐから心配しないでいいよ」 

 目前に見える、巨大な砂嵐を見上げて、そう声を掛ける。

「うん、これならどこでもへっちゃらだよっ!」
「ん、これならいつもより早く着ける」

 トテラはニコニコとしながら、更に気合の入った様子で、マヤメは私と同じように砂嵐を見上げて答える。
 

『道中色々あったけど、やっとここまできた。あの砂嵐のどこかに、マヤメのマスターの工房と、トテラが探しているって言う、お宝もあるんだよね』

 ここが二人の希望の地にして、最終の目的地。

 だけど今や私の目的でもあるし、延いてはシスターズも含めた、みんなの目的でもある。
 

『だって、この旅が無事に終わったら、ユーアやみんなもきっと喜ぶと思うんだ。マヤメやジーア、そしてもう一人、仲間が増えるかもだからね』

 対照的な表情を浮かべる二人の横顔を見て、また楽しみができたなと思った。  

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...