剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

復活のトテラと出立準備

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 ザッ

「もう全然大丈夫だよっ!」

 ぴょんぴょんと周囲を跳ねた後で、私たちの前に華麗に着地するトテラ。
 治ったばかりの脚で屈伸しながら、満面の笑みを浮かべる。  


「そう。それは安心したよ」
「ん、良かった」

 そんなトテラの様子を確認し、マヤメと二人、顔を見合わせ、笑顔になる。
 どうやら後遺症も違和感もないようで安心した。
 
 如何に私のアイテムが、この世界では効力が増すと言っても、トテラのケガは片足を失うほどの大ケガだった。

 だから正直、完治できてるか、かなり不安だったけど――――


「本当にありがとうっ! スミカちゃんとマヤメちゃんには助けてもらってばかりだねっ! アタシ独りだったら、もうとっくに魔物に食べられてたよっ!」

 向日葵のような笑顔で話すトテラを見て、こっちが救われた気分になる。


「そんなの気にしないでいいよ。トテラはマヤメの力になってくれたし、そのお陰で私もメーサの中から出れたし。寧ろ巻き込んだのはこっちなんだから、逆にこっちがありがとうだよ」

「ん、マヤも助かった。トテラありがとう」

「そ、そうかな? てへへ」

 感謝を感謝で返されて、嬉しそうに照れるトテラ。 
 両耳がへなへなとおかしな動きをしている。


「さ、それじゃ、体力も気力も回復したから、そろそろ目的地に向かおうか?」

 レストエリアを収納しながら二人に声を掛ける。 
 一番の気掛かりだった、トテラの脚も確認できたので。

 ところが、

「あひゃ~、やっぱり砂漠は暑いねっ! これじゃウサギの丸焼けになっちゃうよ」

 ジリジリと差す太陽を見上げ、そのトテラが悲鳴を上げる。


「あ~、そう言えばそうだよね。でも私、陽射しを防ぐような服持ってないんだよ」

 今トテラの着ているものは、私が貸しているもの。
 確かに、薄手の白シャツと短パンでは、この先も辛いだろう。


「マヤメは何か持ってない?」

 なので隣のマヤメに聞いてみる。

「ん、マヤもない。でもこれならある」

 すぐさま麦わら帽子を取り出し、トテラに手渡す。


「え? マヤメちゃんいいの? それよりもそれどこから出したの?」

「ん、コムケの街でお隣さんに貰った。だから後で返して欲しい」

「でも、それじゃマヤメちゃんは?」

 手に持った麦わら帽子と、マヤメを心配気に眺める。

「ん、マヤは問題ない。ずっとこの姿」

 クルリとその場で回転し、大丈夫だと小さく頷く。

 そんなマヤメの出で立ちと言えば、ノースリーブで丈の短い、黒のライダース風ジャケットに、同じく黒の短パンと黒のロングマフラー。
 そして腰の後ろには、漆黒のククリナイフが2本ベルトに収まっている。


「そう言えばそうだよねっ! でもマヤメちゃんは暑くないの?」

 今更ながらマヤメの服装を見て心配する。

「ん、マヤは暑さも寒さもあまり感じない。構造が人族とは違うから」

「え? 人族じゃないんだっ! 見た目は人族なのにね?…… それじゃスミカちゃんは、蝶と人族との交配種? それとも蝶の生まれ変わり? それか蝶の妖精さん?」

 マヤメの話を聞き、同行者だった私に興味が湧いたのだろう。
 ぴょんぴょんと私の周りを跳ねながら、的外れな事を言ってきた。
 
 まあ、今の流れならきっと、こっちに来るとは思っていたけど。


「いいや、どれも違うよ。私がこの環境でも平気なのは、この衣装のおかげだよ。寒暖差以外にも、あらゆる状態異常も軽減してくれるから」

「そ、そうなのっ!? それはいくらしたの? なんで蝶なの?」 

「いきなり値段って…… これは賞品だから元の値段は知らないよ。それと蝶なのも」

「はぇっ!? ならきっとそれもの凄い高価なやつだよっ! それ売れば、お城みたいなおっきな家や、食べきれないほどの野菜が買えるよっ!」

 装備の効果を知って、食い気味どころか、ギラギラとした瞳に変わる。
 なんか暴走(発情)した時みたいに、目が赤くなってない?  


「いやいや、いくら高くても売らないって。そもそもこれは私にしか着れないから」

 装備をチラと見下ろした後で、両手を広げてそう答える。


 【M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)】

 この装備は私のアバターと紐付けしてある。
 外す事は出来ても、他のキャラが装備する事は出来ない。

 いや、正確に言えば装備は出来るけど、その恩恵を受ける事が出来ないってだけだ。
 
 そうなれば、防御力皆無の、ただのコスプレになってしまう。
 装備としての効果がないなら、誰しも好き好んで着たくはないだろう。

 そういう意味も含めて『私以外は着れない』って、言ったんだけど……


「そ、そうだよねっ! 子供用の服なんて、アタシじゃ着れないもんねっ! なんかゴメンねっ!」

「………………」

 勝手に勘違いして、一方的に謝罪される。
 気のせいじゃなければ、なんかチラチラと私の胸元見てない?


「あ、あのさ、そう言う意味じゃなくって、この衣装についてる効果が――――」

 色々と誤解しているようだから、慌てて訂正しようとするが、


「ん、澄香は脱いでも凄い。マヤ知ってる」

 何故かマヤメが割って入ってくる。


「え? そうなのっ!?」

「ん、マヤは見た。澄香は脱いでも凄かった(強かった)」 

「本当に? でもマヤメちゃんがそう言うなら。でもなぁ~……」

 マヤメの説明を聞いて、更に疑心暗鬼になるトテラ。
 私と自分の胸を交互に見比べて、首を傾げている

 
『これって………………』

 マヤメは一体なんのフォローなの?
 そもそもこれフォローなの?
 
 なんか嫌味って言うか、実際に見られてるから、逆に傷つくんだけど。
 この場合、脱いだ方が凄いじゃなく、脱いだ方が酷いって聞こえるんだけど。


「あ、あのさ、その話はもう後にしなよ。目的地も近いんだから。それとトテラにはこれあげるから。あ、マヤメにも一応渡しておくよ」

 なので、あるアイテムを取り出し、二人の話を中断させる。
 これ以上聞いてたら、SAN値がガリガリ削られるだけだし。


「え? なにコレ?」
「ん?」

 私から手渡されたものを不思議そうに眺める二人。


「それは『リデュースピアス』って言って、耳につけると体に見えない膜を張るんだよ」

「膜? これが? それでどうなるの?」
「んっ!?」

「で、その膜が、私の衣装ほどではないけど、暑さや寒さ、それに衰弱や睡眠―― って、最後まで話聞きなよっ!」

 説明を終える前に、早速装着した二人を睨む。


「えっ! 本当だっ! 全然暑くないよっ!」
「ん、澄香からの贈り物。マヤ大切にする」

 その効果を体感し、トテラは飛び跳ねて喜び、マヤメは耳に手を当て、どこか嬉しそうに目を細めていた。


「ね、それならあの中がどんなに過酷な環境でも大丈夫でしょ? 因みに風の方は、私の魔法で防ぐから心配しないでいいよ」 

 目前に見える、巨大な砂嵐を見上げて、そう声を掛ける。

「うん、これならどこでもへっちゃらだよっ!」
「ん、これならいつもより早く着ける」

 トテラはニコニコとしながら、更に気合の入った様子で、マヤメは私と同じように砂嵐を見上げて答える。
 

『道中色々あったけど、やっとここまできた。あの砂嵐のどこかに、マヤメのマスターの工房と、トテラが探しているって言う、お宝もあるんだよね』

 ここが二人の希望の地にして、最終の目的地。

 だけど今や私の目的でもあるし、延いてはシスターズも含めた、みんなの目的でもある。
 

『だって、この旅が無事に終わったら、ユーアやみんなもきっと喜ぶと思うんだ。マヤメやジーア、そしてもう一人、仲間が増えるかもだからね』

 対照的な表情を浮かべる二人の横顔を見て、また楽しみができたなと思った。  

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