剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

SSとある紳士の大いなる野望

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 メーサと激闘の後、スミカたちが小休止している、ちょどその頃。
 そのスミカが本拠地としている、ここコムケの街では――――



「ここだよっ! 着いたよっ! おじちゃんっ!」

 後ろの同行者に振り返り、満面の笑顔で手を振るユーアがいた。 


「ぐふ、ぐふふ、ここが天使ちゃんが暮らすお家なんだね? 随分とヘンテコな建物だけど」

 それに対し、ボソボソと答えたのは黄色マスク。
 目の前の建物を見上げ、些か面食らっている様子だ。


「はあ? ヘンテコってなによっ! これはスミ姉が建ててくれて、ナジメが直してくれているのよっ! それよりもユーアや子供たちに変な事したら、アタシの魔法で消し炭にしてやるんだからっ!」

 そんな二人の後ろでは、ラブナが金切り声を上げていた。
 同行者の黄色マスクに指を付きつけ、物騒な事を叫んでいた。


 現在、三人がいるのは、街の喧騒から少し離れた、改築中の孤児院だった。
 道中もきれいに整地され、街灯や外壁なども新たに整備されていた。
  

「もうっ! ラブナちゃんっ! 人に指を差しちゃいけないって、前にビエ婆ちゃんに言われたでしょ? それにおじちゃんは、孤児院を手伝いに来てくれたんだよ?」

 憤るラブナを注意し、黄色マスクを庇うように立つユーア。 
 因みにビエ婆ちゃんとは、スラムの元長老で、今はこの孤児院の院長を任されている。


「えっ!? ア、アタシが悪いのっ! だ、だって、この黄色マスクって、ずっとユーアを変な目で見てたのよ? それに一日おきだからって、何もここで働かせなくっても…… ごにょごにょ」

 思いがけない角度から叱責され、一気に落ち込むラブナ。
 ユーアの剣幕に押され、最後の方は小声になっていた。


「変な目?…… ん~、おじちゃんの目は普通だよ?」

 ヒョコっと背伸びして、黄色マスクの目を覗き込む。

「ちょ、そうじゃなくって、この白ブタは――――」


「ぐふ、ぐふ、ぐふふ、て、天使ちゃんの極上の上目遣い頂きました。それとラブナちゃんの罵倒ご馳走様でした~」 

 そんな二人のやり取りを見て、怪しげな反応をする黄色マスク。
 合掌しながら頭を下げ、にちゃりとした笑顔を見せる。


「ほ、ほらっ! 今の見たでしょっ! コイツなんかおかしいってっ! ここで働かせるのは絶対に危険だってっ!」 

「う~ん、でもおじちゃんは悪い人じゃないよ? 男の人と一緒の方が、みんなが街へ行くのも安心だし。それにビエ婆ちゃんも助かるんだよ? お布団干す時とか、お買い物とか、重いもの持ってくれるし」

「そ、そんなのアタシが連れてってあげるわよっ! 買い物だってこれ使えばいいしっ!」

 ローブのポケットから、マジックポーチを取り出す。

「うん、でもボクたちはいつも孤児院にいるわけじゃないよ? 冒険者のお仕事だってあるし、メルウちゃんのお店にもお手伝いにいくし。それにマジックポーチはあまり人前で使わないでって、ニスマジさんが言ってたよ? 盗まれたら危ないからって」

 小さい子を宥めるように、ゆっくりした口調で説明するユーア。 


「うっ、でもだからって、なんで敵だったこの男を…… いくらナジメやニスマジさんの許可取ったからって、こんな変態肉ダルマ――――」

「ぐふ、あのさ、ちょっといいかな?」

 軽く手を挙げ、二人の話に割って入る黄色マスク。

「なによっ!」

「あ、あのさ、僕の事を、お兄ちゃん。って呼んでくれるかい? それがダメならお兄さまでも、兄貴でも、おにぃでもいいけど、ぐふふ」

「はあっ!? なんでよっ!」

「だって僕、おじちゃんって言われる程おじちゃんって歳じゃないんだよね。ならお兄ちゃんの方が合っていると思うんだよね? ぐふ、ぐふふふ」

 大きな肩を揺らしながら、ユーアとラブナにそう提案する。  


「はあっ!? なんで他人のアンタなんか――――」
「うん、わかったよ。ならボクは――――」

 ガチャ

「あ、あの~、ユーアさまとラブナさまは、一体誰とお話してるのですか?」

 建屋の中にまで騒ぎが聞こえたのであろう、一人の少女が扉から顔を出す。  


「あ、シーラちゃんっ! ただいまっ!」
「シーナ、今帰ったわ」
「ぶひっ!?」

「は、はい、お帰りなさいませ。それよりもそちらの方は?……」

 ユーアの隣に並び、初対面の黄色マスクを、恐々と見上げる。


 この少女の名前は『シーラ』。
 
 留守の多い、ユーアとラブナに変わり、子供たちの面倒を見ている。
 青紫のショートカットと、切れ長がな瞳が特徴的な礼儀正しい美少女。
 神や天使などの救世をもたらす存在に、強い憧れを持っている。
 最初の一言をどもってしまう。



 ザザッ

「ぶひっ! また美幼女っ!? ぼぼ、僕の名前は『グフトラ』っ! 君も天使ちゃんを見守る会に入ってくれないかいっ!」 

 シーラを一目見た途端に、目の前で膝を付く黄色マスク。
 全身を舐め回すように眺めながら、唐突に自己紹介を始める。


「ひぃっ! グ、グフトラさんですか? そそ、それと、天使ちゃんとは?」

 いきなりの事で驚いたのか、ユーアの腕にしがみつきながら、オドオドと答える。 
 

「はあっ!? あんた、そんな名前だったのっ! なら最初っから名乗りなさいよっ! さっきのお兄ちゃんとか兄貴とかなんだったのよっ!」

「ぐふ、どう? 僕が会員番号0番だから、シーラたんには是非1番になってもらいたいんだ。これはこの上ない光栄な事だよ?」

 騒ぎ立てるラブナには目もくれず、グフトラは話を続ける。


「ちょ、アタシの話を聞き――――」

「光栄? あ、あの、それで、天使ちゃんとは?」

 シーラの琴線に触れたのだろう。
 ユーアを掴む手を緩め、グフトラの話に耳を傾ける。


「ぐふ、今、シーラたんが抱き着いているのが天使ちゃんさ。このお方は僕の罪を裁いてくれただけではなく、悪の道から真っ当な道へ救い出してくれたんだ」

 両手の指を組み、祈りを捧げるようにユーアを見上げる。 


「だーかーらっ! いい加減、アタシの話を――――」

「ぐふ、シーラたん。ここはちょっとうるさい人がいるから、あっちの池の方で話をしようか? ラブナちゃんの話は後で聞いてあげるからね」 

「え? は、はい……」

 やれやれと言った様子でラブナを一瞥し、シーラを連れてここを離れる。 


「はあっ!? なによ聞いてあげるってっ! なんでアンタがアタシより上みたいになってんのよっ! しかもうるさいのはアンタが――――」

 ぐいぐい

「って、何よ?」

 脇から袖を引っ張られ、また話を中断させられる。 


「あのね、今はシーラちゃんとおじちゃんがお話してるんだよ?」

「それは知ってるわよ。だってアタシの話全然聞かないんだもん」 

 口を尖らせ、ユーアの話にも不満を露わにする。


「でもね、二人のお話の邪魔しちゃいけないんだよ? ラブナちゃんはもう大人なんだから、もうちょっとだけ待てるよね? あ、そうだ。甘くて美味しい飲み物あげるね?」

「え? またアタシが悪いのっ!? しかも大人って言いながら、なんで子供みたいな扱いするのよ!」
 
 ドリンクレーション(練乳味)を受け取りながら、更にショックを受けるラブナ。 

「ううん、ラブナちゃんは子供じゃないよ? だってボクの事心配してくれてるの知ってるから。でもね、あのおじちゃんはボクに話してくれたんだよ」

「はなし? どんなの? ゴクゴク」

「うんとね、小さい女の子が大好きなんだって」

「ゴクッ!? それって、幼女が好きな変態って、ただ暴露しただけじゃ……」

 グフトラと話すシーラの後姿を心配げに眺める。


「あ、それとね、そういった人たちには、ぜったいじゅんしゅ? な礼儀や鉄の掟があるって、こうも言ってたよ」

「絶対順守の礼儀と掟? それはどんなのよ?」

「うん、ええとね、『紳士たるもの、小さい蕾は愛でて見守り、開花するまでは決して触れてはいけない』って。これって、みんなの事だよね?」

 シーラと孤児院を笑顔で眺める。

「な、何それ? なんか逆に怪しいんだけど…… しかもアイツ、なんで自分の事紳士とか言ってるのよ。紳士って、そういう使い方しないわよ」

「あ、ボクも紳士って良く分からないけど、でもそれを破ったら、世の紳士たちがみんなそういう風にみられるから、絶対に守らなきゃいけないって」

「はあ? 要するに、他にもアイツみたいな変態がいるって事? そして変な噂がたったら、他の連中も警戒されて、迷惑がかかるって言いたいのよね」

「うん、そうだと思う。だからあのおじちゃんは危なくないよ? ボクもハラミも大丈夫だと思ってるから」

 シーラと話すグフトラ。そして、門の前で寝ているハラミを見る。


「あ、そう。でもアタシはまだ信じてないわよ? いくらユーアや子供たちに危害を加えないって言っても、絶対にそうだって言いきれないから。だから姉のアタシが警戒を解くわけにはいかないわ。ハラミもユーアをちゃんと守りなさいよ?」

『がうっ!』

 ラブナの声が聞こえたのだろう、顔を上げ一鳴きするハラミ。 


 タタタ――――

「ぐふ、ああ、ごめんごめん」
「お、遅くなりました……」

 ちょうどそこへ、シーラを連れたグフトラが戻ってきた。

「ぐふ、ちょっとシーラたんと話が盛り上がっちゃってね? 色々と天使ちゃんの話が聞けたよ。ぐふふ。それじゃ他の会員候補の蕾たちを案内―― じゃなく、他の子供たちと会わせてくれるかい?」

 ユーアの元に駆け寄り、生き生きとした表情を浮かべる。 


「うん、わかったよっ! ボクとシーラちゃんとラブナちゃんでいっぱい案内するねっ! それじゃ行こうっ!」

 ギュ ×2

「は、はい、ユーア天使さまっ!」
「ちょ、なんでアタシがっ!」

 二人の手を引き、ユーアを先頭に孤児院の中に入っていく。 

 そして、その後ろでは――――
 

『ぐふ、ぐふふ~。早くも会員一人を獲得できた。これで天使ちゃんの素晴らしさをもっと広められる事が出来て、その天使ちゃんを守る僕の評判もうなぎ登りだよ。そうすればきっと世間は認めてくれるはず。如何に紳士が無害で、健全な存在だってね? ぐふ、ぐふふ』

 そしてその後ろでは、大いなる野望に向け、大きな一歩踏み出した、自称紳士の姿があった。


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