剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

上位の上位の存在

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「どこから出てきたんじゃん? お前もマヤメの仲間じゃんかっ!」

 マヤメたちの前に立った私を、訝し気に睨みつけるサメの少女。
 威嚇する様に、歯を剥き出しにし、敵意をあらわにする。


『サメ?…… の衣装? にしても、その本体もサメっぽいけど』

 サメの風貌をあつらえたパーカーに、小さな口から覗く、鋭利で細かいギザギザの歯。
 見た目はかなり人間に近いが、纏う気配はどことなく魔物に近い。


「そう、私はマヤメとトテラの仲間。で、あなたの名前はメーサで、トテラをあんなにしたのはあなただよね?」

「そうじゃんっ! 地中から顔を出した時に、アイツが蹴ってきたじゃんっ! その衝撃で吐き出した液体を浴びたじゃんよっ!」

 私の後方をチラと見ながら、嬉々としてそう語る。


『吐き出した? って事は………………』

 今の話が本当ならば、私はトテラのおかげで出られたって事だろう。
 
 ただそれと引き換えに重傷を負ってしまった。
 兎族としての最大の武器であろう、大事な脚の一つを。


「で、結局お前は誰なんじゃん? マヤメを見付けた時も、一匹捕食したじゃんよ。なのにどこから湧いてきたじゃん?」

「私はスミカ。マヤメとトテラの仲間で、ただの新人冒険者」

「冒険者? その格好で?」

「それと一応、蝶の英雄って、二つ名もあるけど」

「蝶の英雄? お前がか?」 

 全身をジロジロと眺めた後で、背中の羽根に目が留まる。
  

「そうだよ。それとどこから湧いてきたって、疑問に思ってるようだけど、私はあなたが捕食した、その一匹だよ」

「え? って事は、お前が中で暴れた奴の一匹なのかっ!」

「暴れた? ああ、変な人形の事?」

「人形っ!? それはどんなのじゃんっ! それとどこ行ったじゃんっ!」

「真っ白な人形で、顔も何もない不気味な奴。どこ行ったかは…… 知らない」

 端的にあの白い人型の特徴を教える。
 行方についてはこっちが聞きたいくらいだ。


「白い人形?……… ああっ! アイツじゃんっ! なんでアタイに捕食されてるじゃんよっ! もしかして、マヤメに逃げられて時じゃんかっ!」

 説明を聞き終えたメーサは、頭を押さえて悶絶する。
 人型を捕食した事は、メーサにとっても予期せぬ事だったらしい。


『でもこの反応だと、やっぱりあの個体と関係あるって事か…… ただ、命令というか、制御自体出来てないみたい。そもそも話が通じる相手には見えなかったし……』

 これで人型とメーサが、繋がっている事がハッキリした。 
 どちらもエニグマに所属し、マヤメか私を追ってきたことが。

 それともう一つ――――


「マヤメも?」

「ん、マヤも捕食されそうになった。けど、トテラが気付いて戻ってきたから、その影に避難した。でも、そのせいでトテラがケガした。マヤの作戦が甘かった…………」

 それともう一つ、私に続き、マヤメもトテラに救われていた事だった。
 凡そ戦闘向きではない、あの性格で立ち向かい、大怪我を負ってしまった。

 まだ出会って、たった数時間の、私たちの為に――――


『………………』

「ああ、もう、なんなんじゃんっ! さっさとアタイに捕食されてればいいのに、お前らが無駄に抵抗するせいで、色々と面倒臭くなってるじゃんかっ! 実験体をダメにしたのも、アタイがヤバかったのも、全部お前のせいじゃんよっ!」

 唐突に顔を上げ、私だけを指差し、怒りを露にするメーサ。 
 左足を後ろに、態勢を低くし、今にも飛び掛からんと吠えたてる。


「だったら、そんな口上並べてないで、さっさとかかってきたら? それともまた中で暴れられるのが怖いとか?」

「うるさいじゃんっ! アタイはシスターズの序列8位じゃんっ! 如何にも弱そうなお前や、出来損ないのマヤメ、そこの駄ウサギよりも、ずっとじゃんよっ!」

「へぇ~、偶然だね? あなたもシスターズの一員なんだ。でもそんなんで8位って事は、1位も大した事ないってことか。それか――――」

「いい加減、もう黙るじゃんよっ! 今度こそお前なんか骨まで消化してやるじゃんよっ! シャ――――ッ!」

 ダンと地を蹴り、弾丸のような速さで地面と並行に飛んでくる。
 その姿は地上でありながらも、獲物を襲うサメのように見えた。 


『…………このサメ女、言うに事を欠いて、自分が上位の存在だって? だったらどっちが上位か、徹底的に――――』

 わからせてやる。

 私だけならまだしも、マヤメたちを貶した事は絶対に許せない。 



――――――――――



 ※メーサ視点


 ドガガガガ――――ッ!!


「うぐぐぐ、またいなくなったじゃんよっ!」

 反応する間もなく、一気に連撃を叩きこまれる。
 目の前から消えた瞬間に、的確に急所だけを狙ってくる。

 喉、顎、鳩尾、人中、こめかみ。
 
 とっさに両腕でガードするも、右手首、左手首、左右の肩口を狙われ、腕が下がったところに、また急所を狙い撃ちされる。 
  

「ぐっ!」

 タンッ

 正確無比だけではなく、鋭利で重い攻撃に、堪らず後ろにステップするが、

 ズバンッ! ×6

「んがっ!?」

 太腿、膝、脛に打撃を受け、回避も後退もままならない。


「く、のぉっ! シャ――――ッ!」 

 そして、自身の代名詞でもある、悪喰の能力さえも――――


 ビシッ!

「う、くっ」

 背後から首元に一撃を受け、不意によろけたら最後、


 ドガガガガ――――ッ!!
 ズガンッ

「う、ぐぐぐぐぐ――――」

 再度始まる連打の雨。
 そして繰り返される、執拗で精密な連撃の嵐。


『こ、こいつは一体、何者じゃんよっ!』

 消えるだけならまだいい。
 ダメージもサメ肌で軽減できる。

 だが、ここまで一方的なのは屈辱で惨めだ。
 勝てない相手なら、シスターズにはゴロゴロいる。
 敗北も幾度も経験している。 
 
 けど、コイツは違う。
 単純に強いとか、格上とか、そんな次元の話ではない。


「ちきしょうっ! 何もできないじゃんよ――――っ!」

 心の声が絶叫となって、周囲に響き渡る。
 何も出来ない、いや、させてもらえない悔しさが、咆哮となって溢れ出る。
 
 自分のチカラが通じないではなく、何もさせてもらえない。
 ハメ技のように、一方的に攻撃を受けるだけ。

 まるでこの状況が、無限に続くかのような、このまま一生、自分の出番(ターン)が訪れる事がないような……

 そんな錯覚を起こさせる程の差があった。

 この見た目、華奢で非力な少女にも見え、


「どう? 格下と思ってた、相手にボコられる気分は?」

「う、ぐ…………」

 実は『蝶の英雄』と呼ばれる、化けの皮を被った、圧倒的強者と自分の間には、到底埋められようのない、絶対的な差を感じた。

   

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