剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
551 / 586
第13蝶 影の少女の解放と創造主

青白マスクVS元冒険者狩りの姉妹 その1

しおりを挟む
「よしっ! それじゃ次はワタシの番だなっ!」


 バンと膝を叩き、勢いよくベンチから立ち上がるのはゴナタ。
 そんなゴナタは、ラブナの師匠の一人にして、Bランクの凄腕の冒険者だ。

 愛用の武器を肩に担ぎ、ニカと笑みを浮かべ歩き出す。
 

「ゴナちゃん。一応気を付けてね? ユーアちゃんの相手もラブナの相手も、ランクが下とはいえ、相性によっては侮れない実力を持っていたわ」

 身の丈程の超重量のハンマーを、軽々と担ぐゴナタに声を掛けるナゴタ。 
 そんなナゴタは、ゴナタの双子の姉にして、同じくラブナの師匠だ。


「うん、わかってるよナゴ姉ちゃんっ! アイツら動きもそうだけど、面白い能力も持ってたからなっ!」

「ふふ、面白いって、まあちょっと不謹慎だけど、その方が肩の力も抜けて、いつものゴナちゃんの実力を出せれば―――― うん?」

 ゴナタの背中越しに、対戦相手を見ていたナゴタの口が止まる。


「どうしたんだ? ナゴ姉ちゃん」 

「ううん、どうやらゴナちゃんだけじゃなく、私の出番も来たみたいね」

 ゴナタに答えながら、愛用の武器を取り出すナゴタ。
 妹に向けていた優しい笑みから一転、魅惑的で妖艶な笑みに変わる。


「出番? ああ、そういう事かっ!」

 姉の表情と、視線の先に人物を見て、納得するゴナタ。 


 そんなゴナタは、白マスクが自分の相手だと半ば決めつけていた。
 その白マスクが訓練場に立つ姿を見て、自分の番だと武器を持ったのだ。

 では何故白マスクが、自分の相手だと決めつけたかと言うと、


「うん、やっぱりラブナの言う通り、ワタシたちの事見てるなっ!」

「そうね、確かに私たちを執拗に見てくるわね? 敵意や殺気を帯びていないから、言われるまで気が付かなかったけど」


 それは、ユーアの試合を観戦している最中に、ラブナから忠告されたからだ。
 青マスクと白マスクが、ナゴタとゴナタの目立つ部分を見ていると。


「あ、でもちょっと変わったなっ!」
「うん? ああ、そうね。確かに――――」

 変わった。
 白マスクの元に、青マスクとルーギルが駆け付けてから変化した。
 
 纏う気配と視線が明らかに、鋭く敵意を含んだものになったことを。


「なんか話してるな? でもなんでルーギルもいるんだ?」

「凡その見当は付くわ。恐らくルーギルが私たちの正体過去を話したのだと思う。後から来た青マスクが、ラブナの試合の後、ルーギルに詰め寄ってたから」

「あ、だからずっとワタシたちを見てたのかい?」

「そうね、先刻までは半信半疑で、ただの対戦相手として見ていたのでしょうけど、きっとあの青マスクがルーギルから聞き出したんだわ。あの面子の中では、多少、口も頭も回るみたいだから」

「ふ~ん。なら青マスクも参戦って事になるのかな? 白マスクと一緒にいるし」

「ええ。恐らくその流れになるわね。その証拠に、早速ルーギルが私たち二人を呼んでいるから」

 両手を挙げ、ナゴタとゴナタの名前を呼ぶルーギル。
 その後ろでは、青マスクと白マスクが、姉妹の二人を横目で睨んでいた。






「悪りぃな、二人ともッ。ちっと物言いが入って、呼ぶのが遅くなっちまってよッ」 

 三人の元に着いて早々、ナゴタとゴナタに軽く頭を下げるルーギル。

「いいえ。私たちは別に気にしていません。それよりも模擬戦のルールを教えてください。何やら変更になったみたいですから」 

 ルーギルに答えながら、その後ろに立つ、青マスクと白マスクの二人を見る。
 そんな二人は模擬戦用ではなく、見た事もない武器らしきものを持っていた。


「ああッ、さすがはそこの鈍そうなのと違って、お前は賢いなッ。で、お前の言う通りルールが変更になったッ。簡単に言やぁ、模擬戦じゃなく、決闘に近い感じになったッ。そこの青マスクからの要望でよッ」

 親指で後ろを指さし、苦笑いを浮かべるルーギル。

「ちょ、ルーギルっ! 鈍そうってワタシの事かっ!?」
「そうですか。では決着のルールはどうなったのですか?」

「おうッ。武器は各自、各々のものを使う事になったが、決着のルールは変わらねえッ。気絶するか、負け宣言の文句を言やあ、そこで終了だッ」

「なるほど。わかりました。ではしまった場合はどうするのですか? 勢い余って、再起不能か死亡するほどの、大ケガを負わせる可能性もありますが」

 青と白マスクの目を見ながら質問する。


「おうッ。確かに真剣同士でやり合ったらそういう事はあるわなッ。だが、ここ一番ヤバい時には、アイツに出張ってもらうよう頼んであるからよッ」

 ナゴタに答えながら、顎で待機所を指し示すルーギル。
 そこには、グッと親指を立てる、元Aランクのナジメがいた。


「それによ、仮に重症なケガを負っても、嬢ちゃんに貰ったがあんだろッ?」

「嬢ちゃん? ああ、お姉さまのアレですね」

 ルーギルの言いたい事を把握し、薄笑いを浮かべるナゴタ。


「まあ、そういうこったッ。そもそも観衆の面前で、死人を出すわけにゃいかねえからなッ。対策は出来る限りしておくに越したことはねえしなッ」

「はい。今ので全て了承しました。ならルーギルは直ぐにここを出てください」

 スッと愛用の両剣をアイテムポーチから取り出すナゴタ。 


「はッ? いや、まだ開始の合図が――――」

「ルーギル。これは決闘なのでしょう? なら合図はお互いに武器を構えたその時です。だから直ぐに離れてください」

 両剣の切っ先を、青と白マスクに向けるナゴタ。
 その隣では、ゴナタも愛用のハンマーを肩から降ろしていた。 
 

「あ、ああ、わかったぜッ。なら俺が離れたら勝手に始めてくれやッ。それと言い忘れたが、お前ら二人の事は話してあるッ。もう察しているようだがよッ」

「ええ、わかっています。どうせあなたの事だから、あの青マスクに言いくるめられたのでしょう?」

「まあ、そんな感じだなッ。何やらお前らと会った事あるような口振りだったしよッ。もしかしてマズかったかッ?」 

「いいえ。別に気にしてません。本当の事ですし。それより早く行ってください。じゃないとあなたも巻き込まれますよ? 私はどうでもいいですが、お姉さまに叱られますからね。それでまだ何かありますか?」 
 
「んにゃッ。特にもう無えよッ。ただ一応気を付けろよッ? 俺が知らねえってのもあるが、どうもを持ってるみてえだしよッ」 

「ええ。はわかっています」
「うん、なんか変な感じするもんな、

 三人が揃って警戒し、注視するもの。

 それは、青と白マスクが持っている武器と防具だった。







「いやはや、何なんですか、ここのギルド長は。長話にも程がありますよ」
「何を話してたか興味ねえが、待たされる身にもなれやっ! あの野郎はよっ!」

 ルーギルがここを離れたと見るや否や、その背中に唾を吐くように、罵詈雑言を浴びせる青マスクと白マスク。
 
 それに対し、

「そんな事はもうどうでもいいです。それではさっさと始めましょう? それとも私たちの正体を知って、何か思うところがあるのですか? 今更時間稼ぎは見苦しいですよ?」

「ん~、ワタシたちはお前らの事なんて知らないんだけどな。まぁ、何処かでやり合ったとしても、弱い奴らの事なんてすぐ忘れちゃうけどなっ!」

 それに対し、いつもより口調が攻撃的になる姉妹。
 傍から見ると、ルーギルを乏しめた事に対し、憤慨しているようにも見える。


「いいえ、私たちはあなたたちと戦ったことはありません。そこは勘違いしないでくださいよ。自意識過剰も甚だしいですね」

「だな。まあ、そんな大層なものをぶら下げてるんじゃ、見られてるって思われても仕方ねえかもだけどよっ!」

 手に持つ武器を構えなおし、青マスクはおどけた様に、白マスクは小馬鹿にするように答えながら、ただその目は鋭く、姉妹のGランクの胸部に向けられていた。

 
「はぁ、いつまでこの不毛な会話を続けるつもりですか? あなたたちも武器を構えたのですから、開始の合図とみなして、こちらから行きますよ」

 トンと軽く地を蹴り、その姿が瞬く間に消えるナゴタ。
 『俊足』の能力を使い、一瞬にして、青マスクの間合いに入る。

 そんなナゴタの武器は『両剣』。
 槍ほどの長さでありながら、その両端には剣が付いている武器だ。


「お前たちの話はつまんないんだよなっ! だからさっさとぶっ飛ばして、その後でワタシを馬鹿にしたルーギルを折檻してやるんだっ!」

 ダンと強く地を蹴り、一気に白マスクに迫るゴナタ。
 『剛力』の能力を使い、超重量の武器を軽々と振り回す。

 そんなゴナタの武器は『ウォーハンマー』。
 自身の身長ほどの長さでありながら、その重さは半トンを超える。


 青マスクにはナゴタが、白マスクにはゴナタが先制を仕掛けるが、


「あは、さすがは神速と呼ばれた速さですねっ! でもそれは迂闊ですよっ」

 ザシュッ!

「え?」

 ナゴタは、自身のドレスの一部が切り裂かれた事に驚愕し、


「どれ、大岩をも軽々と粉々にする、お前のチカラ見せてみろやっ!」  

 ボヨンッ! 

「なっ!?」

 ゴナタは、攻撃が跳ね返された事に愕然とする。 


「ふふ。これは高い買い物でしたが、効果は抜群ですね」
「ああ、俺のもあの馬鹿力を無効化しちまったし、いい買い物だったぜっ!」

 唖然とする二人を前に、見せびらかすように、自身の武器を軽く持ち上げる。

 青マスクは、剣伸(刃の部分)が消え、柄だけになったレイピアを。
 白マスクは、表面が風船のように膨張したバックラーを。
 

 いずれもこの世界では初見の武器及び防具だが、その特殊性はスミカの持つアイテムに酷似していた。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...