547 / 581
第13蝶 影の少女の解放と創造主
黄色マスク男VS蝶の英雄の妹ユーア その3
しおりを挟む「ヤ、ヤベエなアイツッ! メチャクチャしてんぞッ!」
ダダダッ――――
審判役のルーギルが、慌ててナジメたちの元に駆け寄る。
メチャクチャとは、ユーアの驚くべき行動の事だろう。
何せ、ユーアの対戦相手の黄色マスクは、10本の指と両手首を折られ、既に戦意を失っているのにも関わらず、そんな相手を前に――――
「う、うむ。しかも今度はハンドボウガンを取り出したのじゃっ!」
「あ、あと残ってるのは、両肘と足だけ。まさかまだやるつもりなのかっ!?」
「今のユーアちゃん、ちょっと怖い、なんで…………」
――攻撃の手を緩める気配がないからだった。
ナジメ、ロアジム、ゴマチはそんなユーアの行動に、驚愕すると同時に、困惑する。
ルーギルも含め、何故あのユーアがここまで、らしくない事をしているのだろうと。
※
「さ、さすがユーアねっ! まさかあんな一方的にやっつけるなんて思わなかったわっ! もうあの変態も懲りたんじゃないっ!」
一方、ルーギル達の隣では、上擦った声で、ラブナが歓喜の声を上げていたが、
「でも一方的過ぎて、あまりいい傾向ではないわ……」
「それに、いつもと違って怖いもんな、今のユーアちゃん……」
だが、ラブナの師匠のナゴタとゴナタは、言葉尻を濁していた。
普段のユーアからかけ離れた行動に、揃って表情を曇らせていた。
「なあ、ナゴ姉ちゃん、このままだと――――」
今のユーアの姿に、何かを感じたゴナタは、姉のナゴタに振り返る。
「そうね、このままだと、私たちみたいになってもおかしくないわ。大事なものを守る想いが暴走して、目的を履き違えた、過去の私たちみたいに」
「だ、だよな、でも止める方法がないよ。お姉ぇもここにはいないし……」
「そうね、お姉さまは、今…………」
姉妹は互いに目を合わせた後で、不安げな表情をユーアに向ける。
そんな過去のナゴナタ姉妹は、同業者を狩る冒険者狩りだったが、スミカと出会いによって道を正された。
その結果、現在でも冒険者稼業を続けられている。
多少の遺恨は残っているだろうが、それでも大半の冒険者たちには許され、今では新人冒険者たちの指導役を任されるほどに、信頼は回復してきている。
冒険者を守って死んだ、憧れの両親を罵倒され、冒険者そのものを憎んだ姉妹。
その行動が間違っていると気付いても、止める事は出来なかった。
大切なものを罵られ、卑下されれば、その想いが強いほど周りが見えなくなる。
それを知っているからこそ、ナゴタとゴナタは懸念する。
あれ以上踏み込めば、自分たちと同じ道を辿ってしまうと。
笑顔も生き甲斐も何もかも失くし、憎悪だけが育っていったあの過去を。
※
「ま、待てっ! 待ってくださいっ! 今、参ったって言うからっ!」
武器を構え、冷めた目で見下ろすユーアに、黄色マスクは懇願する。
あの気持ち悪い言動も、自信に満ちた態度も、とうに霧散していた。
「でもその前に約束してくれる?」
「わ、わかりましたっ! 何でも約束するよっ!」
ユーアの話にブンブンと、首を縦に振って即答する黄色マスク。
「もうあんな事しない?」
「あ、あんな事?………… わ、わかった。ぼ、僕はユーアちゃんに今後タッチしない、ぎゃあ――っ!」
恐る恐る答えたと同時に、絶叫する黄色マスク。
見ると、右の足首がおかしな方向に曲がっていた。
「違うよ? ボクの事じゃないよ? やっぱりわかってくれないんだね」
「ななな、何がっ!」
「おじさんはね、ボクの大好きな人を馬鹿にしたんだよ?」
スチャ
「ひっ!」
説明しながらおもむろに、2丁のハンドボウガンを向けるユーア。
その行動に、更に恐怖に顔を歪め、短い悲鳴を上げる。
そんな黄色マスクなど眼中にないかのように、更にユーアの話は続く。
「それでね、こっちは当たると痺れるんだっ! だから逃げようとしてもダメだよ? それでこっちは爆発するんだっ! これ全部スミカお姉ちゃんに貰ったんだっ!」
「ひ、ひぃ――――っ!」
何の脈絡もなく、嬉々として、武器の説明を始めたユーアに恐怖する。
冷めた笑顔から一転して、無邪気に話す姿に、黄色マスクは錯乱する。
ズザザ――――
「うひぃっ! だ、だからもう降参だってっ! もうやめてっ!」
目の前の恐怖から逃げようと、半狂乱になりながら黄色マスクは後退りするが、
トコトコ
「それで、この鎖もね――――」
離れた分の距離を、ゆっくりと笑顔で詰めてくるユーア。
『な、なんだ、何なんだこの子供は――っ! 蝶の英雄本人じゃないだろうに、なんでこんなに強いんだよっ! もしかして僕たちは、手を出しちゃいけないものに手を出したのかっ!』
正直舐めていたし、侮っていた。
蝶の英雄なんて、殆ど無名に近い英雄の事なんて。
そして、その英雄を支持する仲間なんて、大したことないと。
だが蓋を開けてみれば、その真逆だった。
一番無害に思えたこの少女でさえ、手も足も出せず、追い詰められている。
「どうしたの? もう逃げないの?」
「ひぃっ!?」
動きを止めた黄色マスクに、不思議そうに首を傾げるユーア。
戦う前なら、その仕草にキュンときたが、今はその一挙手一投足が、恐怖を煽る仕草にしか映らなかった。
だからこそ、一秒でも早く、この苦痛と恐怖から逃れようと、
「ま、参ったっ! いや参りましたっ! 今後、蝶の英雄の名を騙る事はしません。だから許して――――」
記憶を頼りに、負け宣言の口上を叫んでいる最中、それは起こった。
『ガウッ!』
ドガンッ!
「がはっ!」
「えっ!?」
強烈な一撃を背中に受けて、黄色マスクはユーアの前から吹っ飛んでいき、ルーギル達がいるベンチの前に落下し、そのまま気を失った。
そのユーアと黄色マスクに、割り込んできた犯人は、
「ハラミっ! なんで?」
『がう~』
ペロペロ
「くすぐったいよぉ~っ! じゃなくて―――― え? ボクが変だった?」
『がう』
それは、ギルドの屋根からずっと、ユーアを見守っていたハラミだった。
「あれ以上は危なかったの?」
『がうっ! がうっ!』
「そうだよね、ボクもちょっと怖かったんだ…… なんか一杯怒っちゃって、ボクがボクじゃないみたいになっちゃったんだ」
柔らかいハラミの身体にボフと抱き着き、心の内を吐露する。
幾度も大事なものを乏しめられ、怒りで我を忘れた、そんな自分が怖かったのだと。
「あ~、ちょっといいかッ? お前ら」
「え?」
『がう?』
二人が抱き合っている最中、ルーギルがユーアとハラミの元に歩いてくる。
その後ろには、気を失った黄色マスクを放置して、残りの仲間も付いてきていた。
恐らく、模擬戦の結果を説明しに来たのだろう。
勝利の条件の中には、対戦相手の気絶も含まれているからだ。
だが、そんなルーギルの表情は、何処か浮かない顔だった。
「はい、なんですか? ルーギルさん」
『がう』
「あのよ、ちょっと言いにくいんだがよッ……」
「うん?」
『がう?』
いつもと違い、歯切れの悪いルーギルに、若干戸惑う二人。
そんな二人を前に、ルーギルは話を続けるが、
「お前ら反則負けだわッ」
「え?」
『がう』
衝撃的な知らせを聞いて、更に戸惑う二人。
互いに抱き合ったまま、ルーギルを見て固まってしまう。
「あー、その訳は今から話すけどよッ」
キョトンとしている二人と、黄色マスクの仲間を前に、ルーギルが説明を始めた。
その理由とは?
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる