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第13蝶 影の少女の解放と創造主
復活するなりすましとオネエの想い
しおりを挟む「「「う、うう…………」」」
ルーギルから説明を聞いていた最中に、何者かにやられた4人。
赤・黒・白・黄色のマスクを着けた男たちは、みな同様に気を失っていた。
「あなたたちが何故っ!? 一体何が起こったのですかっ!?」
そこへ、血相を変え、仲間に慌てて駆け寄る、青マスクの男だったが、
「んあ? なんだぁ? 痛くも痒くもねえぞっ!」
「はっ!? 潰れたと思った、鼻も顎も無事だっ!」
「お、俺も鎖みてぇなのに首絞められたんだが何ともねぇっ!?」
「???」
まるで何事もなかった様にムクリと起き上がる4人。
不思議そうにお互いを見渡すが、特にケガなどの外傷は見当たらなかった。
「はっ!? なぜ? あんなに派手に吹っ飛んだのに、どうしてっ!?」
かすり傷一つ見当たらない仲間たちに、青マスクの男は驚愕する。
無事な事に安堵しながらも、どこか解せない表情を浮かべていた。
※
「ぬっふっふ、早速ルーギルはあれを使ったようじゃなっ! にしても、シスターズたちはみな揃って堪え性がないの。いや、あれでも堪えていた方かの? ユーアを含め、ずっとみなも不機嫌じゃったしの。にっしっし」
混乱している男たちを見て、何故か楽し気なのはナジメ。
土魔法で設置したベンチ(屋根付き)の中で、独りほくそ笑んでいた。
「なっ!? あれとは一体どういう事じゃナジメよっ!」
「あの冒険者たちなんでっ!?」
そんなナジメに反応したのは、一緒に観戦していたロアジムとゴマチ。
ベンチから身を乗り出し、ナジメと男たちを見比べていた。
「ああ、あれはじゃな、ねぇねから貰った回復薬をルーギルが使ったのじゃよ。じゃが、あまりにもその効果が高過ぎて、一瞬でキズを癒すから、痕跡が残らずわかりにくいのじゃが」
「はあっ!? 何故わざわざ治す必要があるのじゃ?」
「そうだよっ! そんな凄い回復薬をなんでっ!」
ナジメの説明を聞き、更に声高になる祖父と孫。
腰かけていたベンチから立ち上がり、その勢いでナジメに詰め寄る。
「ちょ、落ち着くのじゃっ! 最初から教えるから、一度座るのじゃっ!」
興奮する二人を宥めて、ナジメは説明することにした。
スミカからの言いつけの件と、ルーギルたちと話し合った事を。
※
「あらん、早速やられちゃったわね~。これじゃあまり伸びないかも」
「?」
そんなナジメたちの脇には、ニスマジとクレハンも同席していたが、一瞬で倒された男たちを見て、ニスマジが意味深な事を呟いていた。
「え? 伸びるって、何がですか?」
今の状況に相応しくない単語に、クレハンが聞き返す。
「ああ、それは売上よん」
「売上? ですか」
「そうなのよ。あそこに屋台やお店の従業員が見えるでしょ?」
「え?」
そう答えるニスマジは、集まった観客たちの方を指さす。
「あっ! いつの間に?」
そんな人混みの向こうには、多くのカラフルなのぼり旗が見え、人混みの中には、やたらガタイのいい半裸の男たちが、せわしなく動いていた。
そののぼりには『トロの精肉店』や『大豆屋工房サリュー』などの店名が書かれており、何やらその周辺から、鼻腔をくすぐるいい匂いが漂っていた。
そして、筋骨隆々で半裸の男たちは、蝶の羽根付きリュックと蝶のアイマスクを着けて、集まった人たちに何かを手渡し、何かを受け取っていた。
「あ、もしかしてっ! この状況を利用して商売してるんですかっ!?」
男たちに手渡された硬貨を見て、そう結論するクレハン。
「ご名答よ。さっきあなたも気付いたようだけど、この人の多さはわたしが事前に告知しておいたのよぉ。今日のこの時間帯に、ユーアちゃんたちと偽物が対決するって」
「あ、やっぱりそうでしたかっ! あんな短時間で、この人数が集まるのが不思議に思ってましたっ!」
「それでぇ、わたしはログマとマズナ親子に声を掛けたのよぉ。お祭りがあるから屋台を出してって。そうすればもっと人が集まるし、わたしのお店の商品も便乗して売れるからってね」
人差し指を立て、体をクネクネさせながら説明するニスマジ。
「な、なるほど。その抜け目のなさは流石は商売人ってところでしょうか…… でもなぜ今日だとわかったのですか? ユーアさんがいつあの人たちに仕掛けるかなんて―――― あ、もしかしてこれもっ!?」
「そうよぉ、これもわたしが仕組んだのよね。実はね、二日前にユーアちゃんがわたしのお店に来たのよ。スミカちゃんの事を悪く言う、怪しい人がいるって、ゴマチちゃんに聞いてね」
「ゴマチさんですか。それでどうやって今日だと?」
「それでぇ、あの人たちが悪いことをしたら教えてって、ユーアちゃんに頼まれたのよぉ。それが今日たまたま、わたしのお店の商品を盗んでねぇ、それで知らせたってわけ」
最後にバチンとウインクして、ニスマジは話を締めくくるが、
「本当に、たまたまなんですか?」
今の話に違和感を感じ、ニスマジの顔を覗き込むクレハン。
偶然だと言っているが、この規模で準備が進んでいた事に疑問を感じたようだ。
「あらん、流石はルーギルの右腕ね? ルーギルもわかったみたいって言うか、直感的に勘づいたって言った方が正しいかしらん」
「あっ! て事は、ギルド長も今の話を――――」
「もちろん知ってるわよぉ。さっきわたしたち人混みの中ではぐれたでしょう? その時にね」
「なるほど。その時にギルド長に話をしたってわけですね。窃盗は自作自演だったと」
「まぁ、簡単に言うとそうね。わたしの拳の中に隠した商品を、あたかもあの男のポケットから出た様に演技したのよ。あ、でもユーアちゃんはこの事知らないわよ? これはわたしの独断でした事だから。だってあんなに険しい顔のユーアちゃんなんて見たくないから」
「………………」
「あの子には笑顔でいて欲しいのよ。スミカちゃんが来るまで、ずっとあの子は苦労してたから。でもその笑顔を守っていたスミカちゃんはいない。だから――――」
「だから、大人のわたしたちが守ろうって事ですね。でも直接手を出すことは出来ない。きっとユーアさんなら遠慮するだろうし、それだけ時間もかかるから。だから手助けなら出来ると」
「まぁね。でもそこに打算がないって言ったら噓になるかしらねぇ。わたしは商売人。だからこの状況を利用する事に躊躇ったりしなかったわ」
そう自虐的に話すニスマジの顔は、卑しい商売人の顔には見えなかった。
格上で、屈強な男たちを前に、臆することなく立つユーア。
そんなユーアを見る目は、どちらかと言うと――――
「…………なんか、ニスマジさんもお姉さんみたいですね」
「あ、あら? そう? そう言って貰えると嬉しいわ……」
クレハンの一言に、ニスマジは目を逸らしながら答える。
飄々としたさっきまでとは違い、若干照れているように映った。
そんなニスマジは、性別はもちろん、ユーアの血縁関係でもないが、それでも妹を心配する、一人の優しい姉に見えた。
そして、オカマ兼、非公認の長女役に見守られながら、初戦は、ユーアと黄色マスクとの模擬戦が開始された。
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