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第13蝶 影の少女の解放と創造主

クロ様(ナジメ)となりすまし

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《こ、これは一体どうなっておるのじゃっ! ねぇねから貰った、りふれくと何とかから声が聞こえてくるのじゃっ!》

 通話先のナジメに繋がったのはいいが、かなり興奮している様子だった。
 
 それはそうだ。
 何せ、シスターズの懇親会で渡したアイテムから、私の声が聞こえているんだから。 


 実は、元々みんなに渡した装備アイテムには『VC』(ボイスチャット)の機能が付いているのものを渡していた。後々にその機能が解禁されると思っていたから。

 ただ今までは、リレーユニット(中継器)がなく、その機能が使えなかった。

 だけど、装備内のカウントダウンが進んだおかげで、ストレージボックス内の、リレーユニット『ヘッドセット』が取り出せるようになった。

 なのでそれを介して、みんなと通話が出来るようになった。 
 だからナジメとだけではなく、今後はみんなとも話すことが可能だ。
 
 因みに、装備アイテムのこの機能は、あくまでも補佐的なものなので、装備アイテム同士では通話が不可能だったりする。
 
 だからマヤメの件と依頼が解決したら、ヘッドセットをシスターズのみんなにも渡す予定だ。そうすれば何処にいても、全員と会話が出来るようになるから。



「あー、りふれくと何とかじゃなく『リフレクトMソーサラー』ね? で、それでいきなりなんだけど、今、忙しい?」 

 ヘッドセットの音声出力を、スピーカーに変更しながら聞いてみる。
 これで私だけではなく、ここにいるみんなにも聞こえるようになった。


《う、う~む、そうじゃな。忙しいと言えば、ちと忙しいやも知れぬ…… それでこれは一体どうなっておるのじゃ? 通信魔道具には見えなんだが》 

「その説明は後でするよ。それよりも忙しいってホント? 現在の話じゃなく、長期的にって意味で聞いてるんだけど?」

《うむ? 長期的とな?》

 ナジメに聞きながら、チラとみんなを見てみる。
 大尊敬する領主さまの声を聴いて、どんなに歓喜してるのかと思って。

 ところが、ここでもまた予想を裏切られる。


「ううう、ひっく、クロしゃま…………」
「「「………………」」」

 みんなは大騒ぎするどころか、地面に両膝を付いて、お祈りポーズをとっていた。
 しかもジーアなんか感動し過ぎて、泣いちゃってるし。


「…………うん、そう。数か月先っていうか、十数年先って意味で」

 そんなみんなから、スッと視線を逸らして話を進める。
 なんか見たらいけないものを見た気分だし。


《十数年っ? そ、それはわからぬが、そもそもなんでじゃ?》

「私は今、クロの村ってとこにいるんだけど、その村のジーアって子が―――― あ、ちょっと待っててっ! マヤメ、ジーアを押さえといてっ!」

《な、なぬっ! ねぇねはクロの村にいるのかっ!? それとマヤメと一緒にいるのかっ?》

「あ、ごめんね。なんかジーアの名前出したら、逃げ出そうとしたからマヤメに捕まえてもらったんだよ。で、どう? 忙しいなら忙しいで、付き人とか欲しくない?」

《…………ちと情報が多過ぎて、頭の整理が追い付かないんじゃが、今のねぇねの話からすると、ジーアをわしの付き人にしたい、とそういう事じゃな?》

「おおーっ! 察しが早くて助かるよ。で、ついでに聞きたいんだけど、ジーアに村に残れって言ったの? それとナジメと一緒に行きたいって、ジーアの口から聞いたことある?」

《ぬ? わしはそのような事ジーアには言っておらぬぞ? ただ村を任せたとは伝えたのじゃが。わしと一緒に来たいと聞いたのも初耳じゃな》

「ああ、やっぱりそうなんだ」

 モロ的中だ。
 ジーアの性格上、自分の主張や意見を伝えるのは苦手だろう。
 それが心から崇拝するなら尚更だ。


「で、話は戻るけど、ちょっと忙しいってのはなに?」

 やっぱり私のせいかなと、一応確認してみる。


《うむ、なにかおかしな輩が街に来ておってのぉ》

「おかしな輩? って、もしかしてジェム魔物っ!? だったら――――」

 直ぐに駆け付けなければならない。

 あの白い人型や、今回のような強力な魔物だったら、みんなが無事でも、コムケの街が大変なことになる。

 幸いにも今の私には、そのがあるし。


《いや、違うのじゃ。冒険者なんじゃが、何やら英雄と名乗っておるのじゃ》

「英雄? なんの?」

 ってか、英雄って自ら名乗るものなの?
 自分は正義の味方って名乗るくらい、怪しさ満点なんだけど。


《ねぇねと同じ『蝶の英雄』だと言い張るのじゃ。どこぞでねぇねの名声を聞いて、この街で幅を利かせようとでも思っておるのじゃろう。この街がその英雄の街と知らずにの》

「あはは、それは間抜けだね。で、その輩ってどんな女冒険者なの?」

 なんか続きが気になって、話の先を聞いてしまう。
 私の真似って事は、かなりのボンキュッボンな美少女だろうし。


《ん? 女じゃないのじゃ》

「………………はい?」

 どういう事?

《それがみんな男なのじゃ。Cランクの冒険者の5人パーティーなのじゃ》

「………………」

《どうやら碌に調べもせずに、英雄の名の恩恵を受けようと画策しておるようじゃの。この街が辺境にあるが故に、誰も蝶の英雄の素性や背格好を知らぬとでも、思っておるのじゃろうて》

「あ――――」

 それは嫌だなぁ。

 蝶の英雄って名に固執はしてないけど、他でやられたらちょっと迷惑かも。
 男でもまだイケメンで品行方正なら許せるけど。
 
 なんて、そこまで大した事でもないと思っていたが、次のナジメの説明で気が変わった。


《しかも全員が全員、半裸でムキムキで、蝶の要素は目元に着けている蝶のマスクだけなのじゃ。そんな輩が我が物顔で、街中を闊歩しているのじゃから、みなはかなり迷惑に思っておるようじゃの。特にシスターズ達など――――》 

「――――――って、いいよ」

《うぬ? 今なんと言ったのじゃ?》

「そんなのやっちゃっていいよっ! その5人組は絶対そのままコムケの街から出さないでっ! 出る時は英雄の名を語ったことを後悔させてからにしてっ!」

《うわっ! って、ねぇねいきなりどうしたのじゃっ!》

  
 どうもこうもない。
 現代なら名誉毀損もいいところだ。

 仮に、そんな輩を野放しにしたら、私は何処に行っても厄介者&変態扱いされるだろう。

 私だけなら我慢できる。
 けど、ユーアやBシスターズのみんなが、そんな目で見られるのは嫌だ。

 だからこの機会に駆除し、見せしめにしなくてはいけない。
 蝶の英雄(私)になりすます事は、身を亡ぼす愚かな行為なんだと。


「相手は冒険者なんでしょ? だったら公然と出来るよね?」

《う、うむ、それは模擬戦って事じゃな? じゃが相手は曲がりなりにもCランクじゃ。わしは冒険者ではないから参加できぬぞ? 実害も報告されておらぬし》

「うん、それはわかってる。でもユーアたちは怒ってるんでしょ?」

《そうじゃな。ユーアは顔には出さぬが、かなりピリピリしておるのじゃ。ラブナはそんなユーアを見て、奴らに対して憤慨しておるし、ナゴタ達は他の冒険者を使って、奴らの素行を監視しておるようじゃな》

「ユーアがピリピリっ!? な、ならルーギルとクレハンにも話して協力してもらってっ! それと私が渡した回復薬まだあるよね?」

《あるのじゃ。で、わしはちょうどその件で冒険者ギルドに向かうところなのじゃ。あ、でもねぇねよ、回復薬は模擬戦で使用禁止なのじゃが、どう使うのじゃ?》

「どうって? そんなの相手に使うに決まってるじゃん」

《む? 相手、とな?………… あっ! ぬふふ》 

 私の返答を聞いて、少しの間沈黙するナジメ。
 けど、その意味を理解したのか、直ぐに含み笑いが聞こえてきた。


「ま、そんな訳だから、模擬戦のルールってのはルーギルに相談してみてよ。それかクレハンだったら、何か良い案考えてくれそうだから」

《わかったのじゃ。しかしねぇねはよくそんな非道な事を思いつくのぉ? あんな効果の高い回復薬を、あ奴らに使うのには、ちと勿体ないと思うのじゃが……》

「そんなの気にしないでいいよ。それでユーアやみんなの溜飲が下がるなら、その方がいいしね。私が帰った時に、みんながピリピリしてるのも嫌だからね」

《そうじゃな、依頼を終えて帰ってきたら、みながそんな調子じゃねぇねも気を遣うしの。ならわしもねぇねの為にルーギル達を説得するのじゃ。して、もう話は終わりかの?》

「うん、任せたよナジメ。で、これで話は終わりなんだけど、ナジメと話をしたことは内緒にしておいて? 後で連絡した時にみんなを驚かせたいから」

 特にユーアの反応が楽しみだったりする。
 いや、違うかな? 驚いたユーアの声を聴きたいだけかも。


《うむ、了解したのじゃ。それでは全てが片付いたら、ねぇねに報告すればいいかの?》

「あ、それはそのアイテムだけでは出来ないんだ。今はまだこっちからしか連絡できないから、何処かのタイミングで私が連絡するよ」

《うむ、わかったのじゃ。ではよろしく頼むぞ》

「はーい、そっちもよろしくね。じゃーね」

 プツン


『ふぅ、これで余計に増えた心配事が解決しそうだよ。ギルド長のルーギルもいるし、もしかしたらロアジムも顔を突っ込んできそうだしね』

 ナジメとの通話を終えて、少しだけ安堵する。
 頼もしい仲間がいるんだと、ちょっとだけ嬉しくなりながら。

 なんて、そんなみんなの出会いに感謝し、これらの人間関係を築いた自分も満更じゃないなって、独り悦に浸っていると、

 グイ   

「あ、あにょ~」
「ん? 何ジーア?」

 羽根を後ろからジーアに引っ張られる。
 そんなジーアは何故か、半泣きになってるけど。


「あ、あにょぉ~、わたしとクロ様との話は一体…………」 
「あ」

 忘れてた。
 ってか、私のなりすましの話が衝撃的過ぎて、スッポリと抜けてた。
 そもそもジーアの件で連絡してたのに。


「ご、ごめんね、もう一度連絡するからっ! でもさっき逃げだそうとしたよね?」
「う、そ、それは照れ隠しでしゅっ! なのでもう一度お願いしますっ!」
「はぁ~ なんかわかりずらいな。でも忘れてた私が悪いから直ぐに連絡するよ」
「よろしくお願いしましゅっ!」

 ピッと背筋を伸ばして、声高に返事をするジーア。
 曇天だった表情も、一気に晴天のような笑顔に変わる。


「あ~、もしもしナジメ? 何度もゴメンね? あのさ――――」 

 さっきのジーアの泣きべそは、実は演技だったんじゃないかとチラ見しながら、もう一度ナジメに連絡をした。

  


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