剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

セーラー少女の想いとみんなの願い

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「いやいやいやっ! なんでそんな話になるの? いきなり過ぎるってっ!」

 ジーアをクロの村に送って早々、村のみんなの話を聞いて驚愕する。

 本当にこの村の住人たちは、ナジメ同様、色々と予想外過ぎる。
 もうワザとなんじゃないかって、疑うくらいに。

 その詳細は――――


「いいえ、そんないきなりな話ではなく、私たちも思うところはあったんです」
「思うところ?」

 説明役を任されたであろう、エルフっぽい女性に向かって聞き返す。
 

「はい。知っての通りジーアは、クロ様を誰よりも尊敬し、崇拝し、心酔し、狂信しています。この中で一番、クロ様と一緒の時を過ごしてきましたから。この村がまだ数人の集落だった頃からです」

「は、はぁ、それで?」

 なんか危ない宗教みたいだな、と思いながら先を促す。
 なんだよ狂信してるって。   

「そんなジーアだからこそ、本当はクロ様に付いていきたかったんです。それでもそれを我慢して、この村の為に残ってくれているんです。私たちが不甲斐ないばかりに……」

「ああ、そう言えばジーアは、この村一番の実力者だもんね? かなり危なっかしいけど、確かに強力な魔法を使っていたしね」

 そこは私も認めるところだ。
 この村に来た時も、ジェムの魔物の時もそうだった。

 ナジメには劣るが、それでもかなりの部類だと思う。
 ラブナが魔力酔いで覚醒した、あの時くらいには凄かった。


「は、はい、その通りです。ジーアは強力な魔法を使えます。今までこの村の特化戦力として、みんなと村を守ってきました。それでもクロ様には、遠く及びませんが」

「あ、そこは認めるんだ。でも私から見れば、ナジメもジーアもそんなに差を感じないんだけど。さっきもジーアの魔法に巻き込まれて、その凄さを体験したから」

「え? 巻き込まれたっ!?」

「「「は、はあっ!?」」」

 唐突に出た私の暴露話に、みんな揃って勢いよくジーアに振り向く。


『そ、それは内緒って約束だったのに、酷いでしゅっ!』

 が、その当の本人は、マヤメのマフラーで顔を隠し、背中で何か叫んでいる。
 そんなマヤメは我関せずと、無表情でみんなを眺めていた。


「ま、済んだ話はもういいよ。で、実際に体験したから、そこまで差を感じなかったってだけの話だしね。遠く及ばないって言うのは、少し言い過ぎだなって思っただけ。ジーアも頑張れば追いつけるかもって」

「そ、それはありがとうございます。でもクロ様は、ハイエルフとドワーフの混血。ですから、そもそもの素質に差があるんですよ」

 未だマヤメの後ろに隠れている、ジーアに視線を向けてそう答える。

「ハイエルフ?」
「ん、エルフの上位種。魔力も段違いで、寿命は永遠に近い」
「そんな種族もいるんだ。寿命が永遠って凄いね」
「ん、でもナジメはハーフ。だから不明」

 釣られてジーアに視線を向けると、前にいるマヤメが教えてくれた。
 かなり端折ってそうだけど、それでも優秀な種族なのは伝わった。


「ふ~ん、何となくわかったけど、でもみんなはそう言いながら、ジーアには期待してるんでしょう? だから私にナジメの元に欲しいと思ってるんでしょう? もっと強くなって、大好きなナジメの傍にいて欲しいって思ってたんでしょう?」

 これがみんなの願い。
 そしてここからが本題だ。

 クロの村の村人たちは、ナジメの元にジーアを居させたいと思っている。
 もちろんそれは、ナジメを尊敬するジーアも同じだ。 

 だけど、村を守る事とナジメを天秤にかけた結果、ジーアは村を選んだ。
 それはきっと、ナジメが造った村やみんなを守りたいからだろう。


『で、そんな村のみんなが、ジーアの願いを優先する切っ掛けとなったのが、蝶の魔物との戦闘が自信に繋がったんだろうね。ジーアに頼らなくても大丈夫って、気付いたんだろうね』

 これはいい傾向だと思う。
 ジーアの為にもなるし、みんなもジーアの依存から脱却できるから。

 ただ一つ問題がある。
 
 私的には連れて行ってもいいと思っている。
 ナジメも喜ぶかもだし、ジーアの今後の為にもなるから。

 だけど、私一人では決められない。
 一番肝心で、最も大事な事があるから。


「ジーアはどうしたいの?」

 この話が出た時から、どこか浮かない顔のジーアに問いかける。
 一番肝心なのは、先ず本人の意思だ。


「わ、わたしは、クロ様が大切にしているこの村を守るんでしゅ。クロ様とも約束しましたから……」

 マヤメの背中から顔を出し、小さな声でそう告げた。
 ただし、その目はわずかに伏せられていて、地面を見つめていた。


「なら、ナジメと一緒にいたくないの?」
「い、いたいでしゅっ! でも、約束が……」
 
 そう言って、ジーアはまた地面を見つめて黙りこむ。
 その様子から、本心を言ってないのはわかる。だから、


「はあ~、さっきから約束約束って、それはジーアの一番の望みを我慢してまで守るものなの? そもそもジーアはナジメと一緒にいたいって、打ち明けた事あるの?」

 今までの流れで、ここが一番気になっていた。
 なのでストレートに聞いてみる。 

 そもそも私の知っているナジメは、相手の気持ちを蔑ろにはしない。 
 面倒見だっていいし、私が留守中は、ユーアたちや孤児院を見てくれている。


「で、どうなの?」

 なぜか、口を半開きのまま固まっているジーアに再度聞く。

「そ、それは言ってないでしゅ…… だって、わたしがいたら足手纏いでしゅし、お忙しいのに傍にいたら、きっと邪魔でしゅし……」

 そう口にした後で、また自信なさげに俯いてしまう。


『はぁ~ なんだ、やっぱり伝えてないじゃん……』

 あのナジメがジーアの願いを突っぱねて、村に残れと強制するわけがない。
 何も伝えてなければ、一番の実力者のジーアに頼るのは、ごく自然の流れだろう。

 そんな村のみんなは、あの受動的なナジメの教えから解放された。
 けど、ジーアだけは、未だに囚われたままだ。

 それだけナジメの事を心酔しているのはわかる。
 いや、これは妄信と言った方が合っている。

 だけどその想いはいつ届くのだろう。
 長寿命の種族同士だから、数十年はこのままかもしれない。
 
 
『きっと体感時間が違うかもだけど、でも私は違う。知ってしまった以上、このまま知らぬ存ぜぬはしたくないんだよね』 

 知らねば仏、見ぬが秘事。
 なんて言葉があるけど、知ってしまえば放ってはおけない。

 だから私は動くことを決めた。


「あのさ、足手纏いは別として、ナジメが忙しくなかったら、ジーアがいても邪魔にはならないよね? それでその本人が良いって言ったら、ジーアもかまわないよね?」

「うえっ!? で、でもクロ様はきっと忙しいでしゅっ! そんなところにわたしが行ったら、きっと迷惑でしゅっ!」

「いや、忙しいってなんで決め付けるのっ! ジーアは知らないよねっ!」

「う、うひぃ~っ!?」

 これは重症だ。
 勝手に決めつけて、勝手に迷惑だと思っている。

 私が知ってる限り、ナジメはいつもプラプラしている筈だけど。
 孤児院と自分の屋敷を行ったり来たりと。


「ん? ナジメは忙しい。澄香に頼まれた孤児院の工事と、それとスラムにも大豆の工房の増築と改築に行ってる。他にも牛の様子を見に行ってる。みんな澄香からの要望。あとロアジムのとこにも顔出してる。領主について色々教わってるらしい」

「………………」 
「………………」
   
 なんだけど、思いがけないマヤメの話で、ジーアと二人顔を見合わせる。


「ちょ、忙しいのは、殆どスミカしゃんのせい――――」
「ちょっと待ってっ! 今、本人に聞いてみるからっ!」

 ジーアが癇癪を起こしそうになったので、あるものを取り出し、直接ナジメに確認することにした。

 カチャ

「…………も、もしもし? 聞こえる?」

 ヘッドセットを装着し、向こうの相手に話しかける。
 この世界で使うのは初めてだから、自然と小声になってしまったけど。

 すると、直ぐに返事が返ってきた。


《な、なんじゃっ!? この声はねぇねかっ!?》

「うん、そうだよ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 かなり驚いてるみたいだけど、この声と話し方はナジメだ。
 そんなナジメの声に、なんか久し振りだと感じながら、早速本題に移ることにした。 

 これでようやく話を進める事が出来るよ。
 
  
   











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