剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

帰路と帰還

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「さあ、見回りもしたし、一度クロの村に帰ろうか?」

「ん」
「は、はいっ!」

 山頂付近を調べたが、残党はもちろん、巣も見当たらなかった。
 そして一番危惧していた、あの白い人型の魔物も……

 なのでジーアを村に帰すために、クロの村に戻ることにした。
 あれだけ過保護だったのだから、みんなもジーアの事を心配しているだろうし。



「ん? 帰りはここから空?」
「そうだね。もう危険はないみたいだし、マヤメのケガも心配だからね」

 透明壁スキルを展開しながら、マヤメの左肩を見る。
 完全修復までには、まだ半日近くはかかるだろうから。

 ところが、

「ん? ケガはもう直った。もう無くなった」
「え、直った? もう?」
「ん」

 リュックを下ろし、左肩をこっちに向けるマヤメ。 
 確かに私が貼ったはずの、リペアパッドが消えていた。

 それは修復が完了したことを意味するものだった。


「あ、本当だ。傷痕も残ってないや」
「ん」
「痛みとかもないの?」
「ん、大丈夫。これも澄香のおかげ」
「そう、それは良かったよ」
「ん」

 本当に良かった。
 マヤメのきれいな肩を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
 
 そもそもここへ連れてきたのは私だ。

 マヤメが同意してくれたとはいえ、何かあったら責任を感じてしまう。
 特に今回の戦いは、私を気遣って、マヤメが頑張ってくれたから尚更だ。

 修復が早いのがちょっと気になるけど、それはいつもの事。
 私の持つアイテムは、こっちの世界では効果が高いみたいだから。


「あのぉ~、スミカしゃん。ちょっと聞きたいことが……」
「ん、なにジーア?」

 マヤメとのやり取りが終わったところで、ジーアが小さく手を上げる。

「さ、さっきの衣装って……」  
「さっきの衣装って?」

 ちょっとドキッとしながらオウム返しする。

「は、はい、さっき色が変わってましたでしゅ」
「ん、変わってた」

「えっ!? あ、ああ、あれ、ね?」

 やっぱり見られてたか。マヤメも隣で頷いているし。
 だっていきなり過ぎて、解除が間に合わなかったんだもん。

 何せ、裏の世界で魔物を殲滅した瞬間、こっちの世界に戻ってきた。
 まだ5分以上も制限時間があったはずが、ものの数分で帰ってきてしまった。

 そしてその流れで、蝶のジェムの魔物を倒して、腕輪を回収したってわけだ。
 さすがの『機動力』を持ち合わせていても、『裏』からの攻撃には通じなかった。


『まぁ、そもそもなんで行ったかわからないから、なんで戻ってきたかもわからないんだよね? 帰ってこれたのは良かったんだけど』 

 条件があるのは間違いない。
 けど、今のところその条件はわからない。

 ただある程度の推測はできる。
 前回使用した場面と照らし合わせれば。


『初めて使用したのはフーナとの戦いの時で、フーナが幻夢にかかっている間に、試しに使ったんだよね。あの時はチャージ時間数秒だったから、速攻で強制解除されそうになったんだよね? あ、って事は、もしかしてチャージ時間に条件が? それか、相手が裏世界の魔物だったって線もあるよね?』  

 ここまででわかるのは、フーナとの時は裏の世界に行かなかった事。
 恐らく時間か、相手によるものと思われる。 

 私的に一番の要因は、相手が裏世界の住人か否かだとも思っている。

 ただ敵を目の前にして、飛ばされるのは正直困る。
 なので、時間も関係している可能性もある。


『う~ん、まだまだわからないことばかりだな~。条件がわかれば使い勝手もよくなるんだけど…… まあ、こっちは徐々に試していくしかないかな』

 わからない事ばかりで少々辟易する。

 ただそれでもわかった事もある。
 それは、ジーアとマヤメには『表裏一体モード』の私が見えていたって事だ。
 

『そうは言っても、こっちはこっちで謎なんだよね? 二人は私の中身ウサギを短時間とはいえ、見てたはずなのに、なんで? ってなるからね』

 本当に不思議な能力だ。
 それとメニューの説明が不足過ぎる。

 ただそれでも、エニグマたちと戦うには不可欠な能力だ。
 いや、必須だと断言してもいい。

『まぁ、人数制限って線もあるから、コムケに帰ったらユーアに見てもらおう。ついでに見せっこすれば一石二鳥だしね? むふふ』

 何が一石二鳥かはわからないが、これはこれで帰る楽しみが増えた。
 シスターズのみんなもそうだけど、特にナジメには色々と土産話が出来たし。



「――――ミカしゃん、スミカしゃんっ!」

「はっ!?」

 ジーアの甲高い声に呼ばれて、ハッと我に返る。
 そういえば話の途中だったんだ。


「いきなりどうしたんでしゅか?」
「どうって? なにかあった?」

 どこか不思議そうな顔を浮かべるジーアに聞き返す。
 

「ブツブツとなにか言ってましたけど?」
「え?」

 って、また声に出てた? どこから?
 まさか、裏世界の話? それともジェムの魔物を私が倒した事?


「はい、なんかニコニコしてましたでしゅよ?」
「…………はっ!? ニコニコ? なんで?」

 あの内容でそんな顔してたっけ?
 かなり込み入った内容だった筈だけど。 

「ん、ニコニコじゃない。ニヤけてた」
「一石二鳥とかも言ってたでしゅよ?」
「ん、あと見せっこがどうとかも」
「むふふって、最後に聞こえたでしゅ」

『………………うん』

 大丈夫みたい。
 裏世界の事とか、ジェムの魔物の事は口に出していないみたい。 

 特に、裏世界の事は現段階では話せない。
 そこから私の正体に話が及ぶかもだから。

 それと、ジェムの魔物を私が倒したって事も秘密だ。
 二人が戦ってくれたおかげで、裏世界の事も知れたのだから。 


「しょんな事よりもスミカさん。さっきの灰色の衣装は――――」

「あ、さっきで思い出した。そう言えばジーア。私を魔物と一緒に閉じ込めたよね? あのカマイタチみたいな魔法でできた、竜巻の中にさ」

「ふえっ!?」

「しかも念入りに、雷まで発生させてさ」

「あ、あれは、わざとじゃ――――」

「あんなの私じゃなかったら死んでるよ? なんでそうなったか、その時の話を詳しく聞かせて? その内容によっては、また拳骨落とすからね?」

「あ、あわわわわ…………」

 ちょっとだけ凄みを利かせてジーアを睨む。 
 そんなジーアは頭を押さえて、涙目になっていた。

 きっと拳骨される未来が見えたのだろう。
 どうせ碌でもない理由で、あの魔法を暴発させたのだろうから。


 でもこれで一先ず話を逸らす事が出来た。
 ジーアにはまだ話せないし、そもそもBシスターズでもないから。
 
 だから今はまだ胸の内にしまっておこう。
 表裏一体モードが使いこなせないうちは、単に危機を煽ってるだけだから。

 
 そんなこんなで帰りは何事もなく、クロの村に戻ってきた。 
 ロボカラスはマヤメが回収し、みんなの元に到着した。


 だけど、無事に着いたクロの村で、また驚かされるとは思わなかったけど。


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