剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

ジーアの魔法と進化するものたち

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 ※スミカ視点


「な、なんなのこれ? もしかしてジーアの魔法?」 

 ジェムの魔物にお尻を突き出した瞬間に、それは起こった。
 小規模ながら、相当の威力を持つであろう、竜巻のようなものに閉じ込められた。

 ジェムの魔物のカマイタチが弱だとしたら、この竜巻は紛れもなく強攻撃だ。
 渦巻く風の全てが、鋭利で巨大なギロチン並みの威力を持っている。

 だからただの竜巻ではない。
 
 その証拠に、今まで以上に透明壁スキルに負荷がかかる。
 カマイタチと違い、重さをプラスしなくては、何処に飛ばされるかわからない。

 しかもそれだけではなかった。


 バチンッ バチバチバチ――――


「って、なんか電気が発生してない?」

 風のギロチンの中に、時折バチっと火花が見える。
 断続的に、しかも規模や数を増やしながら。
 

「もしかして空気の摩擦で起こってるの? 風って言っても殆ど物体に近い性質だから、それがぶつかり合って、静電気が起きてるってわけ?」

 だとしてもかなりのエネルギーだ。
 一瞬ではなく、絶えず光が走り続けているからだ。

 これではまるで稲妻だ。
 疑似的に発生させた落雷のようだ。

 こんなものが直撃したら、感電するだけでは済まない。
 皮膚はもちろん、その中身まで焼かれるだろう。


「まあ、私はスキルのおかげで何ともないけど、アイツはそうもいかなかったみたいだね」

 私と一緒に閉じ込められた、もう一人の住人。
 まぁ私はそのジェムの魔物の巻き添えっぽいけど。
 
 そんなジェムの魔物は、圧倒的物量の風のギロチンに機動力を奪われ、それでも尚、カマイタチで堪えていたが、それもほんの数秒だった。

 一度落雷を受けたのを切っ掛けに、次の雷撃がジェムの魔物を襲った。
 感電し、硬直しているところに、次々と雷光が突き刺さった。

 その結果、


 バチンッ バチバチバチ――――


『………………』


「………とうとう感電死しちゃったみたいだね?」 

 なすがままに、数多の雷撃を受け続けたジェムの魔物は、時折ビクンビクンと体が跳ねるが、全く動く気配がない。  


「まあ、数本の雷撃ならともかく、いくら避けるのが得意でも、あれは私でも無理だって。ほぼ無限に発生するんだから、先にこっちが力尽きるよ」

 逃げようとしても風のギロチンが退路を塞ぐ。
 避けようとしても雷撃がそれを防ぐ。

 正に、行き詰まりの手詰まりの袋小路状態だ。
 逃れようと行動することでさえ、無意味に思える。


 ただし、それが――――


「ん? なんか、表皮が破れて…………」


 ――――普通の生物だったらの話だ。



「って、中からもう一体出てきたっ! もしかして脱皮したのっ!?」

 驚いた。 
 死んだと思われた残骸から、無傷なままのジェムの魔物が現れた。

 しかもそのフォルムが劇的に変化、いや、洗練されたと言ってもいい。

 8枚だった羽根は2枚に。
 6本あった手足が4本に。

 これだけ見ると『弱体化』したように見える。

 だが逆に考えれば余計なものを省いた結果だろう。
 羽根や手足の数が、強さに直結するわけではないからだ。

 その証拠に、それを補う新たなパーツが増えていた。


「…………触覚?」 

 表皮を破り、出てきた魔物の見た目はかなり人間に近い。
 しかも身長と色合いが私と似ている。

 違いがあるとすれば、頭の上の器官だ。
 毛で覆われ、枝分かれしている、蛾に似た2本の触覚だった。


「で、で雷撃を散らせてるってわけ?」

『………………』

 こんな状況下でも、私の前から離れないジェムの魔物。
 雷撃を受けたまま、2本の触角を動かし続けている。

 その様子から見ると、恐らく触角が避雷針の代わりになっているのだろう。
 片方で集め、もう片方で散らしているのだと思われる。
 

 これはもう『進化』と言っていい。
 しかも土壇場で成長した可能性もある。

 ただこの進化はある程度予期していた事。

 私は当初、このジェムの魔物からは何も感じなかった。
 今までの魔物と違い、そこまで脅威とは捉えていなかった。

 それこそが間違い。
 それこそがきっと狙いだったのだろう。

 蛾は擬態し、相手を騙し、敵を欺く。
 弱者にも強敵にも天敵にもなりすます、己が状況に合わせて。

 でも完全ではなかった。
 最初に対峙した時に、私はこの結果を予期していた。


『だからジェムの数が有り得ない数だったんだ……』

 改めて思い出す。
 最初に見た時、腕輪のジェムの数が『0』だった事を。

 今までの傾向では、ジェムの数が増えればそれだけ脅威度が増す。
 なのにこの魔物だけ『0』なんてことは有り得ないと。

 そして今はその数が『5』に増えている。
  
 これが表す意味は、この姿こそが真の姿だという事。
 ジャムの数さえも、敵を欺く道具として使ったって事。 


「まあ、そんなこと今はいいや。いつこの魔法が切れるかわからないから、さっさとアンタを倒すよ。まだ生きてると知ったら、二人がガッカリするからね」

『………………』

 マヤメとジーアは、十二分にその役割を果たした。
 表皮を破り、その正体を引き摺り出しただけでも、功労賞ものだ。

 だからここから先は私の出番。
 二人の頑張りを台無しにしない為にも、魔法が切れる前に倒す必要がある。


「さぁ、進化してどのぐらい強くなったかわからないけど、生憎、進化できるのは、アンタだけじゃないんだよね。どっちが蝶として…… いや、どっちが個として強いかハッキリさせようか」

 パサ――――

 ジェムの魔物を視界に捉えながら、自分の羽根で体を包む込む。 

 進化に必要な条件は、もう済ましてある。
 囮役と同時に、十二分にチャージが出来たから。

 なので10分以上はこの姿でいられる。

 だからそれだけあれば十分。
 何せこの能力は、なんて、生易しいものではないからだ。


==========


《表裏一体モード》

表と裏の世界の、両方の理を併せ持つ姿になる。
そこに存在はするが、第三者には触れることも認識することもできない。
自身から第三者への接触は可能。

※使用中は装備の色が変化し、一定時間ごとに薄くなる。
 解除するには装備が透明になるか、羽根を2秒纏って解除する。

使用条件
一度目の前の相手に、装備の下の装備(下着)を晒すことが第一の条件。
その晒した時間=表裏一体モードの制限時間になる。


==========

 

「さあ、時間もないことだから、速攻でケリをつけるよ」

 タンッ

 黒から灰に進化を遂げた私は、ジェムの魔物に向かい、スキルを強く蹴る。
 風のギロチンも雷撃の嵐も、何の抵抗も無しに、私の体を擦り抜けていく。

 その様はまるで、AR(仮想空間)のようだ。
 デジタルで浮かび上がった物体を、擦り抜けているようだ。


 ところがその時――――


「え?」


 異変が起こった。
 ジェムの魔物を目の前にして、景色が一変した。 


「って、ここは?…………」

 キョロキョロと周りを見渡す。
 
 アシの森の上空なのは間違いない。 
 だが、ジェムの魔物もマヤメたちも、この付近には見当たらなかった。

 

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