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第13蝶 影の少女の解放と創造主
カゲカゲと澄香の警告
しおりを挟む※マヤメ視点
『ん、まだエナジーが? それとカゲカゲが空に?』
私の影から飛び出し、空に飛んで行った黒い影。
徐々に姿を変化させながら、私の元から離れて行った。
あれは3本目のククリナイフを使用して、私の影から出来た影だ。
エナジーを分け与えて生み出した、実体のある影の絵だ。
『ん、なんでここを離れた?』
目の前の魔物には目もくれず、一足飛びに空へと向かっていった。
そんな影の姿を目で追い、その行動に疑問を感じた。
――――
ククリナイフ参【影絵式】
エナジーが集まる丹田(腹部)に刺すことで、自身の影にエナジーを分け与え、影の絵を作ることができる。
敵対するものを自動で追い、自動で偵察or攻撃を仕掛ける。
ダメージを受けるとエナジーを消費し、全てなくなると消滅する。
戦闘力は低いが、自身の動きを影絵のように真似る事ができる。
形状は自在に変化できる(その分エナジーが必要)
専用ゴーグル装着で、視界の共有も可能。
※追記事項
マヤメは影絵の事を『カゲカゲ』と呼ぶ。
――――
『ん? もしかして――――』
ゆっくりと目を閉じ、周囲の情報を遮断する。
傷の痛みも忘れるぐらいに、深く深く息を吸い込む。
パチ
「――――ん、やっぱり誰もいない。エナジーも取られてない」
目を開けると空ではなく、地上に降りていることがわかった。
私を襲った、澄香似た何かも消え、右腕の痛みも引いていった。
「さっきのは幻覚? ならカゲカゲは?」
右腕を押さえていたマフラーを緩め、すぐさま空を見上げ、影絵が飛んで行った方向に視線を巡らす。
「ん、…………いたっ!」
ヒラヒラと覚束ない動きで飛んではいるが、ある方向に向かって飛んでいる。
そして移動しながら、その姿を徐々に変化させている。
「カゲカゲは、精気や魔力で敵を判別する。だからあっちが本物」
頼りない動きではあるが、一直線にジェムの魔物に向かっているようだ。
今は速度や動きが緩慢だが、変化が終わればそれも解消される。
――――――――
※スミカ視点
「な、なに? この黒いの」
フワフワと私とジェムの魔物の間に入ってきた、黒く薄っぺらな影。
空気の刃を物ともせず、ジェムの魔物との距離を詰めていく。
「あ、薄いから当たらないって事? にしても誰かに似てるような?」
こっちに向かってきた当初は、黒い何かの塊だった。
ところが、今はある姿に形を変え、空気の刃を躱し続けている。
「――――マヤメだ。あの髪型とマフラーと、あの胸…… ナイフは」
特徴的な部分を見付けて、この影がマヤメだと判断する。
しかも不思議なのが、紙から切り取ったようなペラペラな絵に見えて、横向きになると横向きの影、正面を向けば正面の影になる。
「ああ、これって影絵みたいなもの? って事はマヤメは無事だったんだね」
地上に目を向けると、こっちを見ているマヤメと目が合う。
そんなマヤメは軽く目を伏せた後で、あの影に視線を戻した。
「これが何なのかわからないけど、どうやらマヤメは幻覚から覚めたみたいだね。押さえていた右腕もなんともないみたいだし。ならもう少し――――」
見守ることに決めた。
いや、そんな上から目線の話ではなく、単純に見てみたいと思った。
あそこまで真剣な眼をしたマヤメも稀だし、ジーアの動きも気になる。
「それと二人のやる事も、もちろんそうなんだけど、それよりも少し気になるのは――――」
私より上空にいるジェムの魔物に視線を向ける。
そんなジェムの魔物は、突如割って入ってきたマヤメの影も意に介さず、
ガ、ガガガガ、キキキキキ―――― ンッ!
馬鹿の一つ覚えのように、機械的にカマイタチを放つだけだった。
そんなジェムの魔物の行動に、再度違和感を覚える。
「…………いや、これは違和感じゃないな。このジェムの魔物からは何も感じないんだ。今まで戦ってきたジェムの魔物たちのようなものを」
威圧感や畏怖といった、そういった脅威を感じない。
厄介な能力を持ってはいるが、ただそれだけだった。
「あともう一つ気掛かりなのが、なんでマヤメだけ幻覚にかかってたかだよね? 直ぐに解けたから、そこまで強力なものではなさそうだけど」
鱗粉にその効果があるのなら、最初からジーアにも影響があったはず。
だと言うのに、さっきはマヤメだけにかかっていた。
因みに私はこの装備の効果で、そういった類のものは殆ど効かない。
ちょっとしたステータス異常なら、装備を脱いでも耐性を持っている。
「まぁ、もしかしたら鱗粉に指向性があるって線もあるけど、仮にそうじゃないとしたら? いや、そもそも鱗粉って線も不確かだよね? だったら――――」
能力だけならそこまで脅威を感じなかった。
だが、なまじ地味な攻撃や能力だからこそ、そこに異質や異様と言った、良く分からない気味の悪さを感じた。
――――――
※マヤメ視点
「ん」
ザッ
タタタタンッ!
近場に合った高い木を見付け、その先端の太い枝に駆け上がり、影絵を視界に入れる。
「ん」
数秒目を離してしまったが、どうやらダメージを受けてはいないようだ。
今はカマイタチの範囲から抜け出し、背後に回り込んでいる。
「ん、ここで仕掛ける。澄香に敵意が向いてるうちに」
スチャ
今が好機だと判断し、影絵式専用のゴーグルを装着し、ククリナイフ参を握る。
影絵と私の動きは直結している。
写し鏡のように、私の動きがそのまま影絵の動きとなる。
だから近づくことなく、遠方からでも攻撃が出来る。
それと戦況を俯瞰的に視えるので、相手の動きや癖を観察できる。
しかも専用ゴーグルを使えば、視界を共有することも可能だ。
現代風に言えばVRゴーグルみたいなもの。
その利点は、距離という、安全地帯から仕掛けられる事だ。
「ん、今っ!」
残像が見える速さで振り続ける、8枚の羽根がゴーグル越しに視える。
そこへ、テンタクルマフラーでナイフを握り、振り下ろすが、
「マヤメっ! ジェムの魔物を見ないでっ!」
頭上から私に向かって、声高に澄香が叫ぶ。
「んっ! なぜっ!」
「またあの幻惑にかかるよっ! そのゴーグルで見てるんだよね?」
「ん」
「なら外した方がいいよっ! 念の為、視界にも入れないでっ!」
「んっ! なんで?」
魔物と私の距離は、さっきよりもかなり開いてる。
だからここは比較的安全だと判断したのに、なぜ?
「私たちはずっと勘違いしてたんだよ。アイツは蝶の魔物なんかじゃなく、『蛾』の魔物だったんだよ。正確には、その両方の特性を併せ持つ、ハイブリットな魔物だと思うけど」
「ん? はいぶりっと?」
そう説明しながらも、平然とジェムの魔物に目を向ける澄香。
その矛盾した行動に、更に訳が分からなくなる。
『ん、でも澄香が言うなら』
間違いない。
戦闘に関する観察眼や知識に関しては、澄香の方が遥かに上だ。
私は澄香以上の実力者を知らない。
だから――――
「ん」
そっとゴーグルを外し、目を閉じる。
澄香の言うことはいつも正しいし、一番頼りになる。
だから私はこの人に着いていくと、強く心に決めたのだから。
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